神戸市が認知症診断を完全無料化へ。早期発見で回復できる認知症予備軍は400万人!認知症大国ニッポンはすぐそこまで!
行政による認知症支援策が各地で広がりを見せている理由
神戸市、全国で初めて認知機能の診断を完全無料に
神戸市は、2016年の9月にG7保健大臣会合が開催された際に、認知症対策などを盛り込んだ「神戸宣言」が出されました。これを踏まえ、同市では今年の4月より「神戸市認知症の人にやさしいまちづくり条例」を施行しています。
現在、同市はさらに踏み込んだ対策として、「神戸モデル」というものを打ち出しました。
これは、認知機能の検診や、精密検査にかかる費用を無料化する診断助成制度と、認知症の方を、市が加入する保険の対象者とする事故救済制度の2つが主な対策の骨子になっています。
来年の1月から開始予定となっている診断助成制度は、認知症の疑いがあるかないかのチェックをする検査と、そこで疑いがあるとされた人が受ける精密検査に助成金を出すことで、受診する方の自己負担をなくすというものです。
同じく来年の4月から開始予定となっている事故救済制度は、市が賠償責任保険に加入し、認知症と診断された市民を保険の対象者とすることで、もしも認知症の方が事故で賠償責任を負った場合に、最大で2億円までをその保険から支給するという制度です。
認知検診と精密検査のそれぞれに助成金を出す自治体は他にもありますが、ともに助成金を出すという自治体は神戸市が初めてとなります。
認知症高齢者、50年後は「3人に1人」か
今年の8月に小池百合子東京都知事が、認知症の早期発見を促すため、認知症診断を無料にする方針を明らかにしたほか、認知症の方が起こした事故の損害賠償責任を保険で補償する制度を導入した神奈川県大和市など、認知症の対策を打ち出している自治体は多く存在しています。

こうした背景にあるのは、高齢化社会の中、認知症有症者が今後も増え続けていくという見通しです。
政府が発行する「高齢社会白書」の2017年度版によれば、2012年の時点では65歳以上の高齢者の7人に1人が認知症有症者であるとされていましたが、2025年には5人に1人が、2060年では3人に1人が認知症有症者になるという推計があるとされています。
加えて、認知症の前段階とされる軽度認知障害であるとされる人も、400万人ほどいるのではないかという推計も存在しているため、日本全体でこうした対策を取る必要に迫られているのです。
現在、認知症を完全に治療する方法の確立がされない中、誰でも発病する可能性があるうえ、年齢が上がれば上がるほど発病率が上がるという認知症は、高齢化が進む日本で避けることができない問題だと言うことができるでしょう。
認知症の早期発見がもたらすメリットとは?
早期発見のメリット1――400万人の認知症予備軍を救う
先に触れたように、現在の日本には認知症の前段階とされる「軽度認知障害」(MCI: Mild Cognitive Impairment)と呼ばれる段階にいる人が400万人ほどいると推計されています。
この状態の定義はまだはっきりと定められているわけではありませんが、認知症ではなく、全般的な認知機能は正常で、日常生活に問題はないものの、家族や本人から、年齢や教育レベルでは説明できない記憶障害が存在しているという訴えがあるというのが、共通する判断基準となっています。
加齢による物忘れと、このMCIによる記憶障害は区別がつきにくいですが、起きた内容について一部を忘れるのが加齢による物忘れで、起きた内容そのものを忘れるのが認知症やMCIの物忘れというのが両者の違いです。
MCIになると、5年間で約40%の人が認知症へ進行するとされていますが、認知症とは異なり、MCIは適切な治療を行うことで症状が回復、もしくは症状の緩和、進行の抑制などができると言われています。
この段階で症状を発見し、適切な治療を受けることが非常に重要だと言えるでしょう。先に挙げた神戸市では、高齢者42万人のうち、MCIを患っている方は5.5万人ほどいるとされており、この段階での治療で全体の8分の1を救うことができるとされています。
早期発見のメリット2――介護給付費を削減する
日本では現在、介護保険制度における介護給付費用と保険料が年々上昇しています。
第1期とされる2000~2002年度では、保険料が全国平均で2,911円、介護給付費が3.6兆円~5.2兆円となっていましたが、第6期である2015~2017年度では、保険料の全国平均が5,514円となり、介護給付費が10.1兆円~10.8兆円と、双方ともにほぼ倍となっています。

こうした上昇の理由の一つに、高齢者が増加する中で、認知症を始めとした対策費用が増加しているというものがあります。とはいえ、高齢者が増加することを防ぐことはできませんし、前述したように、認知症は誰でもなり得ます。
そのため、介護給付費を削減するのに最も効果的な方法は、MCIの時点で症状を発見して適切な治療を受けることで、認知症になることを予防することができるのです。
これは介護保険という仕組みの負担だけの話ではなく、もちろん家庭における負担という面においても同じことです。
認知症になった場合の費用と、検査などを受けて予防をする費用では、結果として後者の方が安くなることがほとんどです。また認知症が進行すればするほど、介護や治療にかかる費用が高くなるという点を見ても、予防する努力が重要だと言えるでしょう。
介護現場と国の政策、認知症対策にはまだ課題が
認知症ケアの現場、人材確保が急務に
現在、認知症対策は、自治体だけではなく、行政や介護現場においても重点的に取り組まれているトピックの1つです。

行政面では、介護士業界の人材不足を解消するために、昨年の9月に介護という在留資格の創設を行い、日本の専門学校や大学で介護を学び、国家資格を取得した外国人が介護業界に携わることで日本に在留できるようにしました。
その結果、昨年末は18人だったこの在留資格での滞在が、6月末には既に177人と、半年でおよそ10倍に増加しており、今後の介護現場では、外国人の介護士が大幅に増えていくとみられているのです。
こうした外国人介護士に対し、言語や習慣、文化の違いによるコミュニケーション不足などの問題があることも指摘されており、その部分の解決策を見出すことが今後の課題としなっています。
しかし、介護現場において理想の認知症ケアに取り組むために、外国人の受け入れをはじめとした介護人材の確保は急務です。
従来の身体的な介護だけではなく、認知症の方と信頼関係を築きながら、症状を進行させないような環境づくりや、自立支援につながる介護において人材が不足していては満足の行くケアは到底できないのです。
「新オレンジプラン」を知っている人はわずか6%弱…
認知症の問題は、世間一般にも周知されつつあります。
日本医師会総合政策研究機構が、太陽生命保険が行ったアンケートを分析した意識調査の結果では、「認知症についての考え」という複数回答可能なトピックに対し、40~70歳代の中高年層の66.2%から「早期に発見することが大切」、59.3%から「認知症は治療によって症状の進行を抑え、改善することができる」という回答が寄せられました。
このことからも、認知症についての知識や、治療に関する情報収集に前向きな方が多いと考えられます。
しかし、同じ意識調査の中では、政府が掲げる認知症対策である新オレンジプランの認知割合は、「内容まで知っている」が1.2%、「何となく知っている」が4.6%と、合計がわずか5.8%にとどまるなど、政府が行っている施策についての認知度は非常に低いのが現状です。
国民の多くが関心を持つこうした認知症の対策として導入された施策も、国民が知らなければ利用できず、無意味となってしまいます。
こうした施策により受けられる無料検診やその他のサポートを国民が知り、一人ひとりが積極的に認知症の予防を行える社会を目指すためにも、政府はこうした施策の認知度をもっと上げるための策が必要だと言えるでしょう。
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2020年9月7日 制定