高齢者の行方不明対策に全国の自治体が動き出した
「GPS端末で見守り」長野県大町市と電線メーカーが協定
10月10日、長野県大町市と電線大手の「フジクラ」(東京)が、認知症や一人暮らしの高齢者を見守る実証実験を行うための協定を結びました。
実験内容は、同市に住んでいる80代の高齢者、3人の靴にGPS機能を持つ専用端末を取り付けて、現在地を閲覧していくというものです。実用化に向けてデータを収集し、問題点を把握することが目的です。
専用端末を取り付けた3人の靴からは、所在地などの情報が4分間ごとにサーバーに送信され、ホームページ上で家族や市の担当者が閲覧できます。
今回対象となった3名は12月には実験を終了し、課題などを明確化したうえで、その後もさらに別の実験を続けていく予定です。
長野県の推計によると、大町市は高齢化率が37.5%と県内19市で最も高く、同市は高齢化対策の一環として、ICT(情報通信技術)の活用を考えたと説明しています。
フジクラは、既に鹿児島県肝付町で同様の実験を行っており、自治体と連携して取り組むのはこれが2例目です。
検索アプリを開発も登録者はわずか11人…
青森県むつ市では、スマホアプリを使った高齢者の見守りシステムを今年12月から導入する予定で、10月2日には模擬訓練が行われました。

具体的には、対象となる高齢者に500円玉ほどの発信機を渡し、もし行方不明になった場合、専用アプリを入れたスマホを持ち歩いている人がすれ違うと自動的に電波を受信します。
高齢者の家族のスマホで、電波受信の場所と時間を確認できるようになるというシステムです。
2日に行われた訓練では、80歳の女性が行方不明になったという想定で行われ、警察官、専用アプリの入ったスマホを持つ市職員など35人が参加。
捜索が始まると、家族役のもとに行方不明者の居場所に関する情報が次々と入り、開始からわずか16分で行方不明者役が発見されました。
専門家は、行方不明者の居場所がある程度わかり、人を集中的に動員したことで、早期発見につながったとシステムを高く評価しています。
ただ、むつ市が行っている「おかえりネット(行方不明になる恐れがある認知症の方の身体的特徴や写真を登録するシステム)」に登録しているのは、今年8月時点で2,777人いると推定される同市の認知症有症者のうち、わずか11人です。
このままだと発信機が配布されるのは11人のみとなり、さらなる普及・啓発活動が必要だと言えます。
こうした最新技術を使って高齢の行方不明者を探すシステムの構築は、大町市やむつ市をはじめ全国的な広がりを見せています。なぜ今、これほど多くの自治体で取り組みが進められているのでしょうか。
超高齢社会を揺るがす問題「認知症行方不明者」の現在
認知症の行方不明者は年間1万5,000人以上!
全国の自治体が、行方不明の高齢者を探索するシステムの構築を急いでいる背景にあるのが、年々増え続ける「認知症行方不明者」の増加です。

警察庁によれば、2017年に全国で行方不明になった認知症高齢者の数は、2016年からさらに431人増えて1万5,863人(男性が8,851人、女性が7,012人)となり、2012年から5年連続で増え続けています。
なお、これまで把握されている行方不明者の総数は8万4,850人。
そのうち失踪理由が「家族関係」のケースが約1万4,846人(17.5%)、「疾病関係」のケースが2万2,162人(26.1%)で、「認知症またはその疑いによるもの」のケースは1万5,863人(18.7%)となっています。
行方不明になった原因で最も多かったのは、20代と30代では「事業職業関係」、10代では「家庭関係」でしたが、80歳以上では「認知症」となっています。
行方不明となった高齢者の多くに認知症の疑いがあり、認知症またはその疑いによる行方不明者の数は、2013年に比べて5,000人以上も増加しているという状況です。
将来的に高齢化がさらに進んでいく現状を考えると、認知症に起因する行方不明者はさらに増加し、問題は深刻化していくとも考えられます。
徘徊による事故で家族が賠償責任を問われた事例も
認知症高齢者が徘徊によって行方不明になり、そのまま事故に遭うケースも少なくありません。2014年には徘徊中の高齢者が列車にはねられ、監督不十分として家族が賠償責任を問われるという裁判も起こっています。
認知症高齢者の徘徊をめぐっては、行方不明になること自体に加えて、行方不明中に直面する交通事故などの問題も深刻化しているのが現状です。いったん行方不明者が出ると、多くの警察官や警察犬が出動することになり、警察も対応に苦慮しています。
高齢行方不明者の探索を容易にし、行方不明中に起こり得る事故を未然に防ぐためにも、GPS機器などを使った行方不明者探索システムの普及が必須になりつつあると言えるでしょう。
一部の自治体では既に成果も出ており、例えば認知症高齢者の対策に力を入れている群馬県高崎市では、GPS機器を無料で貸し出す取り組みを2015年10月から始めており、2018年3月までに417件の救済事案を達成しています。
GPSによる早期発見が高齢者の命を守る
本人の同意なく監視するのは人権侵害との声も
GPSのメリットは、365日24時間いつでも対応できる点と、広範囲に渡る高い探索力にあります。警察など関係者による探索の手間を省くことができるのは、大きなメリットです。
しかし、その一方でデメリットもあります。その1つが、GPS機能のついた機器を外出時に必ず持ち歩く必要があるということです。認知症を発症すると、「持ち歩いて下さい」と言っても、そのことを忘れてしまう場合が少なくありません。
持ち歩きやすいようにGPS機能がついたキーホルダー、携帯電話、杖などがありますが、いずれも外出時に必ず持参するとは限りません。靴にGPS機能をつけるなど、「必ず身につける状況」を作る取り組みも増えてきています。
また本人の同意なくGPS機器を身につけてもらうことは、人権侵害に当たると指摘する専門家もいます。認知症の方がどこにいるかを周囲の人間はすべて把握できてしまうため、プライバシーの侵害にあたるというわけです。
行方不明者対策としてGPSを活用・導入する際は、こうしたデメリットがあることも考慮せねばなりません。
徘徊後24時間以内に発見しないと「命の危機」が!
認知症行方不明者の発見が遅れる原因の1つに、家族が認知症の状態にある家庭内の高齢者に対して持つ「恥」の意識があります。
家族がご近所・地域社会に「認知症の人がいる」ことを知られたくないために、行方不明後の探索を家族だけで行ってしまい、その結果手遅れになるケースも多いのです。

そのような事態を防ぐためには、やはり地域との連携が大切です。事前に認知症の家族がいることを知らせ、徘徊が起こりやすいタイミングを伝えておくなど、早期発見の工夫をしておくことが大事です。
米国アルツハイマー病・認知症ジャーナルには、徘徊後24時間以内に発見しないと、徘徊者の約46%が死亡するとの研究データも掲載されています。
また、交通事故による死者数は減少傾向にある一方で、65歳以上の高齢者が占める割合は年々高くなっています。
2012年の1年間に起きた交通事故による死者は約4,400人。
そのうち、65歳以上が約半数となっており過去最悪の割合を占めています。
徘徊者を早期発見できる体制を作ることは、単なる高齢者対策ではなく、命を守る対策にもなります。
全国の自治体には、GPSを活用した対策整備が早急に求められます。
今回は高齢者の徘徊の問題とそれに対するGPS機器を使った対策について取り上げました。認知症有症者数は毎年増加しています。徘徊・行方不明者対策の重要性は、今後ますます高まっていくでしょう。
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2020年9月7日 制定