2025年に介護職員不足が浮き彫りに⁉重労働・低賃金の現状で人材確保は叶うのか

厚生労働省は、6月24日、2025年度に介護職員が全国で約38万人不足するという推計を発表しました。2025年といえば団塊の世代が75歳以上になる年。要介護者の数も相当な数に上ることが予測されると考えると、それは大きな衝撃でした。
しかも、今年の2月に約33万人の介護職員が不足するという暫定値の公表がされたばかりにもかかわらず、さらに5万人増えた数値が発表されたため、なおさら超高齢社会の介護に対する不安が広がっています。
2025年度には介護サービスの利用者が増えて推計で253万人の介護職員が必要になりますが、今の増員のペースのままでは215万2000人しか人員を確保できない見通しです。
介護職員が必要な人数に対して、実際に何人が働くことができるのかという充足率の発表をみると、2年後の2017年度が94%で、早くも6%にあたる約12万人が足りなくなります。
その後、年を追うごとに低下していき、2020年には91.1%で約20万人の不足、そして2025年には85%にまで低下し、約38万人の介護職員が不足すると推計されています。
2017年度 | 2020年度 | 2025年度 | |
---|---|---|---|
需要見込み | 207万8300人 | 225万6854人 | 252万9743人 |
供給見込み | 195万3627人 | 205万6654人 | 215万2379人 |
充足率 | 94.0% | 91.1% | 85.1% |
不足する介護職員の数 | 12万4673人 | 20万200人 | 37万7364人 |
介護職の人材不足は「2025年問題」の象徴!?すべての都道府県で人材難に
充足率最低は宮城県で唯一の7割以下。群馬、埼玉、栃木など関東圏で軒並み不足
厚生労働者が発表した2025年の介護職員不足の推測を都道府県別にみると、充足率が最も低くなるのは宮城県の69%で、全国で唯一、7割を切るまで不足すると推計されています。
これは東日本大震災の復興に多くの労働力が向けられ、人材の確保が難しいとみられた数値と思われます。
次いで、群馬県が73.5%、埼玉県が77.4%、栃木県が78.1%、茨城県が80.1%と、関東エリアに介護職員の不足が集中すると推計されています。
需要見込み (人) |
供給見込み (人) |
不足数 (人) |
充足率 | ||
---|---|---|---|---|---|
1 | 宮城県 | 45,532 | 31,396 | 14,136 | 69.0% |
2 | 群馬県 | 43,806 | 32,205 | 11,601 | 73.5% |
3 | 埼玉県 | 121,352 | 93,882 | 27,470 | 77.4% |
4 | 栃木県 | 31,293 | 24,428 | 6,865 | 78.1% |
5 | 茨城県 | 50,807 | 40,673 | 10,134 | 80.1% |
6 | 千葉県 | 115,272 | 92,517 | 22,755 | 80.3% |
6 | 沖縄県 | 22,039 | 17,696 | 4,343 | 80.3% |
8 | 兵庫県 | 117,817 | 95,314 | 22,503 | 80.9% |
9 | 愛知県 | 131,852 | 107,461 | 24,391 | 81.5% |
10 | 長野県 | 46,339 | 37,948 | 8,391 | 81.9% |
11 | 富山県 | 21,721 | 17,810 | 3,911 | 82.0% |
11 | 岐阜県 | 39,559 | 32,441 | 7,118 | 82.0% |
13 | 宮崎県 | 24,852 | 20,528 | 4,324 | 82.6% |
14 | 和歌山県 | 25,162 | 20,975 | 4,187 | 83.4% |
15 | 岩手県 | 29,775 | 24,851 | 4,924 | 83.5% |
16 | 福島県 | 38,306 | 32,149 | 6,157 | 83.9% |
17 | 大阪府 | 219,190 | 185,324 | 33,866 | 84.5% |
18 | 山形県 | 22,489 | 19,128 | 3,361 | 85.1% |
19 | 東京都 | 243,701 | 207,950 | 35,751 | 85.3% |
20 | 奈良県 | 31,019 | 26,521 | 4,498 | 85.5% |
21 | 岡山県 | 39,490 | 33,789 | 5,701 | 85.6% |
22 | 福井県 | 12,458 | 10,686 | 1,772 | 85.8% |
23 | 滋賀県 | 24,674 | 21,202 | 3,472 | 85.9% |
24 | 神奈川県 | 182,643 | 157,942 | 24,701 | 86.5% |
25 | 静岡県 | 65,077 | 56,575 | 8,502 | 86.9% |
25 | 京都府 | 51,940 | 45,129 | 6,811 | 86.9% |
27 | 香川県 | 18,940 | 16,593 | 2,347 | 87.6% |
28 | 石川県 | 22,158 | 19,543 | 2,615 | 88.2% |
28 | 広島県 | 58,970 | 52,021 | 6,949 | 88.2% |
30 | 山口県 | 33,191 | 29,411 | 3,780 | 88.6% |
31 | 北海道 | 109,903 | 97,580 | 12,323 | 88.8% |
31 | 山梨県 | 15,364 | 13,647 | 1,717 | 88.8% |
33 | 福岡県 | 94,314 | 84,257 | 10,057 | 89.3% |
34 | 秋田県 | 26,018 | 23,275 | 2,743 | 89.5% |
35 | 愛媛県 | 35,808 | 32,170 | 3,638 | 89.8% |
36 | 三重県 | 36,573 | 32,969 | 3,604 | 90.1% |
37 | 新潟県 | 49,317 | 44,622 | 4,695 | 90.5% |
38 | 徳島県 | 15,538 | 14,256 | 1,282 | 91.7% |
39 | 鳥取県 | 11,541 | 10,634 | 907 | 92.1% |
40 | 高知県 | 15,644 | 14,743 | 901 | 94.2% |
41 | 長崎県 | 30,382 | 28,815 | 1,567 | 94.8% |
41 | 大分県 | 23,401 | 22,186 | 1,215 | 94.8% |
43 | 青森県 | 32,218 | 30,811 | 1,407 | 95.6% |
43 | 熊本県 | 34,954 | 33,420 | 1,534 | 95.6% |
45 | 鹿児島県 | 35,197 | 33,690 | 1,507 | 95.7% |
46 | 佐賀県 | 15,037 | 14,432 | 605 | 96.0% |
47 | 島根県 | 17,110 | 16,784 | 326 | 98.1% |
合計 | 2,529,743 | 2,152,379 | 377,364 | 85.1% |
東京都の2025年の充足率は85.3%と、全国平均の85.1%を上回ってはいますが、不足の人数でみると、需要見込みの24万3701人に対して、20万7950人の供給見込み。
東京都における需給ギャップ=不足すると見られる介護職員の数の3万5751人は人数ベースでは全国トップです。
また、神奈川県の2017年の充足率では100.9%という充足した数値が見込まれていますが、2025年の充足率は86.5%と大きく低下してしまいます。
関西に目を向けると、大阪府も2017年は98.1%という充足率ですが、2025年になると84.5%まで大きく低下することが推測され、需給ギャップ3万3866人は東京に次いで全国2位の数字です。
このように、介護職員不足は大都市、特に関東で陥ることが危惧されます。
一方、2025年の介護職員の充足率上位3県は、島根県(98.1%)、佐賀県(96%)、鹿児島県(95.7%)ですが、いずれも充足率100%を切った推計であり、介護職員が全都道府県で不足することが示されています。
介護事業等の月給を全産業平均と比べると10万円近くの差が…安月給が人材確保に立ちはだかる!?
重労働で低賃金の介護職員の現状 若者離れも深刻
介護職員の数は、介護保険制度が施工された2000年度の55万人から年々増え続け、2013年には171万人に、つまり、13年間で約3倍にも増加しています。しかし、それでも介護職員の数は足りません。

今後、介護のニーズはさらに高まっていき、認知症患者やひとり暮らしの高齢者世帯が増えてくると、より専門的で、質の高い介護の人材が求められるようになります。
しかし、今後10年間で、15歳以上65歳以上の生産年齢人口はさらに減少していきます。
日本の働く人口そのものが減少していくなかで、介護職員をどうやって確保していくのでしょうか? 景気が好転すれば、年々増加し続けてきた今の介護職員たちでさえ、より高給を得られる他産業に流れていく恐れさえあります。
そして一番の問題は、介護は仕事の難しさ、過酷さに比べて給料が思うように上がらないことです。
男女計 | ||||
---|---|---|---|---|
平均年齢(歳) | 勤続年数(年) | 現金給与額(千円) | ||
産業別 | 産業計 | 41.5 | 11.9 | 323.8 |
医療・福祉 | 39.7 | 8.0 | 295.9 | |
社会保険・社会福祉・介護事業 | 40.0 | 7.1 | 239.5 | |
サービス業 | 43.6 | 8.5 | 278.0 |
厚生労働省の賃金構造基本統計調査によると、全産業の月平均の現金給与額が32万3800円に対して、社会保険・社会福祉・介護事業では23万9500円となっており、10万円近い隔たりがあるのが現状です。
収入の差が開いているのは、勤続年数に差があることも大きな理由と見られています。
全産業の勤続年数の平均が11.9年に対して、福祉施設介護員は平均で7.1年、ホームヘルパーは5年1か月。
勤続年数の短さは、介護職員やホームヘルパーの離職率の高さも示しています。
厚生労働省管轄の公益財団法人「介護労働安定センター」が発表した調査によると、2013年度の産業全体の離職率が15.6%に対して、介護職員の離職率は16.6%です。
高い離職率で知られる介護の仕事ですが、近年は、勤務体制や待遇を見直す一部の事業所や介護施設の努力もあって離職率は全産業の平均と差がなくなりつつあります。しかし、若者の介護離れは進んでいて、どこの介護施設や事業者も新卒者の採用が難しくなっています。
厚生労働省がまとめた「総合的な確保方策」で人材の確保は実現するのか?

厚生労働省は38万人の介護職員が不足すると見込まれる需要のギャップを埋めるため、「総合的な確保方策」を策定しました。これは、「参入促進」、「労働環境・処遇の改善」、「資質の向上」の三つを柱とした施策です。
「参入促進」は、人材のすそ野を拡げるため、多様な人材の参入促進をはかるというもの。地域志向型の若者の掘り起しの強化、中高年齢者の地域ボランティア参画などが掲げられています。
「労働環境・処遇の改善」は、キャリアパスを構築するための道をつくり、長く働き続けるための定着促進をはかるというもの。資格を取得するための支援、離職した介護福祉士の届出制度の創設と再就業支援対策の強化などがか掲げられています。
「資質の向上」は、継続的な質の向上を促しながら、人材の機能分化を進めるというもの。
介護福祉士の資格取得方法の見直しによる資質の向上、マネジメントな医療的なケア・認知症ケアなどの研修の受講支援などが掲げられています。
専門的な知識を有する人材に資格を与え、それに応じて収入も上げていこうという考えです。

国は介護職員の人材確保のため、2015年度は90億円の予算を投じます。「労働環境・処遇の改善」の施策の一つに挙げている介護人材1人あたり月額1万2000円相当の賃金改善に関しては、今年の4月から実行されています。
しかし、それでも現金給与額は23万円程度になったにすぎません。これで若者が「介護業界で働くぞ!」と思うでしょうか?家族を養えるかも怪しい給料では誰も飛びつきません。他業種と比べて明らかな賃金の低さは否めません。
しかも、一方では事業所に支払われる介護報酬が引き下げられてしまったため、事業者に対する負担が重くなりました。
つまり、実際には賃金は上がったものの、現場での待遇面や福利厚生が低下してしまったり、勤め先の事業所が経営破たんするのでは? という不安要素も増えてしまったのです。
介護職員の賃金を上げようとすると、介護保険の負担増という問題にも直面します。果たして10年後、253万人が必要とされている介護職員が確保され、さらには、介護の施設や事業所そのものが存続できているのか疑問です。
「介護の3つの魅力の情報発信によるイメージアップ」という施策について、あなたはどう思う?

「総合的な確保方策」にはほかにも先が見えづらい疑問点があります。
社会福祉振興・試験センターが調査した「平成24年度社会福祉士・介護福祉士就労状況調査」によると、介護福祉士が「過去働いていた職場を辞めた理由」(複数回答)のトップは、「結婚、出産:育児」で31.7%を占めています。
「総合的な確保方策」では、その対策として、「事業所内保育所の運営支援による出産・育児との両立支援」が掲げられていますが、保育所そのものが慢性的に不足しているなかで、介護職員に特化した子育て支援策をどのように実践するのでしょうか?
そして、「総合的な確保方策」の主要施策のトップには、「介護の三つの魅力(楽しさ・深さ・広さ)の情報発信によるイメージアップ」と記されています。
具体的にどのような情報を発信していくのか、これだけでは表現が曖昧で、逆に施策そのものに不安さえ感じてしまいます。
介護の「楽しさ・深さ・広さ」とは何でしょうか? 介護職員の求人広告を見てみると、「月○○円以上の厚待遇」「未経験の方大歓迎」「簡単な作業です」「アットホームな職場です」「リゾートホテルのような美しい施設です」などのキャッチコピーばかりが目立ちます。
介護の仕事をきちんと説明せず、甘い言葉で人を集めようとする会社ほど、実際には慢性の人手不足で労働条件が悪く、入社しても現実とのギャップですぐに辞めてしまう傾向にあることも否めません。
それらの求人広告と同じ結果にならないように、また介護職員の離職率を再び高めないように、介護の現状と将来プランをきちんと伝えながら人材を確保・育成し、現実に収入と労働環境が改善・向上するような施策を実践して欲しいものです。
人材不足は介護の世界に限ったことではありません。
2050年には1人の若者が1人の高齢者を支えなければならないとも予測されているなかで、次世代の若者は高齢者とどのように向き合うべきなのか? 社会全体でどのように高齢者を支えていくのか、待ったなしの検証と対策が求められています。
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2020年9月7日 制定