介護職の待遇改善に繋がる評価制度が各地でスタート
全国初!岡山市が訪問介護に成功報酬導入を決定
今月、岡山市は、同市が指定を受けている在宅介護特区について、訪問介護での成功報酬制度の導入、高齢者の活躍推進をはじめとした5事業について新たに国と合意する見通しになったことを発表しました。
これは訪問介護の質を高めることで高齢者の自立を促進し、介護給付費を抑制することが狙いとされています。この中で注目を集めているのは、全国初となる訪問介護への成功報酬制度の導入です。
成功報酬制度は、訪問介護の際にリハビリの専門家が訪問介護員に同行し、介護を受ける高齢者ができる範囲での機能訓練について助言を行い、状態が改善した場合、表彰や奨励金の付与などを行うというものです。
現在の介護保険の制度では、要介護度が重くなるほど報酬が上がるという形のため、要介護度の改善を目指すための土壌作りが十分ではありませんでした。
そこに成功報酬を導入することで、高齢者の身体状況を改善しようという動きが強化され、介護保険の給付費が抑えられるほか、介護職の人々の待遇の改善につながるとされています。
この成功報酬の導入については、10月に安倍首相が未来投資会議の中で触れるなど政府も後押しをしており、各自治体からも注目を集めています。
政府が成功報酬導入を急ぐ理由
成功報酬の導入が検討されるようになった背景には、増え続ける介護給付費の問題があります。

厚労省の発表によれば介護保険制度が始まった2000年度の総費用は3.6兆円でしたが、2016年度における総費用は10.4兆円となっており、開始当初に比べるとおよそ2.9倍へと増大しています。
同じく厚労省の発表によると、2000年度では218万人だった要介護・要支援の認定者数が今年の1月時点で640万人とやはり2.9倍以上になるなど、高齢化社会の影響で、介護保険の利用者が増えているということが、介護給付期の増大の理由として大きいと言えるでしょう。
事実、岡山市では介護保険の給付費が514億円と、市の予算全体の10%にあたるほどに財政を圧迫していたといいます。
また、要支援、及び要介護2以下である比較的軽度の人の利用が65%を占めるものの、1年後の更新認定時にはそのうちの3~4割の要介護度が重度化しているという問題があります。
今後、高齢化がさらに進んでいけば、日本が深刻な財政的危機に陥ってしまう可能性も十分にあります。そうした状況を打破するために、成功報酬という制度が必要とされているのです。
職員の意欲アップ、介護度の改善などで成果が上がる
「介護現場が抱える矛盾」を解決する手立てに
先述の通り、日本の介護保険制度は1つの大きな問題を抱えています。それは、「利用者の要介護度が重くなるほどに介護報酬が高くなる」という性質です。
これは、逆に言えば、介護度が下がると報酬も下がるため、介護事業者が利用者の身体的状況を軽くし、健康にすればするほど実入りが下がってしまうということになります。
こうした状況の中では、利用者の介護度を下げようという動きは出てこないばかりか、いわゆる「介護漬け」と呼ばれるような状況が生まれ、利用者の身体状況が悪化する恐れも出てくるという矛盾が生じているわけです。
そのため、現状の介護保険制度の下では、介護事業者の質の良い介護をしようとする努力が正しく評価されていません。介護保険が今後持続可能な制度として正しく利用されていくには、成功報酬を導入していくことが必要になってくると考えられます。
この成功報酬は、既に自治体によっては介護施設で実施されており、要介護度を指標とした形で運用されていますが、こうした要介護を主とした指標に限らず、排泄、床ずれなどの具体的な行為に対する能力や状態を指標にしようという動きも出てきています。
要介護4から1に改善したケースも!
成功報酬制度を既に実施している自治体においては、既にある程度の効果がもたらされたという報告も出ています。
品川区では要介護度を1下げるごとに月2万円の奨励金が出されるという施策を特養老人ホームや介護老人保健施設などで実施しています。
医療研究所が品川区の担当者に対して行ったインタビューによれば、2015年度では98名が要介護度を以前より下げることに成功し、なかには要介護4から1に軽減したケースもあったそうです。
また、介護給付金がそれ以前よりも減少しているともしています。
ほかにも川崎市では、要介護度、日常生活動作など18項目を指標とし、改善した施設には表彰や報奨金を出すとした「かわさき健幸福寿プロジェクト」を実施しています。
2016年7月から2017年6月の第1期においては、214人の参加者のうち16%弱にあたる34人の要介護度が改善する成果を上げました。

また、岡山市でも、独自の指標でデイサービス施設を評価し、指標を達成した中でも特に介護度や日常生活機能の改善度の高い施設には表彰や10万円の奨励金を出すという「デイサービス改善インセンティブ事業」を行っています。
こちらも指標を達成した事業所では、一人当たりの介護給付費の減少がみられています。
制度導入には賛否両論…成功報酬制度のメリットとデメリット
「見捨てられる高齢者」が生まれる可能性も
ここまで成功報酬制度のメリットや、運用されている現状を説明してきましたが、この制度にも問題点や懸念点はあります。
まず考えられるのは、こうした成功報酬の財源をどうするかという問題と、介護サービスに成果第一主義を持ち込むことにより、高齢で身体状況が重いなどの理由で、自立状態への改善が難しいと見られる人が、成果を出せない対象として敬遠される恐れがあるということです。
介護費抑制のための施策により、自立の難しい高齢者が見捨てられてしまうのは、まさに本末転倒と言えるでしょう。
さらに、成功とする指標自体が議論の余地を残すものであるのに加え、それが施設の介護サービスによるものなのか、あるいは入居者本人や家族の努力の結果、あるいは病院の治療によるものかが明確にならない場合が多いのも事実です。

ケアマネージャーが多く登録するウェブサイトであるケアマネジメント・オンラインが行ったアンケートによれば、介護現場に成功報酬制度を取り入れることに対して「賛成」あるいは「どちらかというと賛成」を選んだ人が44.5%に対し、「反対」あるいは「どちらかというと反対」を選んだ人が55.5%と賛成派を上回るなど、介護に携わる人々の間でも是非が分かれています。
成果だけじゃなく、プロセスも評価すべき
成功報酬制度の導入は、事業者だけではなく、現場で働く職員にもメリットがあると考えられます。
介護サービスの質に対する適正な評価を与えることで、事業者や職員の意欲を刺激するだけでなく、賃金などの面において介護業界の労働環境の改善にもつながるため、現在問題視されている人材不足や、職員の不満なども解消される可能性があります。
そのうえで質の高いサービスを提供できる施設が増えれば、サービスを利用する高齢者にとっても要介護度が改善するなどメリットがあります。
それが介護保険制度の安定化につながり、制度の破綻を防ぐことができるのです。
さらに介護現場の労働環境の改善という形で介護職員にも反映されると考えられます。
導入への懸念点もあることは確かであり、それをできる限り防ぐ方策を考えることは必要でしょう。
しかし、介護漬けの問題が発生しやすい構造が出来上がってしまい、その結果、経済的危機を招き入れているという介護保険制度の現状を打破するためには、こうした成功報酬制度の導入はより重要なものになってくると予想されます。
そして「成果(結果)だけでなく、プロセスも評価するべき」などの介護職員の声を制度に反映させていくことが今後の課題です。
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2020年9月7日 制定