介護業界に10年以上勤める介護福祉士が得られる新加算を厚労省が提案!事業所間による資金格差がより顕著に…
介護職員の待遇を上げる新加算の内容は?
勤続10年以上の介護福祉士が最優先
10月31日、厚生労働省は社会保障審議会・介護給付費分科会において、来年10月の介護報酬改定の際に、介護職員の待遇を上げる手法について提案を行いました。
それによると、既にある「処遇改善加算」には変更を加えず、新たな加算を設けることで対応するとのこと。新たな加算については、勤続10年以上の職員がどれだけ勤務しているかを指標としつつ、「処遇改善加算」のようなサービス単位の加算率を設定します。
そして、新たな加算による増収分を事業所内で配分する際、勤続10年以上の介護福祉士を優先するルールを盛り込むことも提起されました。なお、今回の新加算は介護福祉士がいない居宅介護支援や訪問看護は対象外となります。
介護職員の賃上げを行う目的は、人手不足が続く介護分野における人材の確保です。働き続けても給料が上がらない現状を改善することでキャリアアップの道筋をわかりやすくし、「介護職に就く人を増やす」「離職を防ぐ」ことを狙いとしています。
厚生労働省によると、介護職における有効求人倍率は年々上昇しており、3年前は1.86倍だったのが、2016年には3.02倍に。事業所が求人募集を行っても応募がとれない"売り手市場"が顕著となっており、早急な事態改善が望まれます。

今回の賃上げは介護職員以外(栄養士や看護師など)も対象とはされていますが、あくまで介護職の不足解消を目標としているため、優先順位は低め。
賃上げ分の財源は、消費税率が10%に引き上げられたことで確保される財源が充てられる予定です。
毎年かかる費用2,000億円のうち、公費負担が1,000億円、もう1,000億円は40歳以上が納付する保険料と介護サービス利用者の自己負担でまかなわれます。
「介護業界」で10年以上働いている介護福祉士も対象に?
厚生労働省は31日の会議で、豊富な経験・技能を持つ熟練の介護職に重点をおいた賃上げをしたいとの考えを改めて主張。
柔軟な運用を一部認めるものの、「勤続10年以上の介護福祉士」に最も力を入れる予定で、次に優先するのは「勤続10年に満たない一般の介護職員」であり、「他職種」は3番目、というプライオリティのルールを明確化しています。
他職種ではなく一般の介護職員が2番目とされているのは、本来の目的である「介護人材の確保」の効果をより高めるためです。
さらに今回、「勤続10年以上の介護福祉士」の範囲について、各事業者が柔軟に捉えられるようにすることも検討されました。ひとつの法人に勤続している介護士だけでなく、介護「業界」で10年働いている人も対象にすべきとの意見が多く出されたのです。
ただ、職歴を証明することの難しさや、技術面での壁もあるため、今後さらに内容を詰めていく必要があるでしょう。あくまで「1つの法人で10年以上勤続する介護福祉士」を基本的な対象としつつ、一定の例外を認める形にするのが有力であるとの見方もされています。
加算対象が業界10年となった影響は大きい
当初は勤続10年の介護福祉士しか得られなかった
昨年末、介護分野の人材不足解消を目的として「同一の運営会社に対して勤続10年以上の介護福祉士に、平均で月額8万円相当の賃上げを行う」ことが閣議決定されました。
しかし、この政策における問題点のひとつとして指摘されていたのが、10年も勤続している介護福祉士がそもそも少ないということです。
厚生労働省のデータによれば、介護福祉士の勤続年数は平均で「6年」。
賃上げの条件を勤続10年以上にすると、介護福祉士の多くが対象から外れてしまうのです。

勤続10年を目指そうとする意欲を高めるので、離職を引き止める効果はある程度期待できるものの、新規の介護福祉士を増やし、潜在的な介護福祉士(※資格は取得したが従事していない介護福祉士を指す)を職場復帰させるだけの魅力に欠ける内容であったと言えます。
しかし今回の新加算を巡る「調整」によって、「勤続10年」だけでなく「業界10年」も支給対象となれば、潜在的な介護福祉士も含めて給料が上がるのは間違いありません。
これによって、離職防止だけでなく職場復帰を促すことにもつながるので、介護分野で働こうとする若者を新規に引き込むきっかけになるかもしれません。
背景には介護福祉士「従事者」の減少が
賃上げの議論が進められている背景にあるのが、介護福祉士「従事者」の減少です。
厚生労働省の資料によれば、2015年時点の介護福祉士の登録者数は139万8,315人(翌2016年には149万4,460人に増加)なのに対し、実際に介護福祉士として従事している人は78万2,930人で、登録者全体の約6割にすぎません。
介護福祉士試験に合格しても介護現場で働かない人は年々増え続けており、その原因として介護福祉士の待遇があまりに悪いため、現場で仕事に就くことにためらいを持つ人が増えていることが、指摘されています。
また、介護福祉士試験の受験者数自体も減少しているのが現状です。
厚生労働省のデータによれば、第30回介護福祉士試験(今年1月実施)の受験者数は9万2,654人。
昨年度よりやや増えたものの、第29回から受験資格が変更した影響もあって、全盛期(例えば2011年に行われた第23回試験の受験者数は15万4,223人)の6割ほどにとどまっています。
政府・厚生労働省は今回の賃上げ策によって、「受験者数が減少し、さらに受験して合格しても介護職として従事しない人が増えている」という状況を少しでも改善し、介護現場でリーダーとなる介護福祉士の数を増やしたいと考えているわけです。
今回の新加算により発生するマンパワーへの依存
対象者がいないと事業所の資金格差が広がる可能性
今回の新加算案では、もし他職種に対して新たな加算分を配分する場合、各職種の職員への配分額は各事業所の判断で行われます。
しかし、新規開拓した場合や、小規模の事業所などは、勤続(業界)10年以上の介護福祉士がいないことも少なくありません。
そうなると、事業所による従事者の勤続に向けた努力に関係なく、賃金格差が生じる恐れがあると言えます。
また今回の案は、加算率が「勤続年数が10年以上である介護福祉士」の「数」に着目して定められており、ベテランの介護福祉士をたくさん抱えるサービスほど、高く評価されるという仕組みです。
この仕組みに対して、31日の会議では「同じサービスでも、職員の離職防止に努力している事業所と、努力していない事業所とがある。その努力の差が考慮されず、端的に数にだけ着目して同じ評価になるのはおかしい」との異論が出されました。
これに対して厚生労働省は、新加算を受ける条件として、「キャリアパスあるいは研修体制を構築していること」を求めていくとのことですが、最終的にどのような内容となるのか、現在検討が続けられている状況です。
勤続年数についてはどのように計算する?
また、介護福祉士の勤務年数「10年」をどのように算定するのか、という問題もあります。
厚生労働省の資料によると、介護現場での非正規職員の割合は、施設等で39.0%、訪問介護で69.7%。
そのうち短時間労働者は、施設等で23.6%、訪問介護で57.3%に上っています。

もし「介護士」に非正規・短時間労働者も含めた場合、勤務年数の計算にはかなりの手間を要するのは確実。
それによる事務負担の増加が原因で「加算の取得率が下がる」ということになると、今回の施策効果を高めるという点では大きなハードルとなる恐れがあるでしょう。
また、事業所によっては管理職としてグループ内の別法人に出向するということも起こり得るでしょう。
もし「在籍」での出向であれば雇用関係はそのまま維持されていますが、「転籍」での出向となると、勤続年数の計算についてはどうなるのでしょうか。
「勤続年数」の算定の公平性をいかにして保つかは、今後さらに議論を重ねていくべき問題です。
今回は社会保障審議会・介護給付費分科会で議論された介護福祉士の賃上げの問題を取り上げました。31日に議論された施策はマンパワー不足を解消するためのものですが、事業所の取り組み姿勢というより、従業員自身の特性に依存するところが大きいと言えます。
事業所内での格差も含め、まだ議論を詰めるべきことは多くあります。事業者や現場従事者としては、もうしばらく先の見通せない状況が続きそうです。
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2020年9月7日 制定