高齢者の約8割が旅行に行きたいが不安があると回答!ユニバーサルツーリズムで安心できる旅行を
いまユニバーサルツーリズムに企業や自治体が注目
大手航空会社が手掛ける「介護予防チャーター便」がスタート
今月3日に、JALは介護が必要な高齢者でも安心して空の旅を満喫できる「介護予防チャーター便」を成田から大分間で初めて運行しました。
この便には、サポートを行う家族や友人のほか、看護師やサービス介助士の資格を持つ客室乗務員が乗り込むなど、万全のサポートを完備されています。
食事は薄味の和食中心の機内食。
約2時間のフライト中には、関節が固くならないように、座ったまま体操をするなどのケアも盛り込んだものとなりました。
今回のフライトが実施された「ゆったり楽しむ大分・温泉の旅」というツアーには、軽度の要介護認定を受けた67歳から92歳の男女31人の方が参加し、旅行を楽しみました。
このツアーが実現したのは、JALグループの女性社員で作る「なでしこラボ」のメンバーが、介護の現場を知るために、以前より交流を続けてきた企業「早稲田エルダリーヘルス事業団」と共同で実施したものです。
この企業は介護予防を目的とした運動プログラムを取り入れたデイサービスを展開することで知られています。

年齢とともにしばらく旅行に行く機会がなかった方も多いという参加者は、今回のツアーに高い評価を与えており、JALもこうした企画を継続してやりたいという意向を示しています。
高齢者や障碍者も参加できるユニバーサルツーリズムとは?
JALが行った前述のプランのように、高齢者や障碍者でも参加できるような旅行は、「ユニバーサルツーリズム」と呼ばれています。
もともと、高齢者や障碍者が主に参加できる旅行のことを、日本ではバリアフリーツーリズム、欧米ではアクセシブルツーリズムと呼んでいます。
リフト付きのバスや、宿泊先にバリアフリーの部屋を用意したり、人工透析が必要な方向けに、現地で人工透析を受けられる施設と契約するなど、障碍や要介護度に応じた対策を練ったツアープランを組んでいる旅行は以前より存在していました。
しかし、こうした旅はあくまでも高齢者や障害者を対象としたものでしたが、ユニバーサルツーリズムという概念はそこからさらに一歩発展し、年齢や障害の有無に関係なく、誰もが参加できる旅行を目指すものです。
高齢化が進むにしたがって、本来は旅行をしたいのに、年齢や身体状況を理由として諦めてしまう人々が増えつつあります。
こうした社会状況の中で、高齢者が家族と楽しめるような旅行、あるいは観光プランが必要性を増しており、旅行のバリアフリー化が求められるようになっているのです。
ユニバーサルツーリズムを通して福祉から観光を考える
78%の高齢者が「旅行に行きたいが不安がある」と回答
NPO団体ウィズアスが運営するユニバーサルツーリズムセンターが行ったアンケートによれば高齢者の旅行の参加意欲は、「行きたい」が17.6%、「行きたいが不安がある」が78.7%と、合計で96.3%が旅行に行きたいと考えていることがわかりました。

しかし、圧倒的に多いのは「行きたいが不安がある」と答えた人であり、高齢者は健康や身体の衰えなどから、旅行に行きたいという気持ちはあるものの、不安を抱えていることが窺えます。
具体的に詳細を見ていくと同じアンケートでは、高齢者が旅行中に困ったこととして「移動」が39.1%、「排泄」が21.7%、「入浴」が17.4%となっており、主に移動やトイレ、入浴などの行為に不安を感じているのです。
高齢者の不安への対策は「ユニバーサルツーリズム」を考えるうえで必要不可欠なものです。
高齢者の旅行の不安を解消するためには、有識者からはサポートする同行者の負担を考え、介護をされる人1人に対し同行者は2人以上必要であることや、嚥下障害への食事の配慮なども必要だという指摘がされています。
地方自治体もユニバーサルツーリズムに導入に熱意
信州型ユニバーサルツーリズムへの取り組みは、各自治体にも広がりを見せています。
長野県は特にこの取り組みに熱心であることで知られています。
「信州型ユニバーサルツーリズム」と名付けた観光の形を確立するため、信州大学と協力して、戸隠、白馬といった有名観光地にモデルコースを造成する試みを行っているほか、アウトドア用の車いすの導入支援を行うなど、積極的に行動を起こしています。
この「信州型ユニバーサルツーリズム」を長野県は“県民の温かいサポートとおもてなしの心で『山も谷も乗り越え・学ぶ』ユニバーサルツーリズム”と定義しています。
単にハード面でのバリアフリーを進めるだけでなく、山岳や高原、スキーなど、長野県特有の観光資源を旅行者に楽しんでもらえるよう、体に不自由があっても楽しむことが可能な着座式のスキーであるデュアルスキーの導入を県が補助するなど、ソフト面においても独自の特色を出そうとしているのが特徴です。
長野県はこの試みを成功させるために今後、受け入れ態勢の充実や、意識の普及などを進めていくとしており、将来的には県全体を挙げた運動にしていく意向を表明しています。今後は全国の観光地で、こうした取り組みがより一層求められます。
超高齢社会の旅行のあり方
旅行事業者が導入を躊躇するユニバーサルツーリズムの課題とは?
しかし、ユニバーサルツーリズムが普及するためには、クリアすべき障壁が多く存在しています。観光庁の調査では、ユニバーサルツーリズムに対して旅行事業者が感じている課題が多く挙げられました。
まず高齢者や障碍者への専門知識の不足から、ツアーを組むスペシャリストの絶対数が不足しているという点です。加えて、介助を行う人材の確保という面でも、介護業界自体が人手不足である以上、難易度は高いと考えられます。
また、バリアフリーの基準が曖昧となっていることから、要介護度などではどの程度の受け入れが可能なのかなど、検討するべき点が多くあります。
企画に多くの手間がかかってしまうのも難点であるとの声も上がっています。
なかでも、最も大きな課題としては、旅行事業者の利益確保が難しいという点です。
ほかにも、医療機関との連携など高齢者にとって盤石な体制を準備することが求められるなど、多くのコストがかかるものになるため、通常の旅行よりも高価なものとならざるを得ません。
しかし、介護や福祉的な側面を持っているこの事業では、コストをツアーへの参加者の負担にすることが難しく、十分な利益を出せないという意見が多く出ているのが現状です。
ツアー参加者からは「バリアフリー等への配慮」を評価する声が
今後の普及には課題もあるユニバーサルツーリズムですが、多くの人々の支持や高い評価を得ていることは事実です。
観光庁が行った調査では、ユニバーサル旅行商品を購入した人に理由を聞いたところ、「バリアフリー等への配慮」が67%と最も多く、「旅行商品の内容」が65%、「旅行商品の行程」が55%と続く結果となりました。

このうち、内容や工程に関しては、トイレ休憩を多くとったり、日程がゆったりとしていることや、身体状況に応じて内容が選べるといった、通常の旅行にはないゆとりの部分が多く評価されているようです。
また、上記のアンケートでは、ツアーの参加者から「90歳を過ぎても、旅行に行ける希望を持つことができた」「旅行が大きな目標となり、日々の生活に充実と楽しみが増した」という声も出ており、高齢者にとって旅行が身近になり多くのメリットをもたらすことがわかります。
さらに、東北大学とクラブツーリズムが行った共同研究調査は、旅行が認知症の予防、抑制に効果がある可能性を示唆。高齢化社会の中で健康維持という面においても、ユニバーサルツーリズムのもたらす効果が期待されているのです。
多くの面から注目を集めるユニバーサルツーリズム。楽しみのある明るい高齢社会の実現のためにも、より一層の普及が期待されています。
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2020年9月7日 制定