国が在宅医療を推進する一方、訪問看護ステーションの介護報酬は減額…。経営難や看護師の人手不足で医療難民が増える危険性大!?
高齢化が進むにつれ在宅医療の利用者数も上昇し、訪問看護のニーズは年々高まっています。訪問看護ステーションの新設も増加傾向にありますが、労働環境や経営の悪化で休止や廃止に追い込まれる事業所も多くなっています。
しかも、今春の介護報酬の改定で、訪問看護ステーションの介護報酬は減額となり、より厳しい条件を突き付けられた形です。
「国が推進する在宅医療の拡充とは名ばかり」と危惧する声も上がっているのが現状。そこで今回は、訪問看護師の人手不足も深刻化するなかにおける、「訪問看護」のあり方について考えてみました。
訪問看護を行う病院、診療所が減少!! これからは訪問看護ステーションが在宅患者を救う!?
訪問看護の利用者数に比例して訪問看護ステーションの数が増加!!
「訪問看護」のニーズが高まっているのは、高齢者の増加だけが引き金ではありません。国が膨らみ続ける医療費を抑制するために、急性期以外の長期入院や医学的に入院の必要がない社会的入院を減らし、早期退院を促していることも大きな要因です。
「訪問看護」の仕事は、看護師が居宅を訪問し、主治医の指示のもとで点滴、注射、胃ろう、吸引など診療面でのサポートを行ったり、医師と連携を取りながら食事や排せつの介助、健康状態の把握や助言など療養上のケアが中心になります。
在宅患者の場合、家にいながら医療、介護の両面から必要とされるサポートを受けられるのは訪問看護の強みです。訪問看護の利用者は2014年で約35万人と年々増加傾向で、訪問看護ステーションの数も2008年以降増え続けています。
その一方で、病院や診療所の訪問看護は看護師不足などの理由から、2007~2014年の8年間で1,068か所の医療機関が撤退しています。
こうした流れに国は歯止めをかけ、サービスの向上を図る目的で、2015年の介護報酬の改定し、医療機関の訪問看護の報酬は増額になりました。
ところが訪問看護ステーションの報酬は減額に。医療機関の介護報酬を上げたところで、訪問看護の質と量が改善されるのでしょうか。これでは、“改悪だ”という声が挙がるのも不思議ではありません。
訪問看護ステーションの介護報酬減を受け、在宅医療の受け皿が足りなくなる!?
経営難や人手不足から休止や廃止になった訪問看護ステーションも少なくない
訪問看護を行う医療機関が減少する反面、訪問看護ステーションの新設が顕著になっています。
新規 | 廃止 | 休止 | |
---|---|---|---|
2009年度 | 389 | 220 | 89 |
2010年度 | 383 | 213 | 98 |
2011年度 | 581 | 256 | 104 |
2012年度 | 759 | 209 | 117 |
2013年度 | 896 | 262 | 138 |
2009~20013年の過去5年間で、新たに誕生した訪問介護ステーションは3,008か所です。しかし、その陰で経営難や人手不足に陥り、廃止や休止を決めたステーションも増えています。
なかでも小規模のステーションほど休止、廃止に陥るケースが多く、これは経営者側の問題も考えられます。具体例を挙げると、経営のノウハウをもたずに、「儲かりそうだから」と素人感覚で新設するケース。
訪問看護ステーションを開くには、常勤換算で2.5人以上の看護職員(看護師、准看護師、保健師など)が必要です。しかし、看護職員の数だけ集めても、サービスの利用者が少なかったり、利用者のニーズに合ったサービスを提供できなければ元も子もありません。
訪問看護の報酬はサービスを提供してから、ふつう2~3か月後に支払われるため、看護師の給料も当分は持ち出しです。運転資金がないと経営が成り立たず、オープンから半年で閉鎖を決める事業所も多いようです。
介護報酬の減額は訪問看護ステーションの生き残りに直結する!?
今年4月から施行された「介護報酬改定」は訪問看護ステーションにとって、かなり厳しいものがありました。
看護職員の処遇は+1.65%、認知症、中重度の対応に+0.65%となりましたが、基本報酬は2%以上の引き下げとなったため、実質的に介護報酬はマイナスとなりました。
中重度の患者に対するケアが十分に行えるステーションとなれば、訪問看護師の人数も多く、24時間対応の環境が万全に整っているような、規模の大きい事業所でないと対応が難しいでしょう。
結果的に、小規模ステーションは経営悪化を招き、必要な人材を確保できなくなり、廃止や休止に追い込まれる事業所がさらに増えていくとみられます。
また、今回の基本報酬の引き下げで、理学療法士や作業療法士、言語聴覚士などを多く雇い、リハビリテーション事業に力を入れている訪問看護ステーションも相当な痛手を被っていると察します。
リハビリスタッフの基本報酬は看護職以上に減額幅が大きいために、経営にも悪影響を及ぼしかねません。国が推し進める「在宅医療」と逆行するような決断は、本末転倒と言えるかもしれません。
国民の大半が在宅療養を望んでいる! 時代の流れに適した訪問看護とは?
「最期は自宅で」…と望むものの、 日本の訪問看護は質・量ともヨーロッパの足元に及ばない!?
スウェーデン | オランダ | フランス | 日本 | ||
---|---|---|---|---|---|
平均寿命 (2005年) |
男性 | 78.4 | 77.2 | 76.7 | 78.6 |
女性 | 82.8 | 81.6 | 83.8 | 85.5 | |
子との同居率 | 5% | 8% | 17% | 50% | |
高齢者単独 世帯率 |
41% | 32.5% | 32% | 15% | |
人口千人に対する 看護師の数 |
10.6人 | 14.2人 | 7.7人 | 9.0人 | |
人口千人に対する 訪問看護師・地域看護師の数 |
4.2人 | 2.7人 | 1.2人 | 0.4人 | |
在宅死亡率 | 51.0% | 31.0% | 24.2% | 13.4% |
厚生労働省の調査によると、「自宅での療養を希望し最期は自宅で」という人たちが国民の7割に及んでいることも明らかになっています。ところが、日本の在宅死亡率は13.4%。スウェーデンの51%、オランダの30%と比較した場合、はるかに低い数字です。
在宅死亡率が高い国はそれだけ地域の包括システムが整っており、在宅医療が充実。訪問看護師の人数も日本の倍以上となっています。
今の日本で医師が各在宅患者の家を訪問し、診療を行うことは財政的にも人員的にも余裕がなく、訪問看護ステーションの力を借りずにはいられない状況です。
訪問看護師の数は増加しているものの、看護師の総数157万1,647人からみると全体の3%にも届きません。
訪問看護師の仕事は医療、介護など多面的な業務を要求される割に、待遇がいまひとつです。看護師としてスキルアップを図る点でも、最初は病棟看護師になったほうがいいと考える人も多いようです。
在宅医療のサービスの拡充に訪問看護師の確保と質の向上が最優先!!
現在でも訪問看護師の人数は足りているわけではありません。団塊の世代が75歳以上の後期高齢者になる2025年を迎えたとき、在宅医療を必要とする人たちは今以上に増えることから、訪問看護師の絶対数が不足するのは目に見えています。
こうした背景を考えると、訪問看護ステーションのニーズは高まるばかりで、今後は要介護の高い、難病、末期がんやターミナルケアなど、高度なケアが今以上に求められると推測されます。
医師と患者の橋渡しとなる訪問看護師の役割は、在宅医療を支えるうえで一段と重要になってきます。
時代のニーズに適した質の高い医療と介護サービスを提供するためにも、訪問看護師が安心して働けるような労働条件と環境を整え、必要な人材を養成していくことは急務です。
それが実現できない限り、在宅医療は拡充どころか崩壊に向かってしまうのではないでしょうか。
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2020年9月7日 制定