
2015年、日本の高齢化率(65歳以上)は過去最高の25.1%。世界でも類をみないほどの超高齢社会となっており、さらに加速を続けています。
2025年までには、後期高齢者が5年ごとに約200~300万人ずつ増加することに。団塊の世代が75歳以上の後期高齢者となる高齢化率が30%を超えることで「2025年問題」も現実味をおびてきました。
「高齢者」や「介護」という言葉が話題にのぼる時には、このような問題や「介護施設不足」「介護職員不足」「介護疲れ」「税金問題」など、マイナスの言葉とセットで話題になることが多々あります。
その一方、不景気と騒がれている現在でさえ、増え続ける高齢者に対応して増加の一途をたどる介護施設の開設状況をみて、「介護ビジネスは儲かる」という話題もあがります。
たしかに、総務省の調査によると、売上高営業利益率は8.4%と、「小売業/6.4%」「宿泊業/5.9%」「教育、学習支援業/5.2%」「娯楽業/4.7%」などと比べても高く、順調な分野であるようにも見えます。
売上高営業利益率とは、営業活動が効率的に行われたかどうかをみるための指標で、高いほど良いとされるもの。介護における8.4%という数字は、100円のコストをかけた事業に対して約8円の儲けが出るということになります。

数字の上では好況に見える介護ビジネスですが、果たして本当に「儲かる」産業なのでしょうか?
2025年には高齢者向けの市場の規模が100兆円超え。中でも成長が見込めるビジネスは?
“生活産業”が50兆円超となる予測。宅配や家事代行サービスなどに妙味あり!?
高齢者向けの市場は大きく分けて医療保険が適応される医療サービス、医療器具、医薬品などの分野の「医療・医薬産業」、介護保険が適応される在宅介護、居住系介護、介護施設などの「介護産業」、日常生活に関わる「生活産業」の3つがあります。

みずほコーポレート銀行の調査によると、2007年時点で62.9兆円であった高齢者向けの市場規模は、2025年には101.3兆円に及び、その中でも介護産業だけで15.2兆円に及ぶとされています。

高齢者向けの生活産業の市場規模も2007年の40.3兆円から2025年には51.1兆円へと成長する見通しがあり、市場規模から見ると高齢者関連ビジネスのなかではもっとも大きな市場であることがわかります。
また、高齢者向け市場のなかでも高齢者の生活に密着した生活産業の占める市場は大きく、今後も広く高齢者のニーズに対応したサービスが求められることが多くなると考えられています。
介護関連産業は、施設介護、通所型介護、訪問介護のほかにも介護用ベッドなど福祉用具の貸与、配食、その他生活支援のサービスを含めるとまだまだ幅広い産業。高齢者数の増加が確実視されているなかで、今後も成長の見込みがある産業だと見られています。
高齢者向けのメニュー、宅配、見守りサービス、家事代行などのサービスはすでに始まっていますが、高齢者の消費を促進させるためには、よりニーズに即応したサービスにする必要があると思います。
今、高齢者のニーズのキーワードは“宅配”
高齢者といっても介護が必要な高齢者ばかりではありません。アクティブシニアに向けたサービスも必要です。住み慣れた地域に継続居住をしたいというニーズもあります。また、多くのサービスの普及には、高齢者の抵抗感を緩和する必要もあると考えられます。
高齢者への認知度を高めるとともに、ニーズとサービスを成熟化させることが何よりも大切になります。

現在注目されているサービスの代表格が、高齢者向けの「お弁当宅配」です。
食材の買いに行くにも、「外出するのが大変」「近くに買い物をできる場所がない」などといった理由から「買い物難民」になっている高齢者も多いのが現実です。
そのようなバックグランドから、低カロリー、低塩分、普通食などのニーズに合わせた「お弁当宅配サービス」の利用者が増えています。
また、自炊を好む傾向にある高齢者にとって便利なサービスに、「買い物代行」「ネットスーパー」などがあります。
注文をすると、生鮮食品をはじめとした日用品を玄関先まで届けてくれるこのサービスは、足腰に不安があったり、重い物を持つのが大変な高齢者にとって便利なサービスといえます。
一方で、注文の際インターネットなどが必要なため、高齢者自身で注文するには難しいというケースがあったり、最低注文金額があるため、まとめ買いの必要があるなど、今後の改善が期待される課題もあります。
そんな中、滋賀県の「コープしが」では、そのマイナス面を利用して、新たなサービスを始めています。
インターネットを使うことが難しい高齢者の代わりに、離れて暮らす家族が注文し、その後「本人に会えた」「会えなかった」などの配達時の安否情報がメールで届くというものです。
顔なじみのスタッフが商品を届けることで、日々の様子が把握でき、「コープしが」の例のように、何か異変があった際にも対応できるため、このようなサービスがより増えていくことに期待したいものです。
ソフト面のサービスは好況が見込める一方、ハード=介護施設の運営は今後も苦境!?
2000年の介護保険法の施行以降、介護産業に参入する企業が増加したことから、訪問介護、通所介護などの事業所数は増加しています。

しかし、介護産業に参入する企業が多い一方、2015年に帝国データバンクから公表された「医療機関・老人福祉事業者の倒産動向調査」によると、老人福祉事業者の倒産は45件(負債総額77億1400万円)あり、2年連続で過去最悪の水準となっています。

介護関連の事業所が増加したことで、同業者間での競争が激化しました。
さらに2006年の改正介護保険法による介護報酬の引き下げや施設サービスにおける居住や食事などにかかる費用が、介護保険給付対象から除外されることも相まって、経営が悪化する業者が増えたのではないかとされています。
今回の調査からわかったことは、倒産理由の多くは設立10年未満の「破産」で、負債金額は「1億円未満」が多数を占めています。
また、有料老人ホームや比較的初期投資の負担が少ない「居宅介護サービス」の関連企業が多い点も気になります。
また、それらの多くは東京、神奈川、愛知などの大都市圏に集中しています。
<介護事業者の倒産動向・業歴別>
業歴別 | 件数 |
---|---|
3年未満 | 45 |
3~5年未満 | 43 |
5~10年未満 | 96 |
10~15年未満 | 31 |
15~20年未満 | 17 |
20~30年未満 | 15 |
30年以上 | 8 |
合計 | 255 |
<介護事業者の倒産動向・負債額別>
負債額別 | 件数 |
---|---|
1億円未満 | 184 |
1~5億円未満 | 46 |
5~10億円未満 | 12 |
10~30億円未満 | 9 |
30億円以上 | 4 |
合計 | 255 |
介護事業者のおもな倒産理由として、「介護報酬が実勢価格に見合っていない」「法的な基準が変化する」「人材の確保が困難である」「施設などの初期投資にお金を掛けすぎる」という4つの要因が考えられます。
参入しやすい業界であるものの、法改正などの外的要素に影響を受けやすい事業でもあり、人材の確保が難しいという状況からも、参入したからといって成功が待っているわけではないという一面があります。
介護ビジネスを活況化させる最大の争点は、他ならぬ「人材の確保」
いまだに根強い介護職員不足の問題。解決のカギはどこにある!?
多様化する現代において、個々のニーズに合わせていくためには、それに対応する人手が必要なことは明らかです。
介護保険制度の導入以来、介護職員の数は増え続けています。

しかし、2025年問題に向けて、今よりさらに1.5倍以上の介護職員が必要だというデータもあります。

全国的に高齢者が増加し続けている日本において、著しい増加傾向にあるのが、首都圏をはじめとする大都市です。
その対策として、首都圏より比較的受け入れ能力のある地方へ移住する高齢者を支援する対策なども始まっています。
増える高齢者が一箇所に集中することなく、地方へ分散すれば、都市部で問題となっている特別養護老人ホームへの入居待ちの件数も減り、介護職員の負担も軽減され…と課題解決のよいアイディアのようにも見えますが、実際には「地方への移住は考えていない」という希望を持つ高齢者も多く、実現にはまだ時間がかかりそうです。
介護人材の需要が高まる一方、問題になっているのがなによりも人材不足という問題です。
介護職員の離職率は、以前よりは減少傾向にありますが、厚生労働省発表の「施設介護職員等・訪問介護員別離職率・入職率の状況」というデータを見ると、「介護職員不足」という問題がいかに根深いかがわかります。

介護関連の仕事は体力的にも大変な仕事のため、身体を壊したり、体力面を理由に辞めていく職員も多くいます。そういった面でのケアや対策も必要ですが、長く働き続けるための「キャリアパス形成」も重要になってきます。
厚生労働省によるキャリアパス形成のための仕組みづくりは上手くいくのか!?
厚生労働省の「介護職員をめぐる現状と人材の確保等の対策について」という資料からも、今までわかりにくかった介護福祉士の養成体系を簡略化し、介護業界でずっと働き続けられるようになるための仕組みが考えられていることがわかります。
ことビジネスという面に限って言えば、「こうした方向性をもつ施策が十分に機能することで、介護人材の確保が可能になった上で」ということが大前提になるのは言わずもがな。ビジネスの成功のカギを握るのは、他でもない“人材”なのですから。

「儲かる」「儲からない」でいえば、ソフトの面ではビジネスチャンスはあると言えるかもしれません。
しかし、「儲かる」「拡大する市場規模」という華やかな面だけでなく、「それを支える介護人材の増加・定着のための対策を同時進行させる必要がある」ということだけは、頭に置いておかなければならないでしょう。
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2020年9月7日 制定