厚生労働省が養護者による虐待内容を調査
養護者による虐待のうち20%が経済的虐待であることが判明
高齢者の通帳やカードを、本人に代わって家族が管理してお金を出し入れするということは多くの家庭で行われています。
しかし、預金者である本人の意思や利益に(悪意を持って)反して現預金や年金を使い込む・勝手に管理すると、それは高齢者に対する「経済的虐待」に該当する行為です。
超高齢社会の今、家族による経済的虐待の件数が増えており、重大な社会問題となりつつあります。
厚生労働省によって実施された「平成28年度高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律に基づく対応状況に関する調査結果」によると、2016年度の養護者(家族など)による高齢者(65歳以上)への虐待のうち、経済的虐待の件数は3,041人で全体の18.1%を占めていたことが判明しました。

発見者に通報義務を課している「高齢者虐待防止法」が制定されてはいるものの、家庭内のお金に関わることだけに、外部の人間が指摘することは困難なのが実情です。
経済的虐待が起こる要因としては、「子どもが低所得であるため、高齢者の収入や預金に頼らざるを得ない」「子どもの失業」といった、経済面での問題があります。
また、暴力などの「身体的虐待」や暴言などによる「心理的虐待」、あるいは介護をしない「介護放棄」などに比べて、経済的虐待は第三者が事実を確認することが難しいことも、問題を深刻化させています。
認知症の発症が経済的虐待の要因となることも
経済的虐待において特に深刻なのは、高齢者が認知症を発症しているケースです。
現在、高齢化が進むにつれて認知症の発症者数も増えており、「平成29年版高齢社会白書」によれば、認知症の発症者数は2012年時点において約462万人で、2015年時点では517~525万人にまで増加したとのことでした。
認知症を発症すると、自分でお金の管理をすることが難しくなるため、家族らが経済的虐待に走るケースが多いのです。
経済的虐待が起こる背景には、在宅介護からくるストレスも大きく影響していると言われており、介護負担の大きい認知症介護では、より虐待は起こりやすいと言われています。
中には、子どもから経済的虐待を受けている当人が、「息子(娘)のところにいたい」と希望するケースもあります。本来なら虐待を防止するために高齢者を介護施設に移すなどの措置が必要なのですが、それも容易ではないわけです。
高齢者への経済的虐待の背景は?
養護者が自覚のないままに虐待をしていることも多い
2016年度の養護者による虐待件数は1万6,384件で前年度比2.6%増、通報件数は2万7,940件と同4.7%増と虐待が年々深刻化する中、「経済的虐待」も問題視されるようになっています。

この経済的虐待とは、本人の合意がないまま財産や金銭を利用し、本人が望む金銭の使用を理由もなく制限すること。
この虐待はふたつに分類され、ひとつ目は「日常生活に必要な金銭を本人に渡さない(使わせない)」、ふたつ目は「本人の財産を意思や利益に反して使用する」です。
虐待と聞くと身体的虐待や心理的虐待などをイメージしがちですが、経済的にダメージを与えて人としての尊厳を傷つけることも、れっきとした「虐待」に当てはまるわけです。
高齢者虐待における特徴のひとつとして、虐待をしている本人が「虐待を行っている」という自覚がないまま行われることが多い、というのがあります。
親の預貯金を預かった子どもが、生活苦や介護ストレスを発散したいという気持ちから、経済的虐待を行ってしまうのです。
もちろん、高齢者自身がそのことを了承しておらず、さらに本人が望む形での金銭の使用を制限しているなら、それは法に反する経済的虐待となります。
介護者の経済的な困窮が背景にある
一般的に、経済的虐待は親の金銭を過剰に管理することで起こりますが、近年は子どもが親の財産を預かり、使い込むケースが増加。
収入が減少し、親世帯に家計を頼らざるを得ない子ども世帯が増えていることが経済的虐待の背景にあります。
例えば東京都葛飾区が2009年度に行った調査によれば、経済的虐待を行った14人のうち、9人が無職。
「働きたいものの、親の介護に追われているため無理」と訴える人もいたといいます。
低所得や失業、借金といったことが、虐待の引き金になっているわけです。
しかし中には、「親の年金なしには生活できない」と意見する介護者も多く、実際のところ、どこまでが家族としての経済的な支え合いで、どこから経済的虐待に該当するのかの線引きは難しい面があります。
専門家・有識者も「親族間であるので、実質上、横領罪などには当てはまらない。
高齢者が認知症を発症しているという確証も得にくいし、家庭内の事情を知ったとしても介護事業者は、指摘するとサービスの利用を打ち切られる恐れがあるので、黙っていることもある。
表に出ない経済的虐待の例は多い」と経済的虐待における問題の深さを指摘しています。
経済的虐待を防ぐには外部とのコミュニケーションが必要
家庭内の「見えない虐待」を外部からどう判断するのか
高齢者への虐待の中でも特に可視化しにくい特徴を持つ経済的虐待ですが、最近では金融機関でも水際の対応が求められるようになりました。
これからの金融機関に要求される役割は、高齢者の顧客一人ひとりに対する注意喚起と、不自然なお金の引出しを早期発見することです。
ただ、経済的虐待防止の必要性を高齢者の健康状態から判断するのか、家族への確認をどう取るのかなど、まだまだ課題は多いのが現状。自治体もマニュアルを作成して対応力を高めようとしつつありますが、今後さらなる有効な対策が必要です。
アメリカでは、経済的虐待を防ぐため、金融機関が人工知能(AI)を用いて資金の動きを監視するという事例があります。
同国の金融取引業規制機構(FINRA)では高齢者に対する投資商品の販売については事業者側が注意義務を払うよう促しており、虐待が起きていると疑われるときは、緊急措置として資金を止めることもできるのです。

日本の銀行でも、日常生活に必要な一定額を超える預貯金については信託財産に移し、払い戻しには家庭裁判所が発行する指示書が必要となる「後見制度支援信託」が2012年から始まっています。
経済的虐待を防止するために、「金融と福祉の連携」が進められつつあると言えるでしょう。
特に、経済的虐待の7割近くが「障害年金」を対象に行われているという実態も厚生労働省によって明らかにされ、早急の対策が望まれます。
後見制度や地域の力を使って対策を
高齢者への経済的虐待を防ぐためには、成年後見制度を活用することをはじめ、ケアマネージャーや民生委員など「地域」とのコミュニケーションの中で異変に気づいてもらうなど、日頃からの対策が重要です。
福岡市にある福岡成年後見センター「あさひ」によれば、2010年11月~2014年8月末までの間に成年後見人が選任された105件のうち、経済的虐待を理由とするケースが全体の約1割を占めていたとのこと。
同センターでは今後もさらに増えていくと予想しています。
自治体・地域社会による経済的虐待防止への取り組みは、現在のところ地域包括支援センターや役所の相談窓口での対応が中心。
虐待を受けている本人や虐待者以外の家族からの相談(孫から相談があった事例もある)はもちろん、高齢者と接する医療ソーシャルワーカーや民生委員などが、家族とともに役所や地域包括支援センターに相談するケースも多いとのこと。
普段から「地域」との連携を保っておくことで、虐待への対応・相談はしやすくなると言えます。
今回は高齢者の経済的虐待の問題を取り上げました。高齢化が進む中、このままだと経済的虐待は今後も増えていくことは避けられません。金融機関や地域の協力のもと、社会全体で防止する体制づくりが求められています。
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2020年9月7日 制定