高齢者の貧困問題が深刻化する一方で、生活保護は削減へ
65歳以上の単身世帯76%が生活保護費引き下げに
2018年10月から、生活保護において食費・光熱費といった生活費にあたる「生活扶助」の支給額が大幅に減額されました。
減額化の制度改定は2年後の2020年10月まで段階的に行われていき、最終的には、都市部に住む65歳以上の一人暮らしの高齢者や子どもの多い世帯などを中心に受給者全体の約67%が減額となる見込みです。
特に高齢者への影響は大きく、受給全体の約半数を占める独居高齢者世帯に限ると全体の76%が減額。高齢者に対する福祉の切り捨てに当たるのではないかと、制度改定のあり方に疑問を投げかける有識者は少なくありません。
厚生労働省は5年に1度の頻度で生活扶助の基準額を見直していますが、今回の改定は「生活保護を受けていない低所得世帯の消費支出額との均衡」を目的に行われ、2018年から2020年までの毎年10月、3回にわけて基準額の変更が行われます。
受給者の暮らしに配慮して削減幅は最大で5%にとどめるとしていますが、減額によって生活状況がより厳しくなることは必至です。
生活保護受給世帯の52.7%が高齢世帯
厚生労働省の調査によると、2017年度における生活保護受給世帯数の月当たりの平均は、前年度比3,765世帯増の164万810世帯となり過去最多を更新しました。
母子世帯や障がい者世帯の生活保護受給世帯数は前年度から2万3,629世帯減少していますが、一方で高齢者世帯では2万7,679世帯増加。高齢者世帯における貧困問題が深刻化している現状が明らかにされています。

また、金融広報中央委員会が公表している「家計の金融行動に関する世論調査(2015年)」では、60代の約3割が預貯金を含め金融資産をまったく持っていないとのこと。
さらに65歳以上の高齢者世帯の約4割が、現状において生活保護以下の「老後破産」状態にあるとの調査結果もあります。
生活保護受給世帯のうち、高齢者世帯は半数以上となる全体の52.7%を占め、そのうち約9割が単身世帯。
日本総研の分析によれば、生活困窮高齢者世帯とその予備軍世帯は、2012年時点で400万世帯を超え、2030年には500万世帯以上に達するとされています。
今後も生活保護を受ける高齢者の増加は避けられない事態になりつつあります。
生活保護減額の背景にはひっ迫する財政事情が
社会からの孤立が高齢者を貧困化させる
なぜこれほど高齢世帯の生活保護受給者が多いのでしょうか。その理由のひとつが、老後に受け取る年金額が少ないことにあります。
厚生労働省の『平成28年度厚生年金保険・国民年金事業の概況』によれば、2016年度における年金の月額平均は厚生年金では14万7,927円、国民年金では5万5,464円。
高齢者1人が生活していくには最低でも毎月10~13万円必要と言われていますが、例えば国民年金しか収入がない世帯の場合だと、必要額の半分程度しか収入がないわけです。

従来の「日本型福祉社会」の考え方では、福祉は家族単位で設計されるのが基本とされています。
保育や介護は、家庭内の主婦が中心となって取り組むものと考えられてきたわけです。
しかし高度成長期以降、核家族化が進展して家族構成が変化。
子どもが独立し、さらに配偶者に先立たれると、単身高齢者世帯が増えてきます。
単身世帯の場合、傷病などで収入が途絶え蓄えていた貯蓄を使い果たしてしまうと、経済的に頼れる人が世帯内にいないため、不十分な年金収入のなかでそのまま貧困状態に陥りやすいのです。
政府は生活保護減額で年額160億円の削減を目指している
そして今回、政府が生活保護の減額を決めた背景にあるのが「社会保障費の肥大化」です。
社会保障費は高齢化の進展とともに毎年過去最高を更新し続けている状況で、国立社会保障・人口問題研究所の調査によれば、2015年度の社会保障給付費・高齢者関係給付費の総額は114兆8,596億円。
社会保障制度の破綻を防ぐべく、政府は近年、増加を抑制する政策を積極的に行うようになっています。
社会保障費の一角をなす「生活保護負担金(事業費ベース)」も毎年増え続けており、厚生労働省のデータによれば、2008年度時点では2兆7,006億円だったのに対し、2016年度では3兆6,720億円にまで増加。
8年間で約1.4倍、1兆円近く増えたことになります。
特に生活保護費用の内訳で一番負担が大きいのは、高齢者の利用が多い医療費用です(生活保護受給者は医療費の全額が医療扶助でまかなわれる)。
そこで厚生労働省は、高齢者への支給額減少を視野に入れて、2018年10月から3年に渡って少しずつ生活保護負担金を減らしていく施策を実施。国費にして年額160億円(全体の約1.8%相当)を削減していくことを決めたわけです。
セーフティーネットの構築で貧困対策
「住まい」や「食」を支えることが高齢者の貧困化を防ぐ
生活保護がさらにカットされるなか、高齢者の貧困に対する有効な対策はあるのでしょうか。
現在そのひとつの方法として、注目を集めているのが、東京都などで行われている空き家の活用です。
借主のいない家を、社会福祉法人が補助金を受けて高齢者向けに低価格で貸し出し、高齢者の生活基盤(生活インフラ)を支えるというのがその目的。
行政側が少ないコストで取り組めるという点も大きな利点です。
また近年、貧困世帯の子どもに食事を提供する「子ども食堂」が全国的な広がりを見せていますが、最近ではこの子ども食堂に地域の独居高齢者が多く参加するようになっています。
ただ、本来は子ども向けの食堂であるため、運営者側が「ボランティアとして参加してもらう」などの条件を示したうえで、高齢者に食事を提供するケースも多くあります。
子ども食堂では栄養価を考えたメニューが出されるため、孤食・粗食になりがちな単身高齢者が栄養不足に陥るリスクを減少させることができます。
こうした「住まい」や「食」などの生活基盤を社会内のセーフティーネットで支えることが、高齢者の貧困悪化を防ぐことにつながるわけです。
今年は2度目のマクロスライド導入による公的年金減額の可能性も
2018年11月30日、根本匠厚生労働大臣は、物価や賃金などの最終的な指標次第ではあるものの、「マクロスライドが発動される状況になるのではないか」と発言しました。
マクロスライドとは、少子高齢化による年金制度の保険料収入減少と給付額増大に備えるため、物価などの伸び率よりも「年金額改定率」を低く抑えて、実質削減する仕組みのこと。
例えば物価が1%アップすれば、それに合わせて年金額も1%増額しなければ同じ価値を維持できませんが、その増額分を抑制することで、相対的に価値を低下させ年金額の伸びを抑えるわけです。
これまでマクロスライドによる年金減額は2015年の1度だけ行われましたが、ここ2~3年物価と賃金が上昇しているため、2度目の発動条件が整いつつあると言われています。

マクロスライドが2019年に行われると、年金の実質削減につながり、高齢者の生活状況に大きな影響を与えるのは確実。消費税の増税も控え、高齢者の負担が今後さらに増えることになるでしょう。
今回は高齢者の貧困対策・生活保護の現状について考えてきました。
日々の暮らしに困窮する高齢者を切り捨てることなく、社会全体で支える仕組みを整えなければ、社会全体の活力低下を招くことになりかねません。
貧困に直面する高齢者が増加するなか、このような切り捨て策ではなく、生活基盤を「支える施策」がいま“超高齢社会ニッポン”に必要とされています。
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2020年9月7日 制定