医療現場における緩和ケアの普及、未だ道半ば!末期がん患者の30%に身体的苦痛があったと判明
国立がん研究センターが緩和ケアの重大性を改めて掲示
末期がん患者のうち30%は身体的苦痛が発生していた
2018年12月26日、亡くなるまでの1ヵ月の間に身体的苦痛を受けているがん患者が約3割にも上ることを、国立がん研究センターは発表しました。
調査は2016年中に亡くなった患者の遺族約4,800人(有効回答2,295人)を対象に行われ、「亡くなる前の1ヵ月間に身体的な苦痛がなく過ごせたか」という問いに対して、約30%が「そうは思わない」と回答しました。

さらに、患者の介護をした家族の17%にうつ症状が出ていたことも分かり、がん治療の終末期における過酷な現状を示す調査結果となりました。
2010年に行われた調査では、がん患者の約7割が「高齢者」であるとのこと(全体の29%が65~75歳未満、75歳以上が41%)。がん患者が直面する身体的苦痛は、本人はもちろん、介護をする家族の精神的な負担も避けられません。
超高齢社会に突入した現在、患者の苦痛を和らげる「緩和ケア」の充実化をいかにして進めるかが、日本の医療・福祉が直面している大きな課題となっています。
苦痛を和らげることが目的
緩和ケアとは、がんをはじめとした命に関わる病気に直面する患者とその家族に対して、身体的問題や心理社会的問題、そして精神的な問題を早期に発見。
的確に治療・処置を行い、苦痛を予防・緩和し、生活の質を改善することです。
施設で行われる看取り介護とは異なり、病院で肉体的、精神的な苦痛を和らげることを目的としています。
日本では、1990年に診療報酬に「緩和ケア病棟入院料」が導入されたことで制度化され、診療報酬が増えるということも後押しして、全国的に病棟数、病床数ともに増加しました。
公益財団法人である日本ホスピス・緩和ケア研究振興財団によれば、2011年4月時点で全国213施設、4,230床の整備が行われています。
2006年には「がん対策基本法」が成立し、国と地方自治体に対して、がん患者の苦痛緩和につながる医療を早期の段階から適切に行えるように、必要となる施策を講じねばならないとの規定が定められました。
しかし、冒頭で示した通り2016年時点においてがん患者の4割近い人が身体的苦痛に苦しんでいるのが現状。今後さらなる緩和ケアの普及・充実化に向けた行政・医療機関による取り組みが必要です。
日本で緩和ケアの周知が進んでいない理由とは
緩和ケアの内容を6割が理解していない
緩和ケアが必要とされているのに普及が進まない原因のひとつが、認知度の低さ。内閣府が2014年に行った世論調査によれば、緩和ケアのことを「知らない」と回答した人の割合は全体の3割を超えています。
また、2007年に定められた「がん対策推進基本計画」では、「緩和ケアを治療の初期段階から実施していくこと」が掲げられていますが、「日本緩和医療学会」が実施した一般人を対象にしたアンケート調査によると、緩和ケアを「終末期だけでなく、がんの初期から治療と並行して受けられる」ことを「まったく知らない」と回答した人は回答者全体の58.5%。
緩和ケアとはどのようなケアなのか、約6割が理解していません。
また、医療現場においても緩和ケアは周知されているとは言い難い状況です。
厚生労働省が行った調査(2015年)によれば、緩和ケア研修会を受講・修了している医師の数は、がん患者の主治医や担当医である4万2,057名のうち、2万217名。
受講率は約48.1%で、半分に届いていない状況です。

この結果をみる限り、医療の現場において緩和ケアの普及・充実化はまだまだ道半ばであることが読み取れます。
生活の質を上げて延命効果も期待できる
がんの緩和ケアを早期から行うことで、痛みの症状を早い段階から和らげることができ、治療をスムーズに進められます。
また、患者が医師にどこまで治療を続けるのかをいつでも相談することができるので、治療の効果が見込めなくなった後の過ごし方を冷静に検討できるのも、緩和ケアがもつ大きなメリットです。
さらにアメリカの研究チームが行った調査では、進行した肺がん患者に対して標準的な治療のみ行ったグループと、治療早期の段階から緩和ケアを実施したグループに分けて比較調査をしたところ、緩和ケアを行ったグループの生存期間が3ヵ月長かったとの結果が出ています。
緩和ケアによって生活の質が向上し、延命効果も期待できるのです。
世界保健機関(WHO)は2002年に、がんのような生命を脅かす疾患には以下の内容があり、早期から多面的な医療・ケアを提供せねばならないと提唱しました。
- 身体的なつらさ(痛み、だるさ、息苦しさ、日常生活上の支障)
- 精神的なつらさ(不安、イライラ、怒り、抑うつ、孤独感)
- 社会的なつらさ(お金や仕事、家族や友人との人間関係、相続)
- 死への恐怖(生きる意味への問い、死ぬことの怖さ)
現在、厚生労働省は、緩和ケアをがん対策の重要な柱として位置づけ、取り組みを進めています。
緩和ケアの普及がケアの質を高めることに繋がる
医師側の理解が進んでいないためにケアを受けられない高齢者も
緩和ケアが、がん治療において注目されている一方で、日本ではそれを受けられない高齢者が多くいるのが実情です。医療現場で患者だけでなく医師側の理解が進んでいないため、緩和ケアをきちんと受診できないというケースが多発しています。
例えば、仮に緩和ケアを受けたいと希望しても、がん治療を担当する主治医に「緩和ケアを行うにはまだ早い」と言われるケースは多いとのこと。医師側が、緩和ケアとは早期の段階から行われるべきものであることを、十分に認識していない場合もあるのです。
また、緩和ケア外来のある病院に診察を申し込んでも、緩和病棟に対する「入院」の予約しか受け付けず、受診できない場合もあるとのことです。
NPO法人「HOPEプロジェクト」の調査報告書によれば、既に亡くなったがん患者(n=200)のうち、緩和ケア外来を受診していなかった人の割合は84%。受診しなかった理由の中には、「(医師から)紹介されなかった」との回答もありました。

国はこうした実態を把握できていないのが現状で、今後、全国の7,000以上の病院を対象に、緩和ケアの活動状況についての調査を行うとしています。
まだまだ数の少ない緩和ケアの専門家
日本では緩和ケアに精通した専門家の数はまだ少なく、がん患者に着実に実施していけるようにするには、緩和ケアの普及とともに専門医を増やすことも必要です。
2015年までに「緩和ケア研修会」を修了した医師の総数は6万3,528人で、「日本緩和医療学会専門医」として認定された医師の数は、2016年7月時点で136人のみ。
また、緩和ケアに精通している「緩和ケア認定看護師」の数は1,259人にとどまっており、専門の医師・看護師がいない医療機関、地域も多い状況です。
高齢化が進み多死社会を迎えている日本。
緩和ケアに対する理解を国民・医療関係者に対してさらに広めていき、患者に適切な緩和ケアを行える専門医・看護師を増やしていくことは重大な課題と言えます。
国・厚生労働省は、普及・啓発活動を今後さらに積極的に行っていく必要があるでしょう。
今回は日本の緩和ケアをめぐる問題についてみていきました。
緩和ケアに対しては国民全般、そして医療の現場でも必ずしも理解が進んでいるとは言い切れないのが現状です。
緩和ケアへの認知度を高め、ケアの質を高めていくことは、日本の医療・福祉に課せられた新たな課題です。
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2020年9月7日 制定