病床削減で高齢の医療難民が多発するリスクが!医療費用を抑える地域医療構想には課題が山積
地域医療構想として病床のダウンサイジングを提案
ベッド数減少による医療費の削減が狙い
2018年12月10日に開催された経済財政諮問会議の中で、政府は「新経済・財政再生計画改革工程表2018」の原案を発表しました。
この原案には、終末期にどのような医療やケアを受けたいかを医者や介護士と家族が話し合い、意思決定をするACP(アドバンス・ケア・プランニング)の推進や、医師の働き方対策など、多くの内容が盛り込まれています。
中でも多くの注目を集めたのは、地域医療構想の実現に伴う、「病床のダウンサイジング」についてです。
この病床のダウンサイジングとは、名前の通り、病院のベッド数を減少させることを指します。
地域単位で病院ごとの役割を明確化し分担することで、全体の病床数を減らし、医療費を削減することが狙いです。
もともと、この地域医療構想を掲げるなかで、政府は2025年までに病院の病床数を、現在よりも16万床~20万床減らして115万床~119万床程度にするという目標を2015年に示していました。
しかし、この動きは医療関係者や自治体の反発で、難航を極めました。
この状況を打破するため、今回の原案に病床のダウンサイジングを盛り込んだと考えられます。
後期高齢者の医療費増加に政府は注目
政府が病床のダウンサイジングを押し進める背景には、医療費が増加していることがあります。
昨年の10月には、財務省が財政制度審議会財政制度等分科会で、入院医療費と病床数の関係について調査した資料を発表し、両者の間に相関があると主張。
この解決のために、地方ごとに病床数のダウンサイジングをはじめとした医療提供体制の適正化を行うことを求めました。
厚生労働省の発表した資料では、2013年度の国民医療費は前年度から2.2%増の40兆610億円となっており、これは1989年と比べると、およそ倍の数値になっています。
このうち、75歳以上の後期高齢者の医療費は14兆1,912億円で、前年度に比べて3.6%増加。
国民医療費全体の35.4%を占めています。
これは同じく1989年と比較した場合、2.5倍以上の増加です。
くわえて、病院の外来の5割、入院患者の7割が65歳以上の高齢者。
医療費用に限っては、後期高齢者が外来では若者の3.6倍、入院では6.7倍で、総合では4.5倍となっています。

これらのことから、不必要な高齢者の入院が医療費の増大につながっていると政府が考え、その対策の一環として病床のダウンサイジングを提案したのだと言われています。
政府が目指す地域医療構想とは
高齢の入院患者が増加により病床は不足している
では、病床のダウンサイジングをすることで、どのような効果が見込めると考えているのでしょうか。
厚生労働省の発表した資料によれば、現在、全国の一般病院の数は7,353施設で、病床数は約135万床とのこと。病院数で言えば1996年の8,421施設から比べると13%ほど減少しており、緩やかに減りつつあります。

しかし、人口10万人に対する病床数はほぼ変化がない状態がありません。高齢化社会の中で慢性疾患を持った高齢の入院患者が増加しているために、病床は不足したままなのです。
この状況で団塊世代がすべて後期高齢者となる2025年を迎えた場合、必要な病床の数はおよそ152万床と予測されており、現在の病床数を大きく上回ってしまいます。こうした事態が現実のものとなれば、将来はさらに対応できない状態になると政府はみています。
対策として政府が考えているのは、地域医療構想という、それぞれの病床における機能を明確にして分け、効率化を重視するというもの。これを成し遂げることで高齢者の増加に対応しようというのが、病床のダウンサイジングにおける狙いだと言えます。
病床の効率化を図って医療費用を削減するのが目的
では、地域医療構想とは具体的にはどのような構想なのでしょうか?先述しましたが、高度医療を提供する高度急性期、重症患者を扱う急性期、リハビリなど機能回復を行う回復期、高齢者を始めとした慢性患者が療養する慢性期など、病床ごとの機能を明確化。
それぞれの地域ごとに、各機能における病床が必要数より多いか少ないかを判断して、その数を調整するというのが地域医療構想です。
こうした整備をすることで、比較的軽い症状の患者が急性期の病床を使用しているケースなど、効率の悪い病床の使い方を減らし、医療提供体制の効率化が図れるとされています。
もし、この構想が現実になれば、多くの地域で急性期や慢性期の病床の数が2割から3割減少し、回復期の病床が増えるのだとか。
しかし、こうした効率化が期待される一方で、手厚い医療を必要としない患者については、自宅や介護施設での療養になると言われています。
これは、地域や介護施設などに医療が必要な高齢者を丸投げする行為ではないか、との指摘もあり批判が多く集まっているのが現状です。
地域医療構想における今後の課題
病床のダウンサイジングは現段階では難しい
病床のダウンサイジングについては、「地域の患者への丸投げ」以外にも、多くの懸念が寄せられています。
まず、地域によっては求められる病床の数が大きいために、一律で削減するという形ではなく、地域に合わせた形での運用が必要不可欠という点が挙げられます。
東京都や大阪府、愛知県などの都市部では、近年において高齢化に伴う医療の需要が増えており、病床も増加傾向です。
こうした自治体においても、病床を減らす必要があるのかという疑問が残ります。

また、利益を出さなければ存続できない民間病院に対して、病床を減らすように要請をすること自体が難しい面があるという声もあります。
極端な例で言えば、病床を減らすよう指導した結果、その病院の経営が悪化して倒産してしまえば、地域における医療の要が失われることになります。
さらに、都道府県などの自治体には病床の新設や増加を認めないという権限こそあるものの、現在ある病床を減らす権限はないというシステム上の問題もあります。これらの問題点から、政府が掲げた通りに病床数を減らすのは難しいというのが専門家の意見です。
病床削減は高齢の医療難民を増加させる
超高齢社会に突入し、医療保険が増加したことで、現在の医療体制のままでは立ち行かないというのは厳然たる事実。
そのため、政府の打ち出す地域医療構想のように、今まで病院だけで支えていた患者を、介護や福祉、あるいは地域で支えるという形で医療を継続するという転換はいずれ必要です。
病床のダウンサイジングは、こうした医療の形の転換を促すために、政府が打ち出したものと考えることもできます。
しかし、在宅医療については、往診を行う開業医の減少や高齢化、が問題視されていますし、2025年に245万人が必要となる介護職員も、33万人ほど不足する見通しがなされています。
つまり、介護施設や自宅ですら、患者をどれほど受け入れられるかは、不透明なのです。
これらの問題を解決しないまま、性急に施策を押し進めていけば、地域に行き場のない医療難民と化した高齢者が多く存在する事態を招きかねません。
そもそも、高齢者の増加に対応するための施策が、高齢者を医療難民にしてしまうとすれば、まさに本末転倒です。
そうならないためにも、政府は医療や介護現場の声に耳を傾け、真に高齢者の医療や健康に利する政策を考えるべきです。
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2020年9月7日 制定