万引きで検挙された高齢者は2万人超に!生活の困窮はもちろん孤立感も原因か
増加する高齢者の犯罪のなかでも深刻なのが「万引き」
増加する高齢者の窃盗に法務省が警鐘
2018年12月21日、法務省は「2018年版犯罪白書」を公表し、2017年に刑事施設に入った高齢(65歳以上)受刑者数は2,278人で、10年前の約3.3倍も増加していることがわかりました。
高齢受刑者の割合は受刑者全体(1万9,336人)の11.8%を占め、10年前よりも8.8%増加。
女性高齢者に限ると全体の19.7%に達し、10年前よりも16%も増えました。
罪名別にみると、高齢者では男女ともに「窃盗」が最も多く、特に70歳以上の女性では犯罪全体の89.3%に上っています。
さらに刑事施設への入所回数をみると、男女とも65歳以上は65歳未満よりも再入所の割合が高く、男性では6回以上が42.5%、2~5回が32.3%、女性では6回以上が11.5%、2~5回は42.6%です。
特に高齢者は短期間で再犯を繰り返す傾向があり、「2年以内の再入率」では65歳未満が17.3%であるのに対し、65歳以上では24.9%。
同白書はこうした高齢者犯罪の現状を受け、「従来の刑事手続きによる再犯の抑止が必ずしも十分に機能していない」と警鐘を鳴らしています。
2017年の刑法犯認知件数は91万5,042件で、検挙者の総数は21万5,003人。
総検挙者数は2013年から戦後最少を更新し続けていますが、高齢者の検挙者数(2017年は4万6,264人)に限っては、最も多かった2008年から高止まりの状況が現在も続いています。
万引きでの検挙者のうち4割近くが高齢者
法務省によると、2011年6月に「窃盗」で有罪が確定した高齢者(65歳以上)354人、非高齢者(65歳未満)2,067人を対象にその犯罪内容を比較分析したところ、高齢者の窃盗全体における85.0%が手口は「万引き」。
非高齢者の52.4%を大きく上回る結果となっています。
また、「2014年版犯罪白書」によれば、高齢者の検挙人員数のうち「万引き」は全体の31.8%。
検挙された高齢者の3割以上が、「万引き」による罪だったのです。

さらに警察庁の調査によれば、2016年度における「窃盗犯」の全検挙者数(11万5,462人)のうち、高齢者が占める割合は29.4%(3万3,979人)。
窃盗のうち「万引き」については、全検挙者数(6万9,879人)における高齢者の割合は38.5%(2万6,936人)と、全体の4割近くも占めています。
2007年時点での全検挙者数に占める高齢者の割合は、窃盗で17.5%、万引きで25.2%でしたから、9年ほどのうちに窃盗で11.9ポイント、万引きでは13.3ポイントも上昇しているわけです。
高齢者犯罪における窃盗、特に万引きが深刻化している現状を明確に示す調査結果と言えるでしょう。
なぜ、高齢者が「万引き」に手を染めるのか
高齢者の犯罪増加の影響で刑事施設に介護専門スタッフまで
「2016年版犯罪白書」によれば、高齢者の刑事施設への再入率の割合は平均で70.2%。
入所者全体の平均59.5%を大幅に上回っています。
さらに出所してから2年以内の再犯率(刑務所に戻ってくる割合)は、全体平均が18%なのに対し、高齢者の場合は23.2%に上っているのが現状です。
こうした高齢犯罪者における再入率の高さにより、各刑事施設では高齢化が進展。それにともない、要介護状態となる高齢受刑者が続出しています。
2015年の法務省の推計によると、全国の刑務所に入所している60歳以上の受刑者のうち、認知症の傾向がみられるのは全体の14%にあたる1,300人。さらに、高齢受刑者のうちなんらかの病気で治療を要する人は、全体の約9割に達するとのデータもあります。
しかし、介護専門スタッフは1日あたりの勤務時間が短いことも多く、土日は休日となっているのが一般的。
そのため、現場で働く刑務官が代わりに介護を行わねばならないことも多いのです。
高齢犯罪者の再犯率が高まるなか、それを受け入れる刑事施設側でも、現場の負担が増加しているのです。
高齢者が万引きを犯す背景には経済的な困窮が
高齢者に多い「万引き」ですが、なぜこれほど多くの人が手を染めてしまうのでしょうか。その第1の原因として指摘されているのが、経済的な困窮です。
東京都の万引きに関する有識者研究会がまとめた『高齢者による万引きに関する報告書 高齢者の万引きの実態と要因を探る』によれば、65歳以上の高齢万引き被疑者の約8割が無職であり、万引きを行った動機・原因として、「生活困窮」(33.3%)との回答は3割以上を占めています。

さらに法務省が行った調査によれば、高齢者の万引き犯の約7割が食料品を盗んでおり、被害額は「1,000円未満」が4割、「3,000円未満」が7割。
また、全体の約7割は「普段から買い物する店」で万引きを行い、男性の過半数、女性の8割は、犯行動機を「節約のため」と答えています。
以上のデータからは、「高齢の万引き犯は高額な品物を盗むのではなく、経済的な理由から、食料品などの生活必需品を万引きしている」という実態が浮かび上がってきます。
万引きを繰り返す高齢者の3分の2が「生きがいがない」と回答
万引きをした高齢者の半数が独居老人
また、高齢者が万引きをする第2の原因として言われているのが、「社会的孤立」です。万引きに関する有識者研究会の報告書によれば、65歳以上の万引き被疑者のうち、「独居」は56.4%、「交友関係を持つ人がいない」は46.5%に上っています。

同報告書では、社会的な関係性を持たないことが孤独感や不満感、ストレスの増加などにつながり、問題行動に発展するケースが多いのではないかと指摘。社会から孤立していることが、高齢者の万引きを引き起こす要因のひとつとして位置づけています。
また、同報告書のデータによると、高齢の万引き被疑者のうち「既婚」が40.7%であるのに対し、「独身(離婚)」が16.7%、「独身(死別)」が31.5%。
離婚・死別による独身者(合計48.2%)の方が、既婚者よりも犯罪発生率が高い傾向にあることを同報告書は指摘しています。
夫または妻がいれば、「犯罪を起こして関係性を失いたくない」との心理的なブレーキが働きます。
しかし、「配偶者がおらず孤立した状態だと歯止めが効かなくなり、万引き行為をしやすくなる」と分析する専門家は多いです。
特に女性高齢者の場合、「配偶者との死別」、「(配偶者などの)病気の看護および介護」などに伴う精神的なストレスにより、万引きに走るケースが多いと言われています。
孤立感の解消が高齢者の再犯防止の鍵になる
では、高齢者の孤立感はどのようにして解消すればよいのでしょうか。
そのひとつが「社会と関われる居場所づくり」です。
2010年の警視庁の調査によると、万引きを繰り返す高齢者の3分の2が「生きがいがない」と回答しており、地域社会の中に高齢者が生きがいを感じられるような居場所を作り、その参加を通じて社会からの孤立を防ぐことが、万引き防止のうえで有効だとされています。
具体的な対応策が、全国48ヵ所に設置されている「地域生活定着支援センター」の活用です。
出所者の社会復帰を福祉の面からサポートすることを目的とした施設で、刑事施設から出所した高齢者を孤立させないようにし、再犯防止につなげるための社会的な受け皿になることが期待されています。
犯罪者を刑務所に収容すると1人当たり年間300万円以上の公費が必要と言われており、財政面からも再犯防止は重要です。
今回は高齢者犯罪について考えてきました。高齢化が進むなか、高齢者の犯罪をいかに防いでいくかは、日本社会全体に課せられた大きな課題です。
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2020年9月7日 制定