オンライン診療の詳細な規定が明らかに
オンライン診療で完結可能な治療は禁煙外来のみ
2018年12月26日、厚生労働省は『オンライン診療における不適切な診療行為の取扱いについて』『「オンライン診療の適切な実施に関する指針」に関するQ&Aについて』という、オンライン診療に関する2つの通知を発表しました。
もともと、これらについて同省は、今年の3月に『オンライン診療の適切な実施に関する指針』という通知を出していましたが、今回はオンライン診療の指針に対しての具体的な質問に言及したものとなっています。
これらの資料の中で同省は、オンライン診療を実施している医療機関において、医師法に関する診療行為が行われていることに言及。
オンライン診療の前提として、リスクを説明したうえで、患者がオンライン診療を希望する旨を書面で確認することが必要であるということを示しました。
ほかにも、チャットのみでのオンライン診療は認められないことや、オンライン診療だけで完結が可能な治療は、現在では禁煙外来だけが該当することを明示。
ED治療薬などを始めとした禁忌の確認を行わないといけない薬の処方は認められないとし、医療機関がない離島で骨折したなどのケースを除き、対面診療が予定されていたとしても、オンライン診療で初診や急病、急変患者を扱ってはいけないことも示しています。
通信機器の発達によりさまざまな診察方法が実用化
オンライン診療とは、テレビ電話やスマートフォンなどの通信機器を用いて、医療機関から離れた場所にいる患者に対して診療を行うことを指します。
本来、医療法では無診察の治療を禁じていましたが、1997年に厚生省が、診療の補完的なものとして遠隔診療通知を発表し、離島や僻地における遠隔診療などが医師法に触れるものではないと定義。
条件付きながらも、オンライン診療が解禁されることとなったのです。

その後、通信機器の発達や、2015年8月に厚生労働省が事実上の遠隔診療解禁とも解釈できる通達を出したことで、本来オンライン診療の対象としていた僻地や離島以外でも普及が進んでいます。
2019年1月に入ってからは、通話アプリを運営するLINEが医療業界向けの情報サービスを扱う企業と共同で、オンライン診療サービスを提供する会社を設立して注目を集めました。
このように、現在ではSNSや通話アプリなどさまざまなツールを用いたオンライン診察が考案され、実用化されつつあります。
医者不足を解消するオンライン診療を国が後押し
通院できない人が診療を受けることができる
オンライン診療のメリットとして、まず挙げられるのは通院による患者負担が軽減することでしょう。通院をしなくとも診療を受けられるので、高齢者や足の不自由な人には大きなメリットです。
また、仕事が忙しくて通院がしにくい人や、病院が近辺になく、通院するのに苦労する人にとっても、オンライン診療の普及によってこまめな診察を受けることが可能となります。
これにより、認知症や生活習慣病などに対して、重度化の予防が可能となると考えられているのです。
こうしたオンライン診療の特徴を国も把握しており、2017年の12月に行われた社会保障審議会医療保険部会・医療部会において、情報通信技術を活用した生活習慣病の重症化予防を推進する取り組みについて触れています。
これらの重度化予防は、結果として健康寿命の延伸に繋がるので、社会保障費用削減に有効な方策となり得るという部分も、国がオンライン診療に着目する理由なのかもしれません。
医師側としても、通院が難しい患者にも対応しやすくなるうえ、訪問医療や往診などの時間を節約できることで、問題視されている長時間労働を削減できるメリットがあると考えられています。
過疎化した地方での医師不足が深刻に
オンライン診療が誕生したもともとの背景にあるのは、近年、少子高齢化社会が深まるなかで医師が都市圏へと集中し、過疎化した地方では医師不足が深刻化しているという社会的な問題があります。
厚生労働省の発表したデータによれば、2016年時点の住人10万人に対する医師数では、1位である徳島県が315.9人であるのに対して、最も少ない埼玉県では160.1人と、明確に差があることを示しています。

また、同省がによれば、容易に医療機関を利用できないと国が認定する無医地区が、2014年時点で全国に637ヵ所も存在。全体としては2009年から減少しているものの、栃木県や愛知県、広島県など一部の地域では増加しているとのことでした。
国はこの問題への対策として、都道府県ごとに策定する医師確保計画の中で、『医師少数区域』と『医師多数区域』(いずれも仮称)を設定して、医師の派遣調整を求めるなど、対応を進めていく予定です。
オンライン診療に不信感を持つ医者も
医療行為が営利事業となることを懸念
多くのメリットがあるオンライン診療ですが、この診療方法に不信感を持っている医師も多いと言われています。
医療系のメディアが2016年に医師を対象として行ったアンケートでは、今後遠隔診療が拡大していくだろうと答えた医師は87.9%と、大多数にのぼりました。
しかし、そう答えた医師のうち、その遠隔診療に「自分は参画したいと思わない」と答えた医師は50.9%と、過半数を超えていることが判明したのです。
参画したくない理由としては、通信機器を用いて正しい診断や治療を行い、患者との信頼関係が構築できるのか疑問であるという回答が多数でした。
日本医師会副会長で、国内医療界の権威である中川俊夫氏も、遠隔診療はあくまでも対面診療の補完的なものに過ぎないという見解を2017年の3月に示し、慎重な姿勢を崩していません。
同氏は情報技術の進化や遠隔診療に利点があることは認めつつも、最終的に医療の責任を取るのは医師であることや、通信技術を扱う企業の参入により、医療行為が営利事業化する危険性などに懸念を示しています。
オンライン診療の普及率はわずか1%
現在、オンライン診療には多くのハードルが存在しています。
まず、オンライン診療事態が普及していないということがあります。
2018年7月時点では、オンライン診療科の届出を行った医療機関は892施設であり、これは全体の医療機関のうち1%弱に過ぎない割合です。

また、届出を行った医療機関は、東京や大阪、福岡といった都市圏がほとんどであり、医師不足が懸念される東北や山陰といった場所には少ないという現状も報告が。
これは、地域の医師不足をオンライン診療によってカバーするという目的からは、かけ離れた結果となっています。
こうしたオンライン診療が普及しにくい理由としては、いくつか考えられます。
まず、オンライン診療の対象とされている高齢者には、スマホをはじめとした通信機器の操作が難しいという、ITリテラシーの問題があります。
また、医師や患者にとって、遠隔診療は前例が少ないために、抵抗感を持っている人が多いというのも、理由のひとつとして数えられるでしょう。
医師側の問題としては、対面診療よりも診療報酬が低いことから、オンライン診療を導入するメリットが薄い点も挙げられます。
こうした問題を解決し、オンライン診療のメリットを皆が享受できるようになるためにも、国には制度の整備をこれからも進めてもらいたいものです。
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2020年9月7日 制定