独居高齢者の増加で「身元保証制度」の整備が急務に!身元保証人がいないと介護や治療を受けられない可能性も
単身高齢者の増加で「身元保証人」の重要性が高まっている
身元保証人がいないと入院できない病院も
近年、医療機関や介護施設において、入院・入所時に「身元保証人」が必要となるケースが増えています。
厚生労働省研究班が2018年に、全国の医療機関約1,300施設を対象に行った『医療現場における身元保証人に求める役割等の実態把握に関する研究』によると、患者の入院時に「身元保証人を求める」と回答した割合は65%に上りました。
ベッド数が20床以上の病院においては、「求める」との回答は約90%にも達しています。
また、保証人を求めると答えた医療機関のうち、8.2%は保証人がいないと入院を認めないとも回答。「身元保証人のいない患者は入院拒否」という違法の恐れがある対応が、医療の現場で実際に行われていたのです。
同様の状況は介護の現場でも起こっており、介護施設を対象にしたみずほ情報総研が2018に行った『介護施設等における身元保証人等に関する調査研究事業 報告書』においても、「入所時に本人以外の署名を求める」と答えた施設の割合は9割以上に上っていました。
少子高齢化が進み、身寄りのいない高齢者が増えているなか、「入院・入所希望者に保証人を強く要求する傾向は、権利の侵害に当たるのではないか」と指摘する声もあり、現在議論を呼んでいます。
介護施設の3割が「身元保証がいないと入居できない」と回答
そもそも身元保証人とは、本人の治療方針に関する判断、入院手続き、施設内での器物損壊や誰かにケガを負わせたときなどの身元保証、支払い債務の連帯保証などの役割を担う人のことです。
厚生労働省研究班の調査によると、「保証人に求める役割」を調査対象の医療機関に尋ねたところ、最も多い回答が「入院費の支払い」(87.8%)で、ほかにも「緊急連絡先」(84.9%)、「身柄の引き取り」(67.2%)、「医療行為の同意」(55.8%)などの答えが多くなっています。
介護施設に対するみずほ情報総研の調査によれば、身元保証人を求める施設のうち、保証人がいなければ「受け入れを拒否する」と回答したのは全体の約3割。この割合は、別の民間団体が行った2013年時点の調査結果と変わっていません。
厚生労働省は、介護施設の運営基準に基づき、「身元保証人がいないことは拒否の正当な理由にならず、拒否した施設は指導対象になる」としています。しかし実際の対応のあり方は各自治体が独自に判断し、口頭での指導にとどまるのが通例です。
身元保証に対しては成年後見制度を活用するという方法もあります。
しかし、成年後見人になると「印鑑登録をすることができなくなる」などの制約が生じるので、利用はあまり進んでいません。
こうした問題から、身元保証人が依然として求められているのが現状なのです。
身寄りのないお年寄りに対しては身元保証人を求める動きが
35年間で一人暮らしの高齢者は10倍に増加
病院・介護施設で身元保証人を求める傾向が高い背景には、単身高齢者の増加があります。
内閣府の「平成29年版高齢社会白書」によれば、一人暮らしの高齢者(65歳以上)は、1980年(昭和55年)時点では男性が約19万人、女性が約69万人で、高齢者人口に占める割合は男性4.3%、女性11.2%でした。
しかし2015年(平成27年)には、男性では約192万人、女性では約400万人にまで増加し、高齢者人口に占める割合も男性が13.3%、女性が21.1%にまで上昇しています。
約35年の間に、一人暮らしの高齢者の人口数は男性が約10倍、女性が約5.8倍も増加し、人口に占める割合では男性で約3倍、女性で約1.9倍上昇しているのです。
一人暮らしの高齢者は今後もさらに増えていくとみられ、高齢社会白書では、団塊の世代が75歳以上となる2025年には男性217万人、女性471万人。2035年には男性261万人、女性で501万人に達すると予想されています。
身寄りのない人も多い単身高齢者が増加するにともない、入院・入居の際に「身元保証人になってくれる人がいるのか」を確認しようとする病院・介護施設も増えているわけです。
入院以外にも”入居”でも身元保証人がいる場合も
病院や介護施設が身元保証人を必要とするのには、施設側なりの事情もあります。
もし身元保証人のいない人が入院・入居中に亡くなった場合、後の整理に必要な費用は病院・施設側が負担しなければなりません。身元保証人がいればその方が対応することになるので、いるといないとでは費用面で大きな差が生じるのです。
同様のことは高齢者が賃貸物件を借りる際にも起こっており、亡くなった高齢者の遺品整理には最低でも数十万円が必要で、家主が負担するとなると経営上の大きな打撃になってしまうといわれています。
そのため、一人暮らしの高齢者を受け入れようとしない家主も多く、単身高齢者は病院以外においても厳しい現実に直面しているのです。
また、身元保証人がいないと、医療機関・介護施設は「入院費・利用量の支払い・滞納時の保証が得られない」「容体が急変したときなど、緊急時に取るべき手段・手続きを確認できる相手がない」「亡くなったときの遺体の引き取り手がいない」などのリスクを負うことになってしまうのです。
身元保証人のいない高齢者の受け皿が必要
お金のない高齢者は民間の保証会社の活用も難しい
一方で、身元保証人のいない高齢者の受け皿になる保証会社も増えています。現在、身元保証サービスを提供しているのは全国で約100団体。福祉分野で活動するNPO法人のほか、警備保障、冠婚葬祭、小売業者など異業種の民間事業者も参入しています。
しかしトラブルも起こっており、例えば2016年には、大手身元保証会社が迂回(うかい)融資などで預託金を流用していたことが判明し、元役員が逮捕されるという事件が発生しました。
同社は身元保証サービス会社としては大手でしたが、不正発覚と共に破算。身元保証に関する業界では事業者の届け出や認可などの制度はまだまだ十分に整備されておらず、厚生労働省も、現在のところ身元保証団体を網羅的に把握できていません。
さらに生活が困窮している高齢者の場合、民間事業者に頼みたくても、その費用が払えないので頼めないというケースも少なくありません。
事業者のなかには一定以上の資産がなければ利用できないところもあります。以上のことを踏まえると、高齢者が身元の保証を行うには、民間だけでは必ずしも適切な対応ができていないのです。
「身元保証」制度の検討などの公的支援が今後の課題に
しかし、行政側の対応も十分とは言えず、「身元保証」にかかわる制度上の規定もいまだ未整備。
自治体は本人に代わって入院費・施設利用料などの滞納分をまかなうことはできないので、現状では役所に相談した場合、身元保証サービス事業者を紹介されることが多いとされています。
身元保証問題に取り組んでいる社会福祉協議会・自治体は全国でもわずかな数にすぎず、ほとんどの場合、ほかの民間の団体に頼らざるを得ないのが現状です。
今後、行政に求められる具体的な対応策のひとつが、地域のサポートを有効に活用するということ。
例えば「行政と医療ソーシャルワーカーなどが、入院・入居希望者と病院・施設側との調整に入り、身元保証人のいない人がどうすれば入院・入所できるかを検討する場を設ける」というのもひとつの方法です。
その場合、対応するガイドラインを医療機関や介護施設、自治体で作ることも求められます。
また、「国が民間事業者を認可して事業者のクオリティーを担保する」、あるいは「保証人がいなくても入院・入所できるよう法整備をする」といった制度的対応を行うことも重要になるでしょう。
今回は「身元保証」について考えました。高齢者が安心して誰でも医療や介護を平等に受けることができる社会を作るためにも、今後は身元保証がなくても適切なサービスを受けられる仕組み作りが必要です。
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2020年9月7日 制定