白血病はどんな世代でも発症する可能性がある
厚生労働省の初の全数調査で白血病患者は1万3,789人と判明
2月12日、競泳女子日本代表の池江璃花子さん(18)が、血液のがんである「白血病」と医師から診断されたことをツイッター上で明らかにしました。
池江さんの病状公表にともない闘病を応援する声が広がっており、世代を問わず発病リスクのある「白血病」に国民の注目が集まっています。
白血病は、若者が発病するがんの中では最も発病のリスクが高いです。国立がん研究センターが2009年~2011年に行った調査によれば、15歳~19歳でがんと診断される人は年間約900人で、そのうち白血病は24%と最も多くなっています。

しかし、すべての世代における白血病の発病者数をみると、圧倒的に多いのは高齢者世代です。
今年1月に厚生労働省が発表した「全国がん登録の概要」によると、2016年にがんと診断された人は延べ約99万5,132人で、そのうち白血病患者は男女合わせて約1万3,789人。
そして年齢別にみると、0~19歳までだと合計で960人なのに対して、60歳以上の年齢だと合計9,383人となっています。
若い人にも発病例が多い白血病ですが、年代ごとの発病者数だけを端的にみれば、60歳以上が全体の7割近くも占めているのです。
増加傾向にある白血病、実は原因不明
白血病の死亡率は年々増加傾向にあり、国立がん研究センターが公表している『全国がん登録の概要』によれば2009年当時は年間人口10万人当たり6.3人(男性7.8人、女性4.9人)の死亡者数でしたが、2016年では7.2人(男性8.9人、女性5.7人)まで上昇しました。
基本的に白血病とは、血液をつくる機構に異常が発生し、白血球ががん化した細胞(白血病細胞)となって無制限に増え続けることで起こります。
ただ、ほかのがんと同様、白血病の原因や発生メカニズムについて完全に解明されている訳ではありません。
発病の種類としては、病気の進行が早い「急性」とゆっくりと病状が進む「慢性」の2つに分類され、さらにそれぞれ骨髄系の細胞から発生する「骨髄性」とリンパ球系の細胞から発生する「リンパ性」とわけられます。
そのため、全部で「急性骨髄性白血病」「急性リンパ性白血病」「慢性骨髄性白血病」「慢性リンパ性白血病」の4種類に大別されています。
現れる症状としては、まず免疫力が著しく低下して、感染症にかかりやすくなるということが挙げられます。
また、血液中のがん化した未熟な血液細胞が増殖することで、赤血球や血小板を作る機能が維持できなくなるため、赤血球の減少に伴う貧血・動機・息切れ、血小板の減少に伴う皮下出血・鼻血・歯茎からの出血などが生じやすいのです。
特に「急性骨髄性白血病」は高齢期に急増するという特徴を持っています。
血液のがん「白血病」とは?
高齢期に数倍以上に急増する「急性骨髄性白血病」
小児白血病など、幼い子どもでも白血病を発症するケースは少なからずあります。しかし発症率という点では、高齢者の方がはるかに高いのが実情です。
「全国がん登録の概要」によれば、2016年における人口10万人当たりの発病者数は、0~4歳だと8.8人、5~9歳だと4.9人、10~14歳だと3.0人、15~19歳だと4.1人です。
一方、高齢世代になると、60~64歳では16.3人、70~74歳で28.7人、80~84歳で44.9人にまで上昇し、高い発症割合となっています。ほかのがんと同じく、高齢者ほど注意する必要があるわけです。

特に近年、高齢者に顕著なのが、急性骨髄性白血病の発症例の多さです。かつて、急性骨髄性白血病の発症率は、若年者でも高い傾向にありました。
ところが最近では、若年者の発症率が減少し、高齢者の発症率に増加傾向が見られるようになっています。今や急性骨髄性白血病は「高齢者の疾患であると言っても過言ではない」とさえ専門家に指摘されるようになっています。
医療の進歩とともに白血病の治療が可能に
かつては「不治の病」とされた白血病ですが、今では研究が進み、治る可能性の高い病気になりつつあります。
がんの治療法には大きくわけて薬物療法(抗がん剤)、放射線治療、手術の3つがありますが、血液のがんである白血病の場合、固形がんのように手術で切除できないため、抗がん剤治療がメインです。
もし白血病が脳、脊髄などの中枢神経に達している場合は、放射線療法が行われることもあります。
抗がん剤は高い効果が期待できる一方で、免疫機能にダメージを受けるなどの副作用も大きく、感染症対策を徹底して行わないといけません。
最近では白血病細胞を狙い撃ちする抗がん剤も広まっており、このタイプの薬であれば、通常の抗がん剤のように健康な細胞を傷つけないため副作用の軽減が見込めます。
ただし保険が適用されない自由診療となり、費用は1回200万円。自由診療を行うと、同じ病院で受けた保険診療部分も原則自己負担となってしまい、費用の高さがネックとなっています。
そして完治できる療法として行われているのが、「造血幹細胞移植」、いわゆる骨髄移植と呼ばれる療法です。ただ、骨髄内の造血幹細胞を入れ替えるため、抗がん剤による治療よりも強い副作用があります。
さらに移植手術にはドナー(骨髄提供者)が必要です。移植を必要とする患者は、毎年2,000人いるといわれていますが、2017年に実際の移植を受けたのは57.4%に留まっており、まだドナー不足の状況が続いています。
高齢者向きの”ミニ移植”治療で身体の負担を軽減
高齢者の治療方法はまだ確立されていない
ただ、以上のような白血病に対する標準的な治療法は、あくまで60歳くらいまでのいわゆる壮年期の患者さんを想定したものです。
残念ながら、それを超える年齢である高齢者世代に対しての標準治療は、確立されていないのが現状となっています。
通常、がん治療を行う専門施設では、科学的根拠に基づいて治療の標準的な治療計画を決めていますが、そのための臨床試験には、65歳以下の患者でなければ参加できないことが多いのです。
ほかにも、「認知症を発症している高齢者の場合は治療をどうやって行っていくのか」「副作用を伴う抗がん剤の投与量をどのように設定するのか」「体力の衰えた75歳以上、85歳以上の場合、治療をどうするのか」など解決すべき問題は数多くあります。
特に完治を目指す骨髄移植は、高齢者にとっては困難な治療法です。移植の前処置として、強力な放射線治療や化学療法を行い、白血病細胞だけでなく正常細胞も含めて骨髄を空っぽにする必要があります。
しかしそれに耐えるには相当の体力がいるため、適応年齢はどうしても50~55歳以下となってしまうのです。高齢化が急速に進展しつつある現在、高齢者の白血病への対処法をいかにして研究・開発していくかは、日本の医療が直面している大きな課題なのです。
完治だけでなくQOLも高齢者の白血病治療には大切
そんな中、高齢者も骨髄移植できる方法として現在注目を集めているのが「さい帯血ミニ移植」と呼ばれる方法です。
さい帯血とは母親と胎児を結んでいるへその緒などに含まれている血液のことで、これを用いた骨髄移植は「さい帯血移植」と呼ばれています。
近年、このさい帯血移植において、移植前の抗がん剤や放射線の量を少なくして、体への負担を減らす「ミニ移植」と呼ばれる移植法が開発されました。
もちろん、この治療法も決してリスクのないものではありませんが、高齢者の白血病治療に向けた有効な治療法として認識されるようになっています。
ただ、高齢者の場合はこうした治療が重要である一方で、支障なく家族と一緒に生活できること、普通に過ごせる状態を少しでも長くすることなども大切です。
移植は大きなリスクを伴う治療法であり、最悪の場合、命を落としてしまう危険性もあります。高齢者の白血病治療は単に完治を目指すだけでなく、その後の生活を考えることも重要なのかもしれません。

今回は高齢者における白血病の問題について考えてきました。移植などの治療法の改善により、白血病治療は治療を終えた後のQOL(生活の質)をいかに維持することができるかが問われるようになってきています。
高齢者における白血病に対する治療法や向き合い方をめぐる研究・議論は、今後もさらに積み重ねていく必要があるでしょう。
みんなのコメント
ニックネームをご登録いただければニックネームの表示になります。
投稿を行った場合、
ガイドラインに同意したものとみなします。
みんなのコメント 16件
投稿ガイドライン
コミュニティおよびコメント欄は、コミュニティや記事を介してユーザーが自分の意見を述べたり、ユーザー同士で議論することで、見識を深めることを目的としています。トピックスやコメントは誰でも自由に投稿・閲覧することができますが、ルールや目的に沿わない投稿については削除される場合もあります。利用目的をよく理解し、ルールを守ってご活用ください。
書き込まれたコメントは当社の判断により、違法行為につながる投稿や公序良俗に反する投稿、差別や人権侵害などを助長する投稿については即座に排除されたり、表示を保留されたりすることがあります。また、いわゆる「荒らし」に相当すると判断された投稿についても削除される場合があります。なお、コメントシステムの仕様や機能は、ユーザーに事前に通知することなく、裁量により変更されたり、中断または停止されることがあります。なお、削除理由については当社は開示する義務を一切負いません。
ユーザーが投稿したコメントに関する著作権は、投稿を行ったユーザーに帰属します。なお、コメントが投稿されたことをもって、ユーザーは当社に対して、投稿したコメントを当社が日本の国内外で無償かつ非独占的に利用する権利を期限の定めなく許諾(第三者へ許諾する権利を含みます)することに同意されたものとします。また、ユーザーは、当社および当社の指定する第三者に対し、投稿したコメントについて著作者人格権を行使しないことに同意されたものとします。
当社が必要と判断した場合には、ユーザーの承諾なしに本ガイドラインを変更することができるものとします。
以下のメールアドレスにお問い合わせください。
info@minnanokaigo.com
当社はユーザー間もしくはユーザーと第三者間とのトラブル、およびその他の損害について一切の責任を負いません。
2020年9月7日 制定