労災請求件数1位は介護事業!ストレス事情が明らかに
医療・福祉業界は心に問題を抱えやすい
2017年度に精神障害による労災請求件数がもっとも多かった業種(大分類)は「医療、福祉(介護分野も含む)」分野だったことが、2018年10月に発表された厚生労働省の「過労死白書」において明らかにされました。
業務中の心理的負荷により精神障害を発病したと訴える労災請求件数は、全業種において年々増加。
2017年度は、前年度から146件増となる1,732件に上りました。
そのなかでも多いのは「医療・福祉」分野における労災請求で、同年度では前年度比11件増となる313件。
実際に労災支給決定がされた認定件数は82件で、「製造業」の87件に次ぐ件数です。
そして、この大分類をさらに細かく分けたとき、精神障害による労災請求件数が最多となったのは、またしても介護職を含む「社会保険・社会福祉・介護事業」。ストレスの多い介護業界の実情が、改めて浮き彫りとなったのです。

今回の調査結果は、「福祉」や「介護」がいかに心に問題を抱えやすい仕事であるのかを明確に示しています。
介護職員のストレス要因は人間関係と排泄処理
公益財団法人介護労働安定センターの「平成28年度介護労働実態調査」によれば、介護職の「介護事業所を辞めた理由」としてもっとも多かったのは、「職場の人間関係に問題があった」の23.9%。
次に続くのは「理念や運営のあり方に不満があった」(18.6%)でその下に「自分の将来の見込みが立たなかった」(17.7%)があります。
上司・先輩や同僚との人間関係で悩む人、所属する介護施設・事業所に合わず苦痛を感じる人、将来に不安を感じる人など、心に問題を抱えやすい状況に直面し、退職に追い込まれている人の割合が多いのです。
さらに介護職は、仕事内容自体でもストレスを抱えやすいと言われています。
内閣府が在宅介護経験者に対して行ったアンケート調査によれば、「介護において一番ストレスになるのは何か」という質問に対して最も回答割合が多かったのは、「排せつ(特に排泄時の付き添い、おむつの交換など)」(62.5%)でした。
一般的に介護保険の「要介護3」以上になると排泄障害に陥ると言われていますが、高齢者の要介護度の重度化は年々高まりつつあり、排泄障害を持つ高齢者は今後さらに増加していく見込みです。
日々の排泄介助への対応に追われるなか、ストレスを蓄積させていく介護職員もそれに合わせて増えていくと考えられます。
介護職員が発症しやすい「燃え尽き症候群」とは
発症するとそのまま休職・退職するケースも
そして現在、介護職がかかりやすい心の病気として指摘されているのが、「燃え尽き症候群(バーンアウト)」です。
燃え尽き症候群とは、意欲を持って仕事に取り組んでいた人が、ある日突然にやる気を失ってしまい、虚無感のなかで仕事に手がつかなくなる症状のことをいいます。
主に、心理的ストレスの大きい対人サービスに従事する看護師や介護士、教師が発症しやすい症状です。
燃え尽き症候群を発症すると、以下の症状を発症するといいます。
肉体的症状
- 吐き気
- 不眠
- 食欲不振
- 高血圧
- 息切れ
- 胃腸の障害
精神的症状
- 仕事に対する意欲の減少
- 他人に無関心になる
- 怒りっぽくなる
- 自分に自信がなくなる
発症するとそのまま休職・退職するというケースも多く、介護職における典型的な精神障害のひとつです。
燃え尽き症候群・介護職うつは「伝染」する
介護職では「うつ病(介護職うつ)」を発症する人も少なくありません。うつ病は、「朝起きると前向きな考え方ができず、絶望感に襲われる」「何事に対しても無気力になる」「食欲がなくなる」などの症状が強く現れる心の病気です。
介護職の場合、離職理由の最上位でもあった職場での人間関係の悩みや介護現場での重労働、人の命を預かるためにミスが許されないなど、精神的にストレスが溜まりやすいので、発症しやすい環境にあると言えるでしょう。
介護職うつは燃え尽き症候群と同じく心の病の一種ですが、燃え尽き症候群と症状に違いがあります。
燃え尽き症候群は「他者に対して怒りの感情を持つ」「喪失感」「自分をもっと評価してくれる人にあこがれを持つ」といった特徴があるのに対し、介護職うつ病は「罪悪感が強く、自分を責める」「気分の落ち込みが一貫して続く」などの症状が特徴です。
また、うつ病は再発率も高く、発症を繰り返すごとに発症率は上がっていくとされています。

もし、職場内で介護職うつや燃え尽き症候群を発症して休職・退職する職員が現れたら、残された他の職員の負担が重くなり、うつ病の連鎖が起こることもあります。
人間関係が円滑ならば燃え尽き症候群は予防できるが…
男性よりも女性が燃え尽き症候群になりやすい
大阪府内の特別養護老人ホームを対象に行われた調査では、介護職員における燃え尽き症候群には男女間に有意差がみられ、女性の方が男性よりも発症例が多いという結果が出ています。
また、男性は職場外よりも職場内で相談できる相手を重視しているのに対し、女性は職場内・外の両方に相談相手を必要としているという傾向もみられ、女性は男性よりもきめ細やかなサポートが必要であるとのこと。
ほかにも同調査では、「上司や同僚との人間関係が悪い」「介護サービス利用者との関係が良くない」「仕事にやりがいが感じられない」といった場合に、燃え尽き症候群になりやすいことが明らかにされています。
介護職は人との直接的な関係性が重要となる仕事。他の職員や利用者との人間関係を上手く構築できるかどうかは、精神障害に直面することなく仕事を続けられるかどうかの分岐点になっているとも述べられています。
介護職員が職場に長く勤める環境とは
同調査において、「介護職員が職場に長く勤める環境」について論じられています。結論として、以下が述べられています。
- 職員一人ひとりの性格、特徴に配慮したメンタルケアを行うこと
- 対人関係構築のための訓練を職場で行っていくこと
- 満足のいく収入を職員に対して保障
- やりがいを感じてもらう環境をつくること
上記を守るためには、施設の理事長や現場のマネジメントを行う施設長が、日頃から介護職員の意見やニーズをくみ取り、職場環境・労働条件・福利厚生システムの中に活かしていく必要があります。

また、時代の変化とともに介護職員の仕事に対する意識も変化し得ることを認識し、世代の異なる職員が各々どのような価値観を持って働いているのか、情報収集を怠らないようにすることも大切です。
「実際、それを行う暇も余裕もない」という施設もあるでしょうが、介護業界はただでさえ人材が足りないうえに、これからも需要は上がります。今いる介護職員を、燃え尽き症候群や介護職うつで休職・退職しなくともすむ状況を作ることが急務です。
今回は介護職における心の病に焦点を当てて考察してきました。人手不足が続くなか、有能な介護人材を確保・維持し続けるには、就労者の個別性に配慮した心のケアが必須です。介護施設・事業者側には、職員のために有効な対策を取ることが望まれます。
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2020年9月7日 制定