一人暮らしの女性高齢者の5割が貧困に!「離婚」と「年金」が貧困リスクを高める
貧困に陥る高齢女性が急増している
65歳以上の高齢女性の相対的貧困率は52.3%
昨今、高齢者の生活保護世帯が増加していることなどから、高齢者の貧困が注目を集めています。
2010年版の『男女共同参画白書』によれば、全人口における等価可処分所得(収入から税・社保等を除いた手取り収入)の中央値の半分未満である相対的貧困率を見ると、65歳以降の高齢者においては22.0%。
これは、国や地域の大多数に比べて貧しい状態を指し、高齢者の5人に1人以上が貧困状態に陥っているということになります。
さらに、この相対的貧困率は一人暮らしの高齢男性の世帯では38.3%、一人暮らしの高齢女性の世帯では52.3%まで上昇。単身者、特に高齢女性の単身者においては、深刻な貧困に陥っていることが判明しているのです。

厚生労働省が発表している男女別・年齢別の相対的貧困を見ると、男女ともに55歳以上で上昇する傾向がありますが、総じて女性の方が男性に比べると高くなる傾向があります。
さらに、65歳以上でに生活保護を受給している女性の人数は男性よりも多く、生活保護を受けている高齢女性の中では女性単身世帯が7割以上を占めています。こうした男女の経済格差は高齢期に深刻化する傾向にあります。
単身高齢世帯は倍増、そのうち7割近くが女性
この高齢女性の貧困問題は、単身高齢者の増加にも一端があると考えられています。
日本は現在、総人口に対して65歳以上の人口が占める割合である高齢化率が世界で一番高い超高齢社会に突入しています。
さらに、厚生労働省が発表している『平成28年簡易生命表の概況』によれば、平均寿命に男性が81.09歳、女性が87.26歳と、女性の方が寿命が長いのです。
65歳以上の高齢男性は1,525万人、女性は1,988万人で女性が男性より463万人多くなっています。
そのため、同じ年の夫婦、あるいは男性が年上の夫婦においては、女性が死別による単身者になる可能性が高いとされています。現在単身高齢世帯の7割が女性となっていると言われています。
しかし、こうした特徴があるにもかかわらず、高齢者の雇用に関しては、女性よりも男性の方が多いという状況になっています。
総務省が発表している『労働力調査』の2016年度版によれば、65~69歳の男性の就業率は53.0%、70~74歳は32.5%であるのに比べ、女性は同順で33.3%、18.8%にとどまっています。
単身になってから働いて収入を得ることが難しいのが現実。
また、1960年代から1990年代にかけて女性の就業率は5割程度でしたが、男性雇用者の9割が近くが正規従業員であったのに対して、女性の正規従業員は53.2%でした。
こうした若いころからの所得差や貯蓄率により高齢期の資産格差は、男女の所得格差以上に大きいと考えられ、高齢単身女性は老後の資産を形成しにくいのです。
高齢女性が貧困化する理由は「離婚」と「年金」
高齢女性は熟年離婚で貧困リスクが26%増える!
雇用の問題以外にも、離婚や死別で単身となった高齢女性が貧困に直面する理由はいくつか指摘されています。
まず、高齢女性の貧困には、離別や配偶者との死別が影響を与えるとされています。同じく厚生労働省が発表した統計によれば、2013年における50歳以上の離婚件数は5万7,573件。
これは1970年の5,416件と比べると10倍以上に。
また、60歳以上の離婚に関しても、1995年に2,401件であった離婚件数は、2012年で7,823件となっており、3倍以上になっているのです。
この数字からも、熟年離婚が非常に多くなっていることがわかります。

配偶者である男性との離別がそのまま収入を失うことに繋がってしまうのです。高齢期になっても働きやすい男性に比べて、女性は高齢期になると就職が難しいため、この男性の勤労所得を失うことが貧困に繋がりやすい面があります。
また、もうひとつが、公的年金給付を失うということです。
多くは配偶者が被雇用者で、厚生年金や共済年金などを受け取っているケースになるでしょう。
死別した場合は遺族厚生年金が受給可能で、離婚したとしても年金分割により元配偶者の年金を分割してもらうことが可能ですが、いずれにせよ給付額は減ってしまいます。
そして、配偶者が自営業などで国民年金にだけ入っていた場合は、遺族年金などはなく、離婚しても65歳以上であれば受け取れるのは自分の年金額だけになってしまいます。
国立社会保障・人口問題研究所の資料によれば、配偶者との離別・死別は65~74歳女性で相対的貧困リスクを増大させる効果があるとされています。特に死別では10%ほどであるのに対して、離別ではなんと26%もリスクが増大するというのです。
専業主婦を前提にした日本の社会保障制度
こうした多くの問題は、日本の社会保障制度が女性単身で長生きするというケースを想定して作られていないことに起因します。
これらの制度が作られた高度経済成長期の日本では、主に男性が一家の大黒柱として収入を得て、大家族を支えるというモデルが一般的でした。そのため、女性は専業主婦か、あるいは家計の助けになる程度のパートタイマーとなることを期待されてきたのです。
そうした中で、女性は配偶者と死別した後は、配偶者の退職金や生命保険と年金で過ごす、あるいは息子の世話になるという形が一般的となっていました。
しかし現在はこうした家族の形は変わりつつあり、世帯内で老後の経済的保証を担ってきた三世代世帯が減少し核家族化が進行。
医療などの進歩の影響で、平均寿命も延びています。
つまり、これらの社会保障制度が設定された前提自体が、時代に合わなくなってきてしまっているのです。
厚生労働省の調査によれば、収入が公的年金のみの受給者の63%を女性が占め、うち57%の年金収入は100万円未満。
くわえて、少子高齢化による財政難で、年金の支給開始年齢が引き上げられているのも、こうした貧困問題へ拍車をかける一因となっているのです。この対策として政府は「人生100年時代構想」「一億総活躍社会」を掲げて高齢者の雇用を促進しています。
しかし、専業主婦やパートタイマーの経験しかない女性たちはキャリアやスキルに乏しくなりがちで、先に述べたように就職が難しいという現実が存在しているのです。
一人暮らしの高齢女性が安心して生活できる制度が必要
介護や育児をしていても年金を満額貰える保護制度が
こうした単身女性の高齢期の貧困化を防ごうと、イギリスでは早くから高齢者向けの保証政策に取り組んでいます。
同国では、高齢低所得者対策として、「ペンションクレジット」という制度を取っています。これは、60歳以上の年金などの収入が最低限の生活水準に満たない人にその差額を支給するものです。
2005年の資料によれば、この「ペンションクレジット」によって、人間として最低限の生活が送れない絶対的貧困から脱した人は190万人で、このうち女性は130万人であったことが判明しています。
イギリスではさらに、女性に多い育児や介護への従事者に対し、家庭に責任を持つ者への保護制度(HRP)が導入されています。これは同国の基礎年金の満額受給要件の必要年数から、育児や介護の期間を引き、満額年金を獲得しやすくなるというものです。
日本にも高齢女性の所得セーフティーネットとしては「公的年金」と「生活保護」があります。
いずれも一定の保証機能を果たしているものの、高齢単身女性のうち所得が生活保護基準額を下回る世帯の割合は、実際の生活保護捕捉率を大きく上回っています。
現在の制度は必ずしも十分なセーフティーネットとして機能しているとはいえません。
また、女性に低年金者が多いことや無年金者が将来100万人を超える見通しであるなど、今後は、資産調査や扶養義務者の調査のあり方等を再検討することも求められます。
日本においても、単身高齢者の増加を見込み、こうした介護や育児の従事者となる女性への社会保障を手厚くして水際対策をすることや、高齢単身者への直接的な社会保障制度を作るべきだと専門家から声が上がっており、早急な対策が必要です。
高齢女性の貧困対策は雇用政策とセットで行う必要がある
日本でこうした単身高齢女性を救済するための策として提唱されているものとしては、短時間労働者への厚生年金の適用拡大が挙げられます。
厚生年金の適用拡大自体は2016年に実施されましたが、労働時間や賃金、会社の規模や年齢など多くの要件があったために、適用される人は限定されていました。
しかし、現在はより要件を緩和し、パートタイマーなども対象となるような適用拡大について、2020年の法案提出を目標として議論されています。
また、女性の勤務経験やスキルの取得などが円滑に行えるように、労働環境の整備をすることも、水際対策のひとつとして有効です。
介護や子育てに従事せざるを得ない環境になったとしても、多様な働き方や、政府のサポートが受けられることによって、それらと仕事が両立できるような環境を作ることで、将来の貧困化を防止できる可能性があります。
公的支出での援助だけでなく、こうした環境を整えることで、女性にも納税者として社会保障の支え手になってもらうことが、財源確保という観点でも重要です。

そのため、女性の社会進出と支援はセットで行うべきだと言えるでしょう。いずれにせよ、今後の日本には公的年金の枠組みを始めとして、長寿社会への対応を見据えた政策の転換が必要です。
離婚や死別をしても、高齢者が安心して暮らせる社会の実現が、今まさに望まれているのです。
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2020年9月7日 制定