70代から導入するケースが多い人工透析!腎臓病患者が高齢化で増加している
毎年3万人が新たに治療を開始し、透析患者は32万人に急増中
「透析中止」で治療を受けなかった患者のほとんどが高齢者
東京都福生市の「公立福生病院」で2018年8月、腎臓病患者の女性に対して病院側が「人工透析治療をやめる」という選択肢を示し、中止を選択した結果死亡するという問題が起こりました。
さらにその後の調べで、亡くなった女性患者以外にも透析治療を行わない選択肢を患者に示していたことが判明。
福生病院に立ち入り検査した東京都は、透析を受けない選択をした患者17人と、中止した患者4人のあわせて21人の死亡を確認していて、今後、医療法に基づき指導を行う方針です。
人工透析とは、腎不全により腎臓の働きが不十分になったとき、その機能を人工的に代替する「腎代替療法」のひとつです。
人工透析の導入原因として最も多いのが「糖尿病」で、高齢化が進み、生活習慣病患者が増えていることもあり、透析を受ける腎臓病患者は年々増加。特に高齢者に多く、日本における透析導入の平均年齢は70歳前後といわれています。
今回、福生病院側が明らかにした透析治療を受けていない21人においても、そのほとんどが高齢者でした。
高齢化の影響で透析患者の6割以上が高齢者に
日本透析医学会の統計調査によれば、透析患者は年々増え続けており、2016年時点での患者数は32万9,609人で、1年間で新たに3.93万人の患者が人工透析の導入を開始しています。

特に現在、透析患者の高齢化が問題視されつつあり、日本透析医学会の『わが国の慢性透析療法の現況』によると、1985年当時の導入患者の平均年齢は54.4歳だったのに対して、2017年では69.7歳。約30年の間に平均年齢は15歳以上も上がっています。
また、透析導入患者を年齢別に見てみると、最も割合が高い年齢層は、男性が75~79歳、女性は80~84歳です。男女とも後期高齢者(75歳以上)の患者数が多くなっています。
透析患者全体に占める65歳以上の割合は10年前の2009年の時点で6割を突破。2030年ごろまで、特に75歳以上の透析患者の割合が増え続ける見込みです。
公的助成制度が確立していることもあり、人工透析を受ける高齢者は今後もさらに増えていくと予想され、「透析患者数の増大化」は、高齢化の進展に伴って深刻な問題になりつつあります。
生涯つづく治療が高齢者の身体的・精神的負担に
原因は20歳以上の8人に1人が発症する腎臓病
透析治療を受けている高齢者の多くが慢性腎臓病を抱えています。これは、3ヵ月以上続くすべての腎臓病を指しますが、日本だけで約1,330万人の人が該当し、20歳以上の8人に1人が発症すると指摘されています。
生活習慣の乱れなどから、加齢とともに誰にでも発症するリスクがあり、糖尿病など生活習慣病のリスクに直面しやすい高齢者は、特に注意が必要です。
腎臓の働きが次第に衰え、本来持っている機能の10%以下まで低下すると、自分の腎臓だけでは自身の血液を浄化できなくなり、体内に老廃物が蓄積して食欲低下、頭痛、倦怠感、嘔吐といった尿毒症状が現れます。
また、体液のバランスが取れないために心不全や肺水腫を発症し、呼吸苔や息切れなどの症状を引き起こすことも多いです。命をつないでいくためには、自分の腎臓を使うことをあきらめ、透析療法によって血液をきれいする必要があります。
しかし高齢者にとって、1回4時間ほどかかる治療を週に3回、しかも生涯ずっと継続しなければならない透析治療は、身体的負担だけでなく精神的負担も大きくならざるを得ません。
透析を受け続けることに対する不安が精神面に悪影響を与えやすく、また透析を受け続けることで起こる「かゆみ」や「不眠症」といった身体的症状が、精神的なストレスの原因になることも少なくないのです。
80歳以上だと早期死亡リスクが15%上昇する
しかし近年、医学研究において80歳以上の高齢者の場合、透析治療後に早期死亡のリスクが高まる恐れがあることも明らかにされています。
聖マリアンナ医科大学で行われた研究・分析によると、2007年に透析導入をした80歳以上の患者5,181人についてその後の死亡割合を追跡したところ、3ヵ月後に亡くなった人は全体の15.8%、6ヵ月後に亡くなった人は21.9%、そして1年後に亡くなった人は30.0%という結果になりました。

ただ、こうした研究結果が出ているとはいえ、「早期死亡のリスクが高いので、透析導入を控える」という判断は不適切との指摘もあります。
実際、冒頭で上げた公立福生病院で亡くなった女性患者をめぐる問題は、病院側が「治療を中止する」という選択肢を患者側に与えたことによって起こりました。
透析治療を受けることによる負担を避けるため、あるいは早期死亡のリスクを避けるために病院側が透析の非導入の選択肢を提示することは、終末期の「延命治療」や「尊厳死」をめぐって行われる提示と同様に扱うことは難しいのです。
国内で3%しか導入されていない「腹膜透析」
透析患者を受け入れ可能な介護施設は535施設中わずか4施設のみ
さらに高齢者の透析治療をめぐっては、介護施設への入居が難しくなる、というのも大きな問題です。
2015年に東京医科大学が発表した『介護保険施設における透析療法の受け入れに関する実態調査』によると、透析患者の受け入れ状況について関東周辺の介護保険施設に対してアンケート調査を行ったところ、回答を得られた535施設のうち、受け入れている施設はわずか4施設のみでした。
施設が受け入れていない理由としては、「急変時の対応体制の不備」(23.2%)、「問い合わせがない」(22.1%)、「液交換ができない」(20.4%)が多くなっていました。
ただ、この調査では、「(透析治療の)体制を整えれば受け入れ可能」と答えた施設は34.4%に上っており、適切な受け入れ体制さえ整備できれば対応できると考えている施設が多いことも明らかにされています。
実際、近年では透析患者専用の施設も登場し始めており、例えば愛媛県松山市で訪問介護事業を展開している事業者は、昨年6月に人工透析患者向けの住宅型有料老人ホームを開設。
施設が保有する専用車で透析のための通院ができ、入居者の病態に合わせた食事を日々提供しているといいます。
高齢者の透析治療には「生活の質(QOL)」が重要に
透析の治療方法を見直すことも、高齢者の負担を減らす方法のひとつです。
日本では3%しか導入されていない腹膜透析(体の中の「腹膜」を利用して血液をきれいにする方法)ですが、患者の「生活の質(QOL)」高められることから、一般的に行われている血液透析よりも高齢者のメリットは大きいという専門家もいます。
どのような透析方法を取るべきか、本人が選択できるように、治療方法により幅を持たせていくことも今後必要でしょう。

また、今後の高齢者の透析治療においては、患者の意思を重視し自分が希望する終末期の医療・ケアについて、事前に考え、医療・介護のケアチームと繰り返し話し合い、共有するACP(アドバンス・ケア・プランニング)という考え方も重要になってきます。
本人の年齢や身体状況に応じたガイドラインを作成すること、そして医療側と患者側が齟齬なくコミュニケーションを取り合える体制を作ることが、高齢化社会の進展とともに必要なのです。
今回は高齢者と人工透析の問題について考えてきました。高齢化が進む中、透析治療をどのように行っていくべきかをめぐっては、今後さらに議論を呼びそうです。
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2020年9月7日 制定