訪問介護のための事業所加算が低調に
特定事業所加算の届け出が全体の4割に満たない
厚生労働省は3月14日、有識者らが介護報酬改定の影響を分析する「検証・研究委員会」の会議の場で、居宅介護支援(ケアマネージャー)の最新状況に関する調査を1,288事業所を対象に行い、結果を公表しました。
それによると、2018年10月時点で特定事業所加算の届出を出していた事業所は全体の39.0%。「届け出ていない」が59.1%にも上っていることが明らかとなりました。届け出をしていない事業所の方が、圧倒的に多いのです。

また、届け出がなされた加算の内訳をみると、最も条件が厳しく、それだけにサービスが充実し報酬も大きい「加算Ⅰ」を取得している事業所は、全体のわずか5.4%。
全体の53.8%が「加算Ⅱ」を取得し、もっとも要件が軽い「加算Ⅲ」を取得している事業所が31.9%となっています。
特定事業所加算は、質の高いサービスを提供している居宅介護支援事業所を評価する加算。
しかし、今回の結果をみると全体的に加算の取得率が低く、取得している場合でも、最も評価の高い「加算Ⅰ」を取得している事業所は極めて少ないです。
なぜこのような状況が生じているのでしょうか。
事業所加算には既に問題が指摘されていた
特定事業所加算とは、専門性の高い人材を配置し、介護度が高い利用者・支援が難しい状況に置かれている利用者に対して、積極的にケアマネジメントを実施している居宅介護支援事業所を評価する加算です。
地域全体の介護サービスの質を高めることが加算導入の目的で、実際に加算を受けるには、厚生労働大臣が定めている算定要件を満たす必要があります。
具体的には、まず事業所の運営体制に関する要件としては、ケアマネに対する研修の実施や定期的な会議の開催、事業者負担による健康診断を行うことなど。
さらに、人材に関する加算要件としては、ケアマネに占める介護福祉士の割合が30%以上であること。実務者研修等を修了している職員の割合が50%以上でなくてはいけない。実務経験のあるサービス提供責任者の配置などが基準として設けられていました。
こうした加算要件のほかにも「要介護4・5の中重度者が利用者の5割以上でなければならない」「主任ケアマネを配置する」などの基準を満たすことができる事業所が少ないことから要件の緩和を求める声が上がっていました。
ただ加算要件を巡ってはもうひとつ大きな問題が浮上しています。昨年の制度改定でさらに人材育成などを目的とした新たな要件が加わったのです。
改定後の新たな加算要件「共同研修実施」の問題
過半数の職員が「業務が多忙で時間の確保が難しい」と回答
2018年度に行われた介護報酬改定では、医療・介護連携をさらに強化するために、「ほかの法人が運営する居宅介護支援事業者と共同の事例検討会・研究会等を実施する」「地域包括支援センター等が実施する事例検討会等への参加」が追加されました。
しかし、昨年行われたこの改定のうち、前者の「ほかの法人が運営する事業者との共同研修会の実施」が、加算を受けるうえで課題となっている実情があります。
冒頭で紹介した検証・研究委員会の調査によると、共同研修会を実施するうえでの課題を尋ねたところ、「業務が多忙で時間の確保が難しい」(51.9%)との回答が最も多く、ほかにも「講師の確保が難しい」(27.8%)、「研修内容を考えることが難しい」(24.9%)などの意見が多くなっていました。

他事業者と協力して研修会を開くということは、人手不足が続き、日々の仕事に追われている居宅介護支援事業所にとって、ハードルの高い要件になってしまっているのです。
4割のケアマネが研修費用を全額自己負担している
さらに介護支援専門員協議会が居宅介護支援事業所1,871ヵ所を対象に行った『介護支援専門員の労働環境の実態調査』によれば、法定研修を受けるための研修費用については、「全額自己負担」が全体の37.8%、所属先の事業所が全額負担してくれているのは48.7%でした。
また、残業代については、手当として「特になし(明確な規定がない)」という回答が40%以上に上るとの結果にもなっています。現実問題として、ケアマネジメントという業務が、定時のなかで処理しきれない複雑な仕事であることが調査からも見て取れます。
こうした、研修費用の負担の問題(加算に必要な研修を行うにあたって、全額自己負担であれば個々の介護支援専門員にとって、事業所負担であれば各事業所にとって負担増となる)、そして残業が当たり前という多忙な状況が、特定事業所加算の要件を満たすうえでの壁となっていると考えられます。
8割が小規模事業所という現状を反映した制度が必要
「加算」が多忙を極めるケアマネの負担増に
先述のアンケート調査によれば、同県内の「単独(個人)」の介護支援事業所は全体の28.0%と3割近くに上っています。
また、単独に限らず事業所内での介護支援専門員の人数が「1~3人」の事業所の数をみると、全体の80.6%を占めているのです。つまり、ほとんどの事業所が少人数での運営をしているのが実情と言えます。

仮に取得しても、継続して行わないといけない業務が増え、各介護支援専門員の負担はどうしても増えてしまうでしょう。
昨年追加された特定事業所加算の要件は、こうした現場の現状をきちんと把握したうえで行われたのか、疑問を感じざるを得ません。
もともと特定事業所加算に対しては、「書類負担が増加する」「申請作業が煩雑である」といった現場の声も挙がっていました。昨年の加算要件の追加は、こうした状況に拍車をかける内容とも言えます。
厚生労働省の調査によれば、ケアマネージャー1人あたりの利用者数は、「30人以上40人未満」が33.2%と最も多く、次いで「20人以上30人未満」が28.7%ととなり、平均は27.1人でした。
折からの人手不足も相まってケアマネ1人あたりの業務負担は想像以上に大きくなっているのです。
高齢者の不利益にもなりかねない
厚生労働省が加算要件を追加した意図は、ケアマネジメントの質の向上に結び付けていくことだったはずです。
しかし、加算を取得するための要件が現状に必ずしもそぐわず、結局、地域で頑張っていた人が事業の継続を諦めてしまったとしたら、必要なサービスを受けられないという形で利用者にしわ寄せがいくことになるでしょう。
それは、まわりまわって、地域に住む高齢者の不利益にもなってしまいます。
「ほとんどの事業所が少人数であり、日々の業務に追われている」という居宅介護支援事業所の現状を踏まえたうえでの加算のあり方について、今後考えていく必要があるのではないでしょうか。
今回は、居宅介護支援事業所の特定事業所加算について考えてきました。2025年に団塊の世代が後期高齢者となるなど、日本では、地域による介護や看取りが必要となりつつあります。
ケアマネージャーが果たす役割の重要性は高まりつつあり、ケアマネジメントの質の向上のためにも、現場の実情に即した加算のあり方が求められています。
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2020年9月7日 制定