介護福祉士試験の合格率は過去最高に!「外国人介護士」増加で職員の賃上げ・待遇改善はどうなる?
「第31回介護福祉士国家試験」合格者の70.4%が女性
約7万人の新たな介護福祉士が誕生!
厚生労働省は3月27日、「第31回介護福祉士国家試験」の合格発表を行いました。
今回の受験者数は9万4,610人で、そのうち合格したのは6万9,736人。
合格率は73.7%となり、これまでの最高であった2017年に行われた第29回試験の72.1%を上回って過去最高を記録しました。

合格者の内訳を性別で見てみると、男性が2万673人で女性が4万9,063人で、割合では男性が29.6%、女性が70.4%となっています。合格者全体の約7割を女性が占めているという状況です。
続いて合格者の受験資格別でみると、「社会福祉施設の介護職員等」が全体の半数以上となる4万2,523人で、「訪問介護員等」が1万287人、「介護老人保健施設、介護医療委の介護職員等」が4,505人、「医療機関の看護補助者等」が4,708人となり、施設やホームヘルパーが合格者の8割以上を占めています。
一方、「介護福祉養成施設」は5,210人、「福祉系高等学校(専攻科を含む)」は2,450人となり、養成校や福祉系高校を出て取得した人は全体の1割程度です。
今年行われた第31回試験では合格率こそ過去最高となりましたが、実は「合格者数」でみると、以前よりもかなり減少しています。
介護需要の高まりに反して減少する受験者数
最も合格者が多かったのは2013年度に行われた第26回試験ですが、このときの合格者数は9万9,689人。一方、今回発表された第31回試験は、先述の通り6万9,736人で、ピーク時の7割程度でした。なぜこれほど合格者が減ってしまったのでしょうか。
その最大の要因は、受験者数の減少です。2016年の第28回試験までは、介護職として働いている人を対象としたいわゆる「実務者ルート」の受験資格は、「実務経験が3年以上」という内容でした。
ところが、2017年実施の第29回試験からは、実務経験3年以上に加えて、新たに「実務者研修」の受講を受けていることが必須とされたのです。実務者研修を終了するためには合計で450時間もの講義・演習を受講しなければなりません。
この受験資格の厳格化により受験者数は激減。
第28回試験では15万2,573人いた受験者は、翌第29回試験では7万6,323人と半数近くにまで減ってしまったのです。
その後、第30回(9万2,654人)、第31回(9万4,610人)と回復傾向はみられるものの、受験資格変更前の水準にはまだ戻っていません。
高齢化の進展とともに介護人材へのニーズは高まっており、厚生労働省の調査によると、2016年(介護人材数は約190万人)を基準としてみた場合、2020年にはそれよりもプラス26万人、2025年ではプラス55万人もの介護人材が必要との結果が出ています。
このように介護の専門家である介護福祉士へのニーズが高まる一方で、受験者数の減少は深刻な問題です。
受験者増加には「給料アップ」と「専門性発揮」が必要に
資格を所得してもメリットがないと回答している介護福祉士は9割にも
ただ、受験者数が低迷している原因としては、受験資格の変更のだけでなく、介護福祉士資格の取得に魅力を感じない介護職員が増えている、ことも大きく影響していると考えられます。
そもそも介護福祉士は、社会福祉専門職となる介護の「国家資格」です。社会福祉士・精神保健福祉士と並んで「福祉系三大国家資格」のひとつとして位置づけられています。
資格取得者は介護現場で業務を行うほか、働くスタッフに指導・アドバイスを行うことも期待され、介護現場のリーダー的役割を担う存在として認識されることも多いです。
しかし介護福祉士を対象とした調査では、「待遇」に不満を感じている人が多いことが明らかとなっています。
2017年に介護福祉士を対象に行われた民間の調査では、「介護福祉士の手当や待遇に満足していますか」との質問に「いいえ」と答えた人は87.3%にも上りました。

さらに、厚生労働省の調査では資格を取得したメリットを感じるにはどうすればいいかという問いに対し、ほとんどの介護福祉士が「給料アップが必要」と回答しています。
実際に介護福祉士として働いている多くの職員が、「資格取得は待遇の変化に寄与していない」という実感を持っていることは明らかです。今後の急速な高齢化に備えて、介護人材確保のためのにも賃上げは必須なのです。
介護福祉士の8割が「実務に変化なし」
また、介護福祉士資格を取得したのに、業務内容がまったく変わらないという問題も受験者数低迷の原因です。
特に、介護現場における生活援助(洗濯、掃除、ベッドメイク、衣類の整理)や身体介護(食事・排泄の介助、移動・移乗の介助)は、新人とベテランの間での業務分担ができていないことも指摘されています。
実際、厚生労働省が介護福祉士を対象に行ったアンケート調査によれば、資格を取得して実務にどのような変化があったのかを尋ねたところ、「変化なし」との回答は80.6%にも上っています。
さらに、同省が介護福祉士を対象に「以前働いていた職場を辞めた理由」についてアンケート調査を行ったところ、13.2%の人が「専門性や能力を十分に発揮・向上できない職場・仕事だった」と回答。
介護福祉士としての専門性を発揮できず、そのまま離職してしまうケースも起こっているわけです。
厚生労働省の調査では、介護職に就職した人の約73%が就職後3年以内に離職しているとのデータも出ていますが、その中には、介護福祉士の資格を取得したものの、待遇や業務内容が改善されず、それゆえ早々に離職したという人も少なからずいるであろうと推測されます。
ベトナム人の合格率は平均を大きく上回り87%に
最大6万人の「外国人介護人材」の受け入れが始まる
現在、深刻な人手不足が続いている介護分野において、期待されているのが外国人介護士です。
今回合格発表が行われた第31回試験では、EPA(経済連携協定)に基づいて来日して資格取得を目指した外国人全体の合格率は46.0%で合格者数は過去最高の266人に上りました。
しかし、出身国によって合格率は大きく異なり、インドネシア(33.1%)、フィリピン(40.3%)の順で、ベトナムはなんと87.7%。
これは日本人も含めての全体の合格率である73.7%、さらに介護福祉士養成施設で受験資格を得た人の合格率である83.7%よりも高い値です。

EPAに基づき日本が受け入れた介護福祉士候補生の中から、ベトナム人93人が新たに介護福祉士国家試験に合格。これにより、初年の2018年と2019年を合わせたベトナム人の累計合格者数は182人になったことになります。
受け入れ先としては特別養護老人ホーム、介護付き有料老人ホームなどの特定施設、グループホーム、デイサービスなどが対象。事業所ごとの受け入れ人数の上限は「日本人の常勤介護スタッフの総数まで」としています。
政府は現在、2018年11月に実施された技能実習の解禁、そして4月に新たな在留資格である「特定技能」を創設したことを背景に、今後5年間で最大6万人の外国人介護人材の受け入れを計画しています。
これは、国内の深刻な人手不足を受けての、外国人労働者受け入れに向けての大きな政策転換です。
「特定技能」導入が人手不足解消のカギに
4月からの「特定技能」による在留資格の創設に先立って、既に先月から、厚生労働省と法務省は介護分野における外国人受け入れに関する説明会を各地で開催。
政府は現在、外国人介護人材の受け入れ先として訪問介護事業所は対象としていませんが、説明会では参加者から訪問介護でも必要との声も上がっています。
しかし、就労環境の改善なしには、「国内の人材が来なくなったから外国人」と次なる介護現場の担い手を国外に求めても、結局は、今までと同じ様に職員の離職が起こるだけです。
今後は人手不足解消に向けて外国人人材の活用は必須です。
しかしその前に、日本人の若い世代に「介護職として働きたい」と思ってもらえるような賃上げ・待遇改善策がまずは必要です。
また、介護福祉士資格にも適切な評価を行い、専門知識を活かせる働き方ができるよう対策を講じることも重要な今後の課題です。
今回は介護福祉士・介護人材に関する問題について考えました。必要な介護人材を確保するには、現在の介護現場の雇用あり方をまず見直す必要があるのです。
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2020年9月7日 制定