管理者資格の高額な研修費が問題になっている
主任ケアマネ研修の受講費は4万円以上もの負担格差が!
厚生労働省は3月19日、2017年度の主任ケアマネージャー研修の受講費において都道府県間で最大で4万1,004円の格差があることを公表しました。
最高額は広島県の6万2,000円で、最低額は秋田県の2万996円。
また、全体的に研修受講費自体が高額化していることも明らかにされ、2017年度の研修費用の全国平均は前年度から850円増となる4万3,690円となり、特に「実務研修」については前年度よりも約4,000円も高くなっていました。

同省は現在、2021年度から居宅介護支援事業所の管理者を主任ケアマネージャーに限定するとの方針を固めています。
しかし、その実現に向けては、研修費用における地域差・高額化の問題をはじめ、研修時間をいかにして確保するかなど、解決すべき課題は多いのが現状です。
会議の場で厚生労働省は、各自治体に対して「主任ケアマネージャーの研修受講が容易になるよう工夫して欲しい」と改めて要請。
主任ケアマネージャー資格の取得者を増やすために、研修を受ける際の負担を軽減化し、受講しやすい環境を整えるよう自治体の担当者に呼びかけています。
主任ケアマネ移行は訪問介護の「質の向上」が目的
厚生労働省が居宅介護支援事業所の管理者要件として主任ケアマネージャー資格を設けたのは、「研修を受けた質の高い人材によって事業所は運営されるべき」との考えからです。
同省の調査では、主任ケアマネージャー資格を持つ人が管理者である事業所は、そうではない事業所よりも「後輩が利用者宅を訪問する際に同行して支援する割合が高い」「ケアマネージャー同士で業務内容について話し合う時間を設けている割合が高い」との調査結果が出ていました。
主任ケアマネージャー研修のカリキュラムの中には、後輩のケアマネージャーを指導する方法や指導にあたって重視すべきポイント、人事管理のノウハウなども含まれています。
厚生労働省はこれら研修内容と調査結果から、「居宅介護支援事業所の管理者は主任ケアマネージャーである方が、質の高いサービスを提供できる」と判断したのです。
同省は2021年度からすべての居宅介護支援事業所に管理者として主任ケアマネージャーを配置するとし、2018~2020年度まで経過期間として設定しています。
しかし、主任ケアマネージャー研修の修了を必要とする人の規模を考えると、「本当に達成できるのか」との疑問を指摘する声も少なくありません。
移行期間1年が過ぎても43%が主任資格を取っていない
「本当に人材育成につながるのか疑問」との声が
介護現場においても、「居宅介護支援事業所の管理者を主任ケアマネージャーに限定する」ことへの否定的な意見は少なくありません。
日本介護クラフトユニオンが2017年12月に行ったアンケート調査によれば、「主任ケアマネージャーの研修内容と管理者は別なので反対」(34.4%)、「主任ケアマネージャー資格を取るための費用を法人が出してくれるなら賛成」(32.9%)、「業務負担が大きくなるので主任ケアマネージャーになりたくない」(23.0%)など、厚生労働省の方針を評価しない見方が強くなっています。
方針の発表にあたって、厚生労働省としては「2018年度からの3年間の経過期間において、必要な人員を要請・確保できる」とし、根拠となるデータを示しながら理解を求めていました。
しかし、現場の介護職員から消極的に受け止められていることもあって疑問の声はくすぶり続けており、経過期間終了の2021年度が近づくにつれて、居宅介護支援事業所の業務に混乱を引き起こすのではないかと懸念されています。
70時間に及ぶ研修が現場の負担に
厚生労働省は2018年10月に、全国1,288の居宅介護支援事業所を対象に調査を行いましたが、管理者が主任ケアマネージャーの資格を持っていない事業所の割合は、全体の43.7%に上っていました。
調査時点で既に経過期間の1年目を迎えていたわけですが、管理者が主任ケアマネージャー資格を保有していない事業所がなお4割強もあったことが判明しています。
また、主任ケアマネージャーになるには5年以上の経験が必要ですが、残り2年の経過期間では資格取得が難しい「経験3年未満」のケアマネージャーは、全体の17.2%に上っています。

主任ケアマネージャーの資格取得者が増えない理由としては、費用負担の重さもさることながら、研修時間が長いという点も指摘されています。
主任ケアマネージャーになるには、5年以上の実務経験に加え、70時間に及ぶ研修が必要です。
取得後も、資格を保有し続けるためには5年ごとに46時間にわたる更新研修を受講しなければなりません。
日々の多忙なケアマネジメント業務の合間から時間を捻出しなければならないため、研修受講が難しいのです。
2035年には深刻なケアマネ不足が起きる可能性も
ケアマネの負担軽減が今後の課題
主任ケアマネージャーになるには、まずケアマネージャー資格を取得していなければなりませんが、近年、このケアマネージャーの業務負担が増していることが明らかとなっています。
例えば2012年に三菱総合研究所が公表した『居宅介護支援事業所における介護支援専門員の業務及び人材育成の実態に関する調査』によれば、1つの事業所が抱える利用者数は平均で72.2人であるのに対し、ケアマネージャーの平均常勤職員数は2.8人。
つまり、事業所に勤務するケアマネージャーが1人で担当する利用者数は、平均で24~25人にも上るわけです。これはあくまで平均値なので、もっと多くの利用者を担当するケアマネージャーもいるでしょう。
また、「みんなの介護」で行ったケアマネージャーを対象としたアンケート調査では、「月末・月初の1日の残業時間は平均で何時間くらいですか?」と尋ねたところ、「3時間以内」との回答が65.1%に上りました。
担当する利用者が多く、残業に追われる…というのがケアマネージャーの実情であるわけです。

こうした状況もあり、厚生労働省は3月20日に開催された社会保障審議会・介護保険部会において、ケアマネージャーの負担軽減化に向けた環境整備、人員体制の強化に取り組む方針を明らかにしています。
現在、受験資格の変更などもあってケアマネージャー資格の受験者数が過去最低を記録しており、このままではさらに高齢化が進む2035年までに、ケアマネージャー不足が深刻化するのは避けられません。
ケアマネージャーの人員数を確保するには、業務負担量を改善して就労しやすい環境を整え、若い世代に「職に就きたい、資格を取りたい」と思ってもらう必要があります。
インターネットでの受講や受講費の補助が必要
激務が続くケアマネージャーにとって、主任ケアマネージャー資格の取得は高いハードルなのは間違いありません。
厚生労働省は冒頭にあげた政策会議の場において、「都道府県ごとに設けている基金(地域医療介護総合確保基金)を活用した研修受講費の削減」「研修の開催日程や開催期間の柔軟な対応」「eラーニングの活用」といった受講時の負担軽減策を各自治体の担当者に対して説明。
受講者を増やすために検討するよう求めています。
主任ケアマネージャー研修の受講を通してケアマネジメントの質を向上させ、より良い介護サービスの提供を目指すという厚生労働省の考え方は確かに重要です。
しかしそのためには、研修受講費を抑えることや研修日時を調整できるようにすること、さらに現場で働くケアマネージャーの業務負担量を減らして研修を受けやすくすることなど、取るべき対策はまだまだ多いのが実情と言えます。
今回は主任ケアマネージャー研修をめぐる問題について考えてきました。研修受講者を増やすには、現場で働くケアマネージャーが受講しやすいよう環境を整備し、受講における負担を減らしていく必要があります。
2021年度に向けてどのような施策が行われていくのか、今後さらに注目を集めそうです。
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2020年9月7日 制定