介護職員による高齢者の虐待件数が過去最多!要因は学習機会の欠如…虐待は人手不足が招いている
介護職員による高齢者の虐待件数は年間510件
暴力・拘束による虐待が割合の半分以上を占める
2019年3月、2017年度の介護職員による高齢者への虐待件数が過去最多を記録したと、厚生労働省より発表されました。この調査は、高齢者虐待防止法に基づき、厚労省が毎年実施しているもので、自治体によって虐待と判断された数を集計しています。
2017年度は前年度よりも58件多い510件となっており、この数は年々増加の一途を辿っています。集計はあくまでも件数であり、複数の被害者がいるケースもあるため、実際の職員による虐待の被害者は854人と、件数と比べて多いです。
行われた虐待の種類(複数回答)をみると、暴力・拘束など身体的な虐待が59・8%ともっとも多く、その後には暴言など心理的な虐待、介護放棄と続いています。
次に、なぜ虐待したのか(複数回答)をみると、「教育・知識・介護技術の問題」が60.1%と最多になっており、職員のストレスや感情コントロールの問題という回答が続いています。
また、虐待された高齢者のうち、82.2%もの人が認知症を発症していたことが明らかになりました。
どのような虐待があったのか
では、施設職員によって実際どのような虐待が行われているのでしょうか。
まず、もっとも多い虐待として挙げられたのが、「身体的虐待」です。
これは、暴力を伴う虐待であり、痛みを与えるような行為だけでなく、意図的に外部との接触を遮断するような行為もそれに含まれます。
嫌がっているのにベッドや車椅子に意味もなく拘束したり、過剰な投薬で身体を拘束することも、身体的虐待に入るのです。
次点で挙げられるのが、「心理的虐待」です。これは、身体に直接暴力を加えるのではなく、相手の尊厳を著しく傷つけるような誹謗中傷を加えることを指します。
3番目に挙げられているのが「介護などの放棄」。
これは、必要な介護サービスの利用を妨げたり、世話を怠ることによって、高齢者の生活環境を破壊したり、身体的・精神的状態を悪化させたりすることです。
不衛生な環境下での生活、介護・医療のために必要な用具を使わず、身体機能の低下を招くことを指します。
虐待を受けた高齢者のうち8割が認知症
暴力を奮う原因は「教育・知識・介護技術の問題」がTOP
冒頭でも先述しましたが、虐待を受けた高齢者のうち、8割は認知症者。なぜ、こんなにも群を抜いて多いのでしょうか?
日本老年医学会の報告(「高齢認知症の方に対する虐待」)では、認知症状が悪化すればするほど、身体的虐待も多くなりますが、逆に心理的虐待の件数は減っていくとのこと。
この傾向は介護職だけでなく介護者(要介護者の世話をする配偶者や家族など)も同じだといいます。
高齢の認知症者は、判断能力が衰えても暴言を発したり、反発することがあります。
これに対して、つい感情的になり暴力を奮ってしまう介護者が多いのです。
このことは認知症に対する正しい知識がないゆえに起こるもの。
事実、「なぜ暴力を振るったのか」という調査では、1位が「教育・知識・介護技術の問題」(60%)となっており、2016年の調査結果では、「虐待を行った介護士の7割が介護福祉士の免許を持っていなかった」というデータもあるのです。
「不安感」から認知症者は暴力的になってしまう
認知症は、大きく分けて中核症状と周辺症状(BPSD)の2つに分類できます。
中核症状は認知症の初期に現れる症状です。
新しいことを覚えられない「記憶障害」や、自分が今、何をしているかがわからない「見当識障害」。
ほかにも、判断能力の低下や言語障害が現れます。
この中核症状を起こした発症者は認知機能の低下により精神が不安定な場合が多くあり、その「不安感」が引き金となって周辺症状を引き起こすとのこと。
中核症状が、認知症の方に共通してみられるのに対し、周辺症状は個人差があります。
周辺症状としては、以下が挙げられます。
- 不安感から同じ場所を歩き回る
- 排泄物を弄ぶ
- 記憶力の低下により無気力になる
- 脳萎縮・血管障害によるうつ病
- 認知機能の低下による暴言・暴力
つまり、認知症は中核症状による身体的、および社会的なストレスが周辺症状を誘発させ、それが暴力や暴言、反発を招くというわけです。
介護職員が満足に学べる環境でないことが虐待の原因
家族による高齢者への虐待は介護職員の20倍以上
しかし、今回の厚労省の報告を、ことさら介護職員の不手際と受け止めるのは早計。
なぜなら、実際には家族による虐待のほうが、介護施設での虐待の数を遥かに上回っているからです。
厚労省による同資料をみていくと、介護者による被介護者の虐待は、介護職によるそれよりも約20倍も多いと報告されています。
2017年度の家族による高齢者への虐待は、1万7,078人と過去最多を記録。
介護職員の行った虐待の場合、死亡事例はゼロでしたが、家族による虐待では38人もの死者を出しています。
介護職員が、「教育・知識・介護技術の問題」という原因から虐待行為を行っている場合がほとんどです。
専門職である彼らでさえそうなのですから、介護知識のない家族の場合、虐待のリスクが格段に高くなるのは腑に落ちます。
現に、家族による虐待の原因として一番多いのは、「介護疲れ・ストレス」によるもの。知識がないために介護に手間をかけ過ぎ、その分、疲労やストレスを溜め込んでしまうことが、虐待に繋がったのではないかと考えられます。
学ぶ機会を持てないまま、現場に駆り出されるのが現状
介護のプロであるはずの介護職員が、認知症の理解不足から、認知症の方の暴言に対して虐待で応酬するケースが頻繁に起きているわけですが、職員が技術や心構えを十分に学べずに現場に投じられる介護現場も、こうした虐待行為の背景にあるでしょう。
新人に技術・心構えを指導したくとも、人手不足によりそれもなかなか叶わず、それが教育不足となり結果として認知症の方への虐待を招きやすくなるのです。
現場の人手不足がストレスに拍車をかける部分もあるのでしょう。
人手が足りない中で職員1人当たりの業務量が増えていき、その忙しさがストレスにつながっているのです
実際、介護労働安定センターが行った調査(2015年10月~2016年9月)によると、介護職員が「大いに不足している」「不足している」「やや不足している」と答えた施設・事業所の割合は62.6%という結果になっています。
知識も不可欠なうえに、こうした肉体的な重労働がついてまわるところに、認知症介護の難しさがあるといえるかもしれません。
介護職員による高齢者への虐待を止めるには、まずはしっかりとした教育を受けさせ、「認知症者の暴言や暴力は症状によるものである」と理解させることが必要です。
事業所側もそのことを理解しているのか、介護福祉士を目指す職員を処遇改善として支援するところも増えています。
とはいえ、教育不足による虐待が理由のトップである以上、まだまだ浸透しているとは言い難い状況ではあるでしょう。
それを浸透させるには、人手不足の解決が効果的です。
政府が「介護知識を得ることで虐待を防ぐことができる」という結果をしっかりと受け止め、介護職に人手が集まるような政策を考えなければ、「教育不足による虐待」はこれからも起こるでしょう。
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2020年9月7日 制定