介護と同じく医療の分野でも、国は「施設から在宅へ」という方向性で進めています。しかし、その意向が反映されているとは言えないのが現状です。
あらかじめ説明しておくと、在宅医療とは、自宅に医師がやってきて要介護者などを診察すること。
もし在宅医療が普及すれば、定期的な診察によって状態が悪化する前に気づくことができたり、慌てて病院へ連れて行く必要もなくなったりと、大きなメリットになることは容易に想像できます。
「人口動態統計年報(2009年)」のデータを見てみると、高度経済成長期の初期となる1950年代には自宅で息を引き取る人が多かったのですが、昨今の日本は様相が異なり、病院で最期を迎える方が大半となっています。

また、老人ホームや介護施設で亡くなる人も徐々に増加しており、いわゆる“終末期”への対処について、介護・医療の両面から、そのあり方が問われる時代となっているといっても過言ではありません。
しかしながら、今の在宅医療は国で推進されているのにもかかわらず、いまだに普及していないのが現状です。なぜ在宅医療は広まっていないのでしょうか。その問題の本質に迫ってみました。
在宅介護をしつつも、在宅医療については無頓着という家族も多い!?
在宅医療についてどれくらいご存知ですか?
国が今推進している「在宅医療」とは何なのかご存知でしょうか?なんとなく知ってはいるものの、いざ必要性に迫られない限りは他人事に感じていのも無理はありません。
在宅医療とは、広義では「社会生活を送りながら病院に通いつつ自宅で療養を行うこと」ですが、狭義では「通院が難しい患者が自宅や施設で、訪問する医療者によって継続治療を受ける」という医療の一つの形です。
ただ臨時で医師を呼ぶ「往診」だけでなく、定期的な「訪問診療」を含むこの在宅医療は、「自宅で療養したい」というニーズに適した方法です。

上記の厚生労働省のデータによれば、例えば末期がんだとしても自宅で過ごしたいと答える人が7割以上にも上っており、在宅医療へのニーズは非常に高いといえます。
「自宅で最期を」という人の多さが、在宅医療へのニーズに直結
自宅で最期を迎えたい人は5割以上…でも、実際に自宅で亡くなる人は1割程度というのが現実

2012年の内閣府による「高齢者の健康に関する意識調査」によれば、「最期を迎えたい場所」として「自宅」が54.6%と最も多く、次いで「病院などの医療施設」が27.7%となりました。
このデータから、自宅で最期を迎えたいニーズがいかに多いかがわかります。
住み慣れた自宅で、家族に囲まれながら最期を過ごしたいという人の願いを叶えるためにも、在宅医療のさらなる拡充が望まれます。
患者・介護側に「在宅医療への知識に乏しい」というのも、普及を妨げる一因か!?
在宅医療がなかなか思うように広まらない原因の一つとして、患者や介護する家族する側の問題があります。
例えば、患者さんの容態が非常に不安定で、そのたびに病院に連れて行ったり救急車を呼ぶといったことが続くと家族は疲れてしまい、「いっそのこと医師が常駐している病院に入院してくれたほうが安心だし疲れない」と考えがちです。
家族が自宅で看取りたいと臨んでいたとしても、なかなかそうできない現実があるわけです。
また、在宅医療のことは知っているものの、「これ以上お金と手間をかけたくない」「今の介護スタイルを変えたくない」などの心理が働いている可能性も考えられます。
在宅医療を提供する医療機関は全体の2~3割…。これでは今後の普及も見込めない!?
在宅医療を提供する医師の多くが「しんどい」
在宅医療が広がらないもう一つの理由は、在宅医療を提供する医療機関数が少ないという点です。
2011年の厚生労働省のデータによれば、訪問診療を実施している医療機関は、病院28.0%、診療所20%と、全体の病院・診療所数と比べれば非常に少ない割合に留まっています。
箇所 | 対全数の割合(%) | |
---|---|---|
病院 | 2,407 | 28.0 |
診療所 | 19,950 | 20.0 |
訪問看護 ステーション |
5,815 | ― |
その理由は、国の仕組みにも原因があります。
在宅療養支援診療所として登録するには、24時間対応が可能な医師、看護師を配置することや、24時間往診と訪問看護の提供が可能であること、在宅患者の緊急受け入れ体制を確保する必要性、ケアマネージャーとの連携、年1回、在宅看取り数を社会保険事務局長に報告するという要件があります。
日本医師会総合政策研究機構の「在宅医療の提供と連携に関する実態調査(2009年)」によれば、在宅療養支援診療所の医師のうち、70%以上が24時間体制への負担を感じているといいます。
つまり簡単に言えば、在宅医療を提供している多くの医師が「しんどい」と感じている、ということ。確かに医師は、社会的意義の高い職業ではありますが、「しんどい」ばかりでは続かないのも無理はありません。
また、人口密度の低い地域ほど、訪問看護ステーションや介護関連施設の数が少ない点、医療者と介護関連職の意識の差が大きく、なかなか連携がとりづらい点、診療報酬がさほど高くない点なども問題としてあります。
在宅医療が広まらない問題をどう解決していくか
国の施策はもちろん、介護者側の意識を向上させる必要性も
在宅介護は多くの家庭が着手してはいるものの、在宅医療がなかなか広まっていかない現状に対して、国は診療報酬改定などすでに対策は講じてはいます。
2025年の医療・介護の基盤整備・再編へ向けて、2012年には在宅医療の診療報酬が増額されるなど手厚い策を採っています。しかし、24時間往診と訪問看護の提供が可能でなければいけないなど、まだ乗り越えるべき壁が数多く存在します。
また介護者も在宅医療の知識を貪欲に吸収する必要があるでしょう。
全国在宅療養支援診療所連絡会のWebサイトでは、在宅医の探し方のポイントとして、「自宅から車で30分以内の医療機関を選ぶ」「入院していた方は、病院の医療連携室や相談室などを訪ねて医療ソーシャルワーカーの意見を仰ぐ」「市役所の介護保険担当窓口に申し出る」などの方法を紹介しています。
本気で在宅医療を推し進めていく気があるのであれば、さらなる制度の充実、そして介護者の在宅医療に対する教育や啓蒙が必要不可欠なのではないでしょうか。
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2020年9月7日 制定