人手不足の倒産企業件数が過去最多!介護業も倒産は顕著…管理職の育成に尽力しなかったのが原因か
人手不足が原因で倒産した企業、前年度より28.6%増
倒産した3つの原因「後継者難」「求人難」「人件費高騰型」
2019年の4月、東京商工リサーチは「人手不足」関連で倒産した企業について調査結果を公表しました。
それによると、2018年度(2018年4月から2019年3月)における人手不足による倒産件数は400件であり、前年度と比べて28.6%増(前年度311件)とのこと。
年度ベースでは、2013年度の調査開始以来、最多だった2015年度の345件を上回り、最多件数となりました。
倒産理由としては、代表者および幹部役員の死亡・入院での引退による「後継者難型」が269件で最多となっており、前年度比では7.6%増(前年度250件)でした。
これに次いで、人手確保の困難から事業継続に支障をきたした「求人難」型が76件で162.0%増(前年度29件)。
3番目に、賃金等の人件費のコストアップから収益が悪化した「人件費高騰型」が30件で114.2%増(前年度14件)とのこと。
事業承継が重要課題になる中で、「後継者難型」による倒産が全体の6割(構成比では67.2%)を超えています。
人手不足と感じている産業は倒産しやすい
「人手不足」による倒産した業種の内訳で、もっとも多かったのが介護を含んだサービス業で105件。次点で、建設業、製造業、卸売業と続きます。
興味深いのは、厚労省が昨年公表したレポート『人手不足の現状把握について』にある「産業別人手不足感」の上位5位に入っている業種がいずれも「人手不足により倒産した産業」の上位に入っているということ。
「人手不足感」という表現は漠然としたイメージしか与えてくれませんが、実際にはかなりこの問題は深刻だということがわかります。
また、企業の倒産が低水準をたどっているといわれる中で、こと人手不足関連の倒産に限っては数字を見る限り、上昇しているのです。
介護業界が人手不足なのは中間管理職が育っていないから
介護職員の人手不足、2025年には40万人を突破
日本が超高齢社会に突入し、それに伴う介護人材の不足が深刻の度合いを年々増しているという問題は、この『ニッポンの介護学』だけではなく、既に多数のメディアで報じられている通りです。
内閣府が発表した「平成29年度版高齢社会白書」によると、有効求人倍率からみた介護に携わる人材の不足は、2010年より年々増加の一途を辿っており、2015年には4万人に及びました。
人手不足の増加傾向は全職業に及ぶものですが、とりわけ介護分野が際立っています。
介護分野におけるこの数字は、今後も増加すると見込まれており、2025年には不足が43万人に拡大するのではないかと同白書では分析しています。
そればかりか、団塊世代が85歳を迎える2035年には、2015年の約20倍である79万人にも達するとの予測があります。
また、介護人材の不足は数字のうえだけではありません。
現場における「人手不足感」も深刻であり、介護労働安定センターが発表した『平成29年度介護労働実態調査』によると、介護サービスに従事する従業員の過不足状況では、66%が人手不足を感じているという結果が出ています。
他産業と比べて賃金が低いことも原因のひとつ
2018年度「人手不足」関連倒産の内訳をみると、1位が後継者の不在である「後継者型」、2位が人手不足により事業継続に支障が生じた「求人型」、3位が人件費のコストアップから収益が悪化した「人件費高騰型」です。
これら3つの倒産型は、介護施設の倒産にも当てはまることができます。
まず、1位の「後継者型」ですが、有識者によると、介護業界における人手不足の要因のひとつとして、介護現場では中間管理職が育っていないことが挙げられるとのこと。
目先の人手不足を解消しようと新規参入や転職者の受け入れを多くした結果、中間管理職の育成をおろそかにし、キャリアアップのビジョンが見えないままに辞めてしまう人が多いのだとか。
新人も、頼れる先輩がいない事業所ではすぐに辞めてしまうといいます。
次に2位「求人型」と3位「人件費高騰型」ですが、介護労働安定センターの調査によると、人手不足を感じている約9割の介護事業所が「採用に困難が伴う」と答えています。
注目すべきは、その理由として「同業他社との人材獲得競争が激しい」「他産業に比べて労働条件が良くない」「景気が良いため、介護業界へ人材が集まらない」という項目が挙がっていることです。
介護人材の需要は人手不足のために高まっており、賃金も上がってはいるわけですが、他産業と比べてもまだまだ低いのが現実。
せっかく賃金を挙げて人手を補充しても、介護業界と他産業を比べたとき、他産業の待遇が良いことから、一時的に集まってもすぐに離れてしまうのです。
人材を集めるためにはそのぶん人件費や広告費を要しますから、事業所の財政も圧迫され、結果的に倒産の要因となってしまいます。
4月に始まった改正入管法は人手不足を救えるのか
外国人労働者への法令違反が懸念される
経験を有する介護福祉士らの賃上げを目的とした、「介護職員等特定処遇改善加算」が2019年10月にスタートします。
当初は「勤続10年以上」の月給が引き上げられることが予測されていましたが、実際には10年という勤続年数の表記はなく、事業主の裁量によって柔軟な決定ができるようになりました。
しかし、処遇改善の対象はベテランの介護士を中心にした政策という部分は変わらないため、かつて介護職員・介護福祉士だった人を呼び戻すことはできても、新卒の呼び込みにはさほど効力を発揮しないだろうという声も挙がっています。
また、2019年4月10日より、改正入管法が施行されました。この制度は、人材不足である業種の労働力を確保するための制度で、受入れ人数としては、5年間で最大34万5,150人。介護業界だけで6万人が見込まれています。
しかし、「外国人を職場に受け入れる」という意味では似た制度の「技能実習制度」では、「日本の技術を学んで貰う」という名目の元、単純労働の現場における、安価な労働力として利用されてきたケースが多く、法令違反を犯した事業所もあるとのこと。
海外からは「奴隷制度」として批判されてきました。
その問題についても解決がされないままに、改正入管法は施行。
有識者の間では、またも「奴隷労働」が行われるのではないかと疑問の声が上がっています。
介護施設の認証制度で働きやすい職場を可視化
高齢者数の増加により、これからも介護施設の需要が高まることは間違いないでしょう。そんなときに、人手不足によって事業所の倒産が頻発するような事態があってはなりません。
では、どうすれば人手が集まるのでしょうか。
ひとつには、職場環境の改善や人材育成に積極的に取り組むことが挙げられるでしょう。
政府は、介護事業所におけるキャリアアップの仕組み作りや、休暇の取得、労働時間の削減といった取り組みを評価することで、働きやすい事業所を可視化し、介護職員の離職を防ぐ試みを2019年度からスタートすることを公表しています。
そのひとつとしてあるのは「働きやすい事業所」を認証する制度です。
この制度の大元には「介護現場が働きやすい職場であれば、離職率が下がり、人材が集まることに繋がる」という思いがあります。
職場環境が良いと証明されれば人材は集まりやすい、という考え方は一理あります。
もちろん、介護業界そのものの求心力を阻む要因は、他にもさまざまなものが絡み合っているはず。
それらについてもより深く見極めていく必要はあるでしょう。
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2020年9月7日 制定