今年10月からは75歳以上の医療保険料の負担が増す
低所得高齢者への軽減措置が廃止される
2018年12月、厚生労働省は75歳以上の後期高齢者のうち、低所得者向けに医療保険料を最大で9割軽減する特例措置について、今年10月の消費税率の引き上げに合わせて廃止するという方針を決定しました。
現在、この特例措置によって、年金などの収入が年間80万円以下となっている人については、医療保険料が平均で月あたり380円、168万円以下の人は平均で月あたり570円に減額されています。
ですが、今年10月からこの特例措置が廃止された場合はどちらの場合においても、月あたりの保険料が1,140円まで増加することとなります。
これは年で換算した場合、それぞれ4,560円、6,840円であった保険料が、13,680円まで増額するということになります。
厚生労働省はこの決定に関して、消費税率の引き上げに合わせた給付金支給などの低所得者対策を行えば、個々人についての負担増にはならないとしています。
しかし、収入が80万円以上168万円以下の層については、上記の給付金支給をはじめとした低所得者向け施策の対象外となるため、1年間の経過措置を取るとしています。
年約600億円にも上る社会保障費の削減が廃止の狙い
政府がこの特例措置を廃止することを決めた理由は、肥大化する社会保障費の削減にあるといわれています。この特例措置の廃止によって、社会保障費は年間で約600億円削減できると見込まれているからです。
これを薬の公定価格の引き下げなどと併せることで、従来通りであれば6,000億円と見られていた来年度の社会保障費の伸びを、5,000億円未満に抑えることができるとされています。
厚生労働省が公表している資料によれば、2016年度の年金や生活保護などをはじめとした社会保障費は119兆6,384億円に上っており、国内総生産に対する比率は22.2%、国民一人当たりで計算した場合94万2,500円となっています。
1980年にはこの社会保障費は25兆6,695億円でしが、現在はその約5倍まで上がっているのです。
その中でも、全体の47.6%を厚生年金や国民年金などの「高齢者」への社会保障支出、32.7%を健康保険の医療給付や生活保護の医療扶助などの「保健」への社会保障支出の2つが、全体の8割以上を占めています。

また、近年の伸び率を見ても高齢者への社会支出の額は7.4倍、保健への社会支出は3.6倍となっています。いわば、「高齢化」が社会保障費増加の主な原因だといえるのです。
こうした状況の中で、高齢者と現役世代の負担をより公平にするために、特例措置を廃止して規則通りの運用に戻すといのが、政府の狙いだと考えられています。
特例廃止で低所得高齢者750万人に影響がでる
9割だった軽減措置から7割軽減へと運用が戻る
そもそも、今回廃止されることが決まった特例措置は、どういったものなのでしょうか。
まず、後期高齢者の医療保険料は、所得にかかわらず定額となっている「均等割」と呼ばれる部分と、所得に応じて増減する「所得割」と呼ばれる部分を合わせたものとなっています。
しかし、この保険料をそのまま適用してしまうと、所得の低い人に対しても、均等割をそのまま負担してもらうこととなってしまうため、軽減される制度が必要になります。
これが、均等割の部分に関し、所得が一定以下である場合2割から7割軽減されるという仕組みです。
政令においてはこの7割軽減が上限と定められていますが、今までは、収入が低い人を対象として、さらにこの均等割の部分を8割5分、9割まで軽減する措置があり、これが現在特例措置と呼ばれているものに当たります。
今回廃止が検討されているのは、この「8割5分、および9割の軽減」を行う部分であり、廃止後は、収入が低い高齢者でも、最大で7割までの軽減にするというのがその改正の内容となります。
これはあくまでも保険料の話であって、給付の話ではないため、医療費の給付である1割負担が3割負担になるわけではないというところに注意が必要です。
後期高齢者370万人には医療費負担が結果的に増える
政府が発表した試算によれば、現在、この特例措置により「9割軽減」を受けている後期高齢者は、全国で約380万人存在しており、「8割5分軽減」を受けている人は370万人いるとされています。
このうち、「9割軽減」をうけている後期高齢者に関しては、特例措置が廃止された後に保険料が3倍まで増加しますが、消費税率の引き上げとともに行われる低所得者対策の「年金生活者支援給付金」の給付によって、結果として収入増になると見られています。
しかし、「8割5分軽減」を受けている年金収入が80万円以上で168万円以下の後期高齢者は、こうした給付金を要件となっている収入の面で満たさないことから、保険料が月570円から1140円にまで上がってしまいます。
このまま増税、および特例措置の廃止を迎えると、保険料が上がるうえに消費税が増えることで経済的負担が大きくなってしまうことが指摘されているのです。

そのため、増税とともに負担が増えないように、1年間は経過措置として引き上げを実質猶予する形をとるとされています。しかし、その経過措置が終わった後に関しては、現状では不透明であり、結局は収入の少ない高齢者の負担が増える可能性が否めない状況です。
9割負担の高齢者も含めた場合は、特例措置の廃止は約750万人へ影響を与えることを考えれば慎重な検討が必要です。
しかし、後期高齢者の医療費は今後さらに増加する
医療費は年間平均で15万円上昇していく
社会保障費に対して600億円の削減効果があるといわれている今回の決定ですが、これによって必ずしも医療費の増大が抑えられるというわけではありません。
東京都健康長寿医療センターが2019年2月に発表した調査によれば、後期高齢者の8割が2つ以上の慢性疾患を持っており、6割は3つ以上の慢性疾患を持っていることが判明しているのです。

また、筑波大学が3月に発表した研究結果によれば、こうした慢性疾患を多く持つ高齢者は、年間の医療費、及び介護給付費の増大に関係していることが判明しています。
この研究では、この慢性疾患を複数持っている指標としてCCI値というものを用いて、高齢者における疾患の多さと、年間の医療費及び介護給付費の関連について調べました。
CCI値とは糖尿病や心不全、内臓疾患や認知症、悪性腫瘍などの疾患を項目ごとに1~6でスコアをわけ、その合計値で判定するというものです。
その結果、このCCIが1上昇すると、年間の医療費は平均で15万7,000円、介護給付費は平均で12万円上昇するという結果が出たとされています。
厚労省のデータでは、2016年の予算ベースで見た場合では、75歳以上の医療費は16兆3,000億円であり、年間約40兆円とされる総医療費の4割程度を占めています。
今後、高齢者が増えるにしたがって、こうした医療費はさらに膨らみ続けると考えられているのです。
後期高齢者医療の窓口負担2割化も検討
こうした医療費が膨らみ続ける中、現在政府は負担の引き上げや社会保障削減を検討しています。
今回の決定のほかにも、医療費の窓口負担をあらたに75歳になった人から2割負担にするという仕組みの導入や、国民健康保険において、年収や資産によって増額する最高額について、最高額を4万円引き上げることを検討しているとされています。
現在これらについては慎重論も多く上がっており、特に国民保険に関しては、中間層となる人々の保険料が大幅に上がってしまうのではないかという懸念を自治体などが表明し、難色を示している状況です。
しかし、社会保障制度の支え手である現役世代が減少し続け、それに反して高齢者が増え続ける現状がある以上、負担や給付のバランス、あるいは公平性などについては、広く世代間で議論が必要です。
超高齢社会を迎え、将来的にさらなる高齢化が予想される日本で、増大する医療費をはじめとした社会保障費をどうやって捻出するべきなのか、その答えは出ておらず、今後の大きな課題となっています。
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2020年9月7日 制定