200億円の介護保険料徴収ミス発覚!不足分を現役世代の保険料引き上げで補填か
1月に発生した問題が予算編成後の3月下旬に発覚
厚労省が介護保険料200億円の徴収ミス
厚生労働省は4月4日、40歳以上の会社員などが納付している介護保険料について、外郭団体の計算ミスにより、2019年度に徴収する金額が本来よりも最大で約200億円不足する恐れがあると明らかにしました。
同省によると、昨年末、外郭団体の「社会保険診療報酬支払基金」が2019年度における保険料の徴収額を健康保険組合などに示したのですが、それが約200億円少ない値ことが判明。
ほとんどの健康保険組合は、この誤った計算結果を基に今年度の予算を組んでいることから、このままでは介護保険の財源が最大で200億円ほど不足してしまいます。
外郭団体は1月の時点でミスがあるかもしれないことを報告していましたが、実際にそのことが健康保険組合などに伝えられたのは3月下旬になってからのことでした。
問題発覚が年度末の時期であったため、各健康保険組合は2019年度の介護保険料を含む計画策定を終えていたことから、対応が困難になるケースも多数発生。
厚生労働省は2019年度の介護保険料不足が解消できないとしても、各市区町村における介護保険財政に悪影響が出ないよう対応していくとの方針を示していますが、同省の不祥事に批判の声が高まっています。
100万人分の介護保険料が未徴収に
介護保険とは、ホームヘルパーやデイサービスなどの介護サービスを必要とする人にその費用の7~9割を給付するという、「自立支援」「利用者本位」を理念とする「社会保険方式」の保険制度です。
この制度により、介護サービスの利用者は所得に応じて自己負担額1~3割だけで各種介護サービスを利用できます。
運営のための財源は国民が納付する介護保険料が50%、公費(国・都道府県・市区町村の負担金)が50%という形で構成され、介護保険料については、現行制度では40歳以上になると必ず納付しなければなりません。
保険料の納付方法については、本来は介護保険の運営者・保険者である市区町村が行うべきところですが、40~64歳で会社員の場合は健康保険組合が徴収を代行します。
組合が実際に徴収を行うときは、厚生労働省が管轄する「社会保険診療報酬支払基金」が提示する加入者一人あたりの負担金額などの数値を活用するのですが、今回ミスが起こったのは、この提示の際に行う計算においてです。
2019年度保険料の算出にあたり、「2017年度の加入者数3,110万人」を使うべきところを、誤って「2019年度の加入見込み数3,210万人」を使用。これをもとに健保組合などが計算を行ったために大きな不足が生じてしまったのです。
厚生労働省は健康保険組合などに対して不足分について追加拠出を求めていますが、どのようにして必要な金額を捻出すればよいのか、各組合は対応に苦慮しています。
不足分は介護保険料の引き上げで賄われる可能性も
2ヵ月間も問題が放置されていた
今回のミスの直接的な原因は、各組合が納付すべき金額を算出する際に、社会保険診療支払基金が誤った額を示した点にあるのは間違いありません。
しかしながら、同基金が計算に誤りがあることを1月の時点で厚生労働省に報告していたにもかかわらず、実際に誤りについて同省から各健康組合に伝えられたのが3月末であったという点が問題を拡大させてしまいました。
なぜ約2ヵ月もの間、対応を取られなかったのでしょうか。
この点について厚生労働省は、4月4日に行われた記者会見において、「同基金からの正しい数字の報告を待っていた」「健康保険組合が1月下旬には2019年度の予算を組み始めているので、連絡しても間に合わなかった」などの理由を述べました。
しかし、予算策定に間に合わないからと2ヵ月も報告をしないままでいれば、明るみになった後に批判の的となるのは明らかです。
また、根本匠厚生労働大臣が4月5日に行った記者会見よれば、厚生労働省の担当者から「計算ミスにより介護保険料が最大で約200億円の徴収不足に陥る」との報告を受けたのは3月中旬だったとのことでした。
根本厚労大臣は、社会保険診療支払基金において事務上の誤りがあったことに遺憾の意を表しましたが、大臣自身も問題把握後、すぐに公表はしていなかったこともまた問題視されています。
公金は投入されず国民の負担に
今回の誤りにより、既に2019年度の予算を策定していた各健康保険組合は対応に追われていますが、ここで問題となるのは、不足する200億円をどうやってまかなうのか、という点です。
厚生労働省は健康保険組合などに対して、不足分については予備費を充てる、もしくは準備金を取り崩して対応するなどの具体的な対策法を提案。
そのうえで、できれば今年度中に納付するよう呼びかけ、もし難しければ来年度にずらしてもよいとの姿勢を取っています。
しかし、予備費が十分でない健康保険組合も多く、組合だけで対応しきれないケースも多いのが実情です。
もし予備費や準備金などで追加納付分を納めきれないときは、加入者の保険料を引き上げる、という対策が取られることも指摘されています。
同省は、2019年度における追加納付が十分に集まらないときは、社会保険診療支払基金が借り入れを行って対応するとしていますが、その場合は借入による利子が発生するので、その利子分が介護保険料の引き上げにつながることもあり得ます。
今回の問題による徴収不足は、企業が運営する健保組合では約150億円、公務員が入る共済組合で約50億円。厚労省は公金の投入は考えていないとしており、国民の負担が大きく上昇してしまう恐れがあります。
現役世代の介護保険料は5,723円で過去最高額に
高齢化で保険料負担額は2.8倍まで増加
厚生労働省の推計によると、40~64歳の会社員・公務員が2019年度に負担する介護保険料は、一人あたり平均で5,723円。昨年度から81円のアップとなり、過去最高額を更新しました。
介護保険制度がスタートした2000年度の平均月額は2,075円から比較すると、当時の約2.8倍です。
これだけ保険料が上昇した背景には、急速に進む少子高齢化があります。『平成30年版高齢社会白書』によると、65歳以上の高齢者一人を支えている現役世代の人数は、1950年時点では12.1人だったのに対して、2015年時点では2.3人です。
この状況は高齢化が進む中で深刻化するとみられ、現役世代が支払う介護保険料の負担額もますます増えていくと予想されます。
今年2月に開催された社会保障審議会の介護保険部会では、日本経団連や日本商工会議所など経済団体の委員から、現役世代の負担に限界がきているので、介護給付費の抑制に向けた施策を行って欲しいとの意見も出されていました。
このように、現役世代への負担増が続いている中で、厚生労働省の管理体制のミスによる負担増は、国民の不信感をより強めかねません。
「順法意識の欠如」「ことなかれ主義」が原因との指摘も
今後、国民生活にかかわる情報管理を適正に行うためにも、厚生労働省には管理体制の改善が求められますが、しかしご存知の通り、同省では昨今、統計データを巡って問題が相次いで起こっています。
「毎月勤労統計」において不適切な調査手法を行っていた点に対しては、問題を調べた特別監察委員会が「ガバナンスの欠如」を指摘。
また、「賃金構造基本統計」における不正問題を分析していた総務省は、「順法意識の欠如、ことなかれ主義のまん延」を指摘する報告書を公表しています。
介護保険料の計算ミスに対する対応の遅れについても、統計問題と同様の組織的な体質が影響しているとも考えられ、同省には組織風土の見直しを含めて早急の対策が必要とされています。
今回は介護保険料200億円の徴収ミスに関する問題を考えてきました。保険料の徴収不足問題に対して厚生労働省は具体的にどのような対策を取っていくのか、そして問題を繰り返さないために厚生労働省はどのような組織改革を行うのか、今後も注目を集めそうです。
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2020年9月7日 制定