未婚率の上昇とともに増加するシングル介護者たち
親の介護を1人で担う中高年の未婚者が問題に
総務省の統計研究研修所が行った最新の調査では、「親と同居している未婚者数」は、1980年当時では約1,600万人だったのに対し、2016年には約1,900万人まで増加していることがわかっています。
現在、こうした親と同居している未婚者数の増加に伴って、独身者の子どもが同居する親の介護を担う「シングル介護」に直面する世帯が増えています。
かつて日本では一般的だった三世代世帯は減少し、現在では高齢の親と中高年の未婚の子が同居するという二人暮らしの世帯が増加。
そうした世帯では、もし親が要介護状態になると、同居する未婚の子どもが介護負担を一身に担わざるを得ません。
介護度が軽い段階ならば問題なく対応できますが、親の心身状態が衰え、介護に必要な時間が増えてくると、介護者が「介護離職に直面する」あるいは「社会的に孤立し、精神的に追い詰められる」といった事態に直面するリスクが高まります。
近年、この「シングル介護」を行う未婚の子どもが直面する大きな「危機」を、懸念する声が、専門家・有識者の間で高まりつつあります。
親と同居する未婚者は35年で約300万人も増加している
国勢調査によると、親と同居している未婚者数は2015年までの35年間で約300万人も増加しており、「配偶者のいない子どもと高齢者」という世帯は、今や5世帯に1世帯以上の割合となっています。
親と同居する未婚者は年齢を問わず増えつつあり、若年層(20~34歳)、壮年層(35~44歳)、高年層(45~54歳)と年連層別に区分してみた場合、すべての層において増えつつあります。
さらに、日本人の生涯未婚率(50歳までに結婚の経験がない人の割合)は、2015年時点において男性が23.4%、女性が14.1%となり過去最高記録を更新。
子どもが結婚をしないまま中高年世代となり、親も高齢化していくというケースが今や全国的に増えているのです。

そんな中で、現在、認知症を発症する高齢者の数は急速に増えつつあります。
『平成29年版高齢社会白書』によると、2012年時点で既に約462万人の有症者がいたとみられていますが、2015年には525万人まで増加。
推計では2025年には730万人、2040年には953万人に達する見込みです。
認知症は症状が悪化すると、介護者による生活支援が欠かせません。未婚率の上昇および親と同居する未婚者の増加傾向、そして認知症の発症者数が年々増えていくことを考えると、シングル介護に直面する人は今後ますます増加していくとも考えられます。
介護離職者の3割がシングル介護だった
過半数が「貯金を切り崩して」生活している
シングル介護においてまず問題になるのが「介護離職」です。親が要介護状態となってしまうと、自分以外に家族がいないため、必要な介護負担をすべて1人で担う必要があります。
実際、介護離職をした人にその理由を尋ねたところ、「自分以外に介護を担う人がいなかった」との回答が30%に上っているデータもあり、介護離職者の中にはシングル介護者が相当数存在していると考えられます。
また、認知症介護研究・研修大府センターがシングル介護者にアンケート調査を行った『シングル介護者が抱える課題の抽出とその支援策に関する研究事業』によると、親の介護に直面して就業状況がどう変わったかを尋ねる質問に対しては、「仕事をやめた」との回答が5.6%、「正社員からパート・アルバイトへ」が11.1%、「融通が利きやすい職場に転職した」が16.7%となっています。
それまで勤めていた会社を辞めた人が、3割以上に上るのです。さらに経済状況を尋ねる質問(複数回答)では、「不安である」との回答が61.1%に上り、「貯金を切り崩している」人の割合は55.6%に上っています。

シングル介護者が仕事をしている場合、親の心身状態が悪化するにつれて介護負担が増してくると両立が困難になり、やがて介護を理由に会社を辞める決断をするに至ってしまうのです。
2008年には育児介護休業法がスタートしましたが、厚生労働省の調査では介護休業の取得率はほとんど伸びず、2010年に行われた調査では取得率はわずか1.5%程度。
配偶者や子どもなど介護協力者がいないシングル介護者にとって、介護負担を担うのは厳しい状況です。
介護ストレスから虐待にいたるケースも
もうひとつ、シングル介護の問題として指摘されているのが、介護の協力者がいないことによる心理的な孤立です。
介護負担を分担できない中、介護ストレスが蓄積して精神的に追い詰められ、最悪の場合は虐待に至るケースも調査で明らかになってきています。
先述した認知症介護研究・研修大府センターの調査によると、シングル介護者の精神面を尋ねる質問(複数回答)では、「イライラを感じている」との回答は約94%、なんらかの「落ち込み感を感じている」との回答は約89%に上っていました。
さらに、「介護について相談できる友人や専門職がいる」と答えている人でも、約72%の人が孤立感を感じているとの調査結果も出ており、家族・親族のサポートがないシングル介護者は、介護による心理的ストレスを抱えやすい状況にあることがわかります。
実際、厚生労働省の調査では、高齢者の虐待が起こる家族形態として最も多いのが「未婚の子と同居」で、全体の32.8%を占めていました。
ほかにも、親の介護に自分1人で取り組むうちに「自分以外の人には安心して介護を任せられない」との思いが強くなり、そのことが介護における高負担感につながっていることも指摘されています。
親の介護の後に待ち受けるのは孤独死?
地域社会で孤立させない取り組みが必要
一方で、シングル介護者は、その約8割が介護サービスを利用しているとの調査結果もあり、社会資源を活用しようとする意識を持つ人は決して少なくありません。
しかし、ほかに頼れる身内がいないことから、「もっとちゃんと介護すべきではないか」という責任感・負担感を感じやすい状況にあるのも事実。

今後は、シングル介護者とその被介護者を、家庭の中だけで孤立しないようにする取り組みが必要です。
特に近年では、都市部だけでなく地方においても近所づきあいが薄くなりつつあり、シングル介護世帯における高負担化、孤立化の問題が全国的な課題であるとの認識を持つことが介護者だけでなく行政や地域社会にも必要です。
具体的な対策としては、企業が介護休暇の取得をしやすくし、地域では見守りネットワークを再構築していくことがまず挙げられます。
また、シングル介護者とその親である被介護者の社会的孤立を回避するために、地域社会に居場所を作っていくことも大切。地域の「通いの場」を充実させることが、対処方法として考えられます。
未婚者の半数以上が「介護してくれる家族いない」
しかし、シングル介護者にとって問題なのは、親が亡くなった後に独居になるという点です。
未婚状態で親の介護を始め、介護期間が長期化する中で婚期を逃し、シングル介護者自身が老後を迎えたときに介護をしてくれる家族がいない…というケースも少なからず起こっています。
明治安田総合研究所が2018年に1万2,000人を対象に行った全国調査では、「認知症になった場合に、身内の中で誰が介護してくれるか」との質問に対しては、未婚者の半数以上が「誰もいない」と回答。
未婚のまま介護を続け、介護を終えたときには50代~60代になるシングル介護者は、まさにこの状況に当てはまるのです。
今回はシングル介護の問題について考えてきました。現在の孤独死の比率は亡くなる人全体の3%程度ですが、将来的にシングル介護に直面する人が増えていくことを踏まえると、今の親世代が死亡する30~40年後には10~20%となる恐れも指摘されています。
今後は、高齢化するシングル介護者自身の介護対策も考えていかなくてはいけないのです。
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2020年9月7日 制定