介護人材不足で「施設から在宅へ」介護政策が転換!しかし在宅化は「介護離職ゼロ」と矛盾している?
「看取り率」地域格差から体制整備の遅れが鮮明に
自宅などでの看取り率に都道府県別で4倍以上の格差が
自宅や老人ホームなどの施設で、最期を看取られた割合(看取り率)を都道府県ごとに試算すると、2017年時点で4倍以上の格差があることが、愛知県医師会の調査で明らかとなりました。
看取り率が最も高かったのは兵庫県の20.9%で、以下、静岡県の20.4%、長野県の19.7%と続いています。一方、最も低かったのが北海道の4.8%、そして全国平均は13.4%でした。
超高齢社会を迎える中、厚生労働省は、医療費の増加を抑え、必要な病床数を削減することを目的に在宅医療の推進を図っています。
しかし現在のところ、在宅における看取りがどのくらい広がっているのかを示す指標は今までありませんでした。
厚生労働省は自宅または老人ホームで亡くなった人の割合を市町村ごとに公表していますが、そこには事故死や孤独死、自殺なども含まれており、正確な看取り率を表す指標ではないとの指摘があります。
そこで愛知県医師会は、警察資料を参照して孤独死などの異常死によって亡くなった人を自宅死および老人ホーム死から差し引き、そのうえで総死亡数に占める割合を計算し、「概算地域看取り率」としてまとめたのです。
今回、「看取り率」に都道府県間でこれほど差が出た理由としては、在宅医療体制の充実度や医療と介護の連携度合い、さらには終末期の治療に対する啓発活動の違いなどが背景にあると考えられています。
高齢者の54%が在宅看取りを希望している
2012年に厚労省の発表した『高齢社会白書』によると、「最期を迎えたい場所」を尋ねるアンケート調査で「自宅」と答えた人の割合は54.6%と5割を突破。

「病院などの医療機関」と答えた人の割合は26.4%にとどまっているので、自宅で最期を迎えたいと考えている人はその2倍以上に上っています。
さらに「介護を受けたい場所」についても、「自宅で介護してほしい」との回答割合は男性で50.7%、女性で35.1%になっています。
こうした「自宅」での介護や看取り志向の強まりにより、在宅診療を受ける患者数も年々増加。
厚生労働省の 『社会医療診療行為別調査』によると、訪問診療の月当たりのレセプト件数は2008年では27万2,540件でしたが、2011年には44万9,315件、2014年には64万5,992件と急速に増え続けています。
特に高齢者世代における件数は急増しており、2008年当時は65~74歳が3万1,488件、75~84歳が9万3,044件、85歳以上では13万3,063件でしたが、2014年には65~74歳で4万6,713件、75~84歳では19万2,807件、85歳以上では38万2,204件まで増えています。
介護、診療、そして看取りにおける高齢者の在宅志向は、近年急速に強まりつつあることがわかります。
介護職員38万人不足で「施設から在宅へ」介護政策が転換
政府は2038年までに病床を削減し「在宅死率40%」を計画している
現在、在宅での診療、看取りに注目が集まっている理由としては、住み慣れた場所で最期のときを迎えたいという社会的な価値観の変化に加え、政府による「施設から在宅へ」「病院から自宅へ」という政策転換があります。
このような政策転換が行われた背景には、高齢化の急速な進展によって特養などの入所施設が大きく不足があります。高齢者人口が増えるにつれて、施設に入居して介護を受けるべき人の数は増えてきます。
しかし、2025年には253万人の介護需要が見込まれるのに対し、介護職員は215万人ほどしか確保できない見通しです。その増加速度に施設の整備が追い付かず、入居したくてもできない高齢者が溢れつつあるのが現状です。
2016年には要介護認定で「要介護3以上」の認定を受けた特別養護老人ホームの入所待機者数が12万人を突破。2040年までには、さらにその4倍近くまで増えると試算する専門家もいます。
そしてもうひとつの理由が、増大化し続ける社会保障給付費の抑制です。政府の試算によれば、2025年度の社会保障給付費の額は、2017年度の23%増となる148.9兆円に上ると予想されています。
さらにその内訳をみると、医療費は38%増、介護費は86%増となる見込みです。

このような状況に対し、厚生労働省は医療費を抑制するために、病床の機能分化や再編を図りながら病床数の削減を目指し、2038年には病院以外の「在宅死」(介護施設などでの死亡を含む)の割合を40%まで引き上げる方針を固めています。
医師の負担から訪問診療は2割しか実施されていない
しかし、介護施設不足と介護費増加への対策として行われるべき地域介護や介護の在宅化政策は、いまだ十分に進んでいません。
政府が目指す「介護の在宅化」において中心的政策となっているのが、自宅を含めた住み慣れた地域で最期まで暮らせるよう、介護スタッフ、医師、看護師が連携しながら訪問する「地域包括ケアシステム」です。
厚生労働省は、同システムを全国の市区町村自治体で構築を進めようとしていますが、思うように進展していないのが現状。
その要因のとして、地域包括ケアシステムを構築するほどのマンパワーを、自治体が保有していないという点が挙げられます。
小規模自治体だと特にその傾向が強く、ある程度大きな自治体でも、慣行により人事異動が3年単位で行われるので、医療保険や介護保険に精通した専門職員が育成されにくいのです。
また、在宅医療を担う医療機関・医師の不足も現在顕著な状況となっており、2011年の厚生労働省のデータによると、訪問診療を実施している医療機関の割合は、病院で28.0%、診療所では20%のみとなっています。
在宅医療は医師への負担が大きいうえ、診療報酬がそれほど高くないこともあり、地域介護の担い手が不足しているのです。
在宅化は「介護離職ゼロ」と逆行している?
介護離職に老老介護で在宅介護の負担は増えるばかり
政府による「在宅化政策」が進まないのはそれだけではありません。近年、高齢者の夫婦のみ世帯や単身世帯が増加しており、それによって家族による介護・看護機能が弱体化し、自宅における看取りを困難にしています。
国民生活基礎調査(2016年)によると、在宅介護をしている世帯の5割以上が、高齢者が高齢者を介護する「老老介護」の世帯です。そのような世帯では、在宅介護の負担を担いきれず、「共倒れ」が生じる恐れもあります。

また、仮に子どもなど家族が同居している場合でも、「在宅介護の負担を押し付けることは介護離職者を増やす原因になる」「介護の在宅化は、介護離職ゼロを目指す動きに逆行する」と指摘する専門家は多いです。
実際、2012年の総務省『就業構造基本調査』によれば介護士離職者は毎年10万人に達しており、介護・医療の在宅化を進めれば、それだけ家庭や個人に介護負担をかけることになり、離職者をより増やすことにもなりかねません。
こうした介護・医療の在宅化政策を進めることで生じ得る負の影響も、同政策が進まない要因になっています。
介護医療院は「在宅看取り」になるのか?
こうした在宅化政策をめぐる難題の解決に向けた政策のひとつとして、2018年4月、介護保険制度において「介護医療院」という新たな施設類型が創設されました。
介護医療院の入居者に対しては、症状が回復すれば在宅復帰するという道筋が想定される一方で、看取りまで入居し続けるケースも想定されています。
ただ、「看取りまでの入居を想定する施設」となると、在宅での看取りを希望する高齢者の意向に沿っているとは必ずしも言えません。結局それは「施設」による介護であり、「病床さえ削減できればそれでよいのか?」という疑問の声も上がっています。
今後は、介護を担う家庭の負担を減らすための経済支援の充実化、介護休業制度の周知、さらに訪問介護事業所やケアマネージャー(居宅介護支援事業所)の整備を進めていくなど、個人の介護負担を減らす政策を進めていく必要があります。
今回は在宅での看取りに関する問題について考えてきました。介護・医療の在宅化政策と介護離職ゼロを目指す政策との折り合いをどうつけるべきなのか、今後も議論を呼びそうです。
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2020年9月7日 制定