介護職の深刻な高齢化が調査で判明!20代の職員はわずか1%、50代以上が73%を占めるという結果に
訪問ヘルパーの平均年齢は55.5歳に
「このままでは“介護崩壊”が進行する」と警鐘
4月24日に全国労働組合総連合(全労連)が公表した『介護労働実態調査報告書』において、訪問介護に従事する介護職員(ホームヘルパーやサービス提供責任者)のうち、20代はわずか1.0%しかいないという実態が明らかにされました。
全体の平均年齢は55.5歳で、50歳以上が全体の73.0%、60歳以上でも37.7%と約4割に上っています。
在宅での高齢者介護を担う訪問介護ですが、介護職員の側にも高齢化の波が押し寄せているのが実情で、若い世代の人材が極度に不足しているのです。
この全労連の調査は2018年10月~2019年1月にかけて行われ、訪問介護にかかわる1,897人の介護職員から回答を得て行われました。
高齢化は特に登録ヘルパーにおいて深刻化しており、前回調査が行われた2012年時点では55.2歳でしたが、今回の調査では58.7歳と3.5歳も上昇し、60歳以上の労働者が51.0%と半数を超えています。
調査を行った全労連は「このままでは“介護崩壊”が進行する」と強い懸念を示しています。
現在政府は、介護施設の不足などを理由に在宅介護・医療を重視する方針を取っていますが、訪問介護を担う若手職員の不足をいかにして解消するかは大きな課題になっています。
介護の現場には若い担い手がほとんどいない
さらに今回の調査では、訪問介護・ホームヘルパー以外の入所・通所施設の介護職員やケアマネージャーなどにおいても高年齢化が進んでいる実情が明らかにされています。
全労連の調査結果によると、入所・通所施設で介護職員として働く人のうち、50代以上の職員は全体の36.9%と4割近くを占めています。
対して、20代の職員は20~24歳が4.0%、25~29歳が6.9%で、合計10.9%に過ぎません。中高卒業後に新卒として就労する10代の職員はわずか0.4%です。
ただ、30代が23.8%、40代が28.0%を占めており、訪問介護の介護職員(30代が5.9%、40代が20.2%)よりは若い世代が多くなっています。
それでも、20代以下の若手職員が圧倒的に少ない状況には変わりなく、この状態が続くと介護職全体でさらに高齢化が進んでいくことは避けられません。
今回の全労連による調査結果は、「介護分野において若い担い手が少なく、人手不足が深刻化している」という実情を、データとして改めて浮き彫りにした内容であるといえます。
減り続ける若い担い手と中高年職員に増す負担
介護士養成校への入学者数は過去最低に
では、なぜこれほど若者の介護職離れが深刻化しているのでしょうか。
日本介護福祉士養成施設協会の発表によると、2018年度の介護福祉士を養成する大学・専門学校への入学者数は6,856人となり、過去最低となりました。
入学者数は2006年には約1万9,300人でしたので、12年で約3分の1近くも減少しています。
こうした若者の「介護業界離れ」が進んでいる大きな要因のひとつが、身体的な負担が大きい、薄給であるなど、介護職に対するネガティブなイメージです。
厚生労働統計協会が公表している資料によれば、4年生大学介護福祉コースに在学する学生に介護職のイメージを尋ねるアンケートを行ったところ、1~4年生のすべての学年において否定的なイメージが肯定的なイメージを上回る結果が出ています。
ただ、現在では国としても介護職の賃金上昇に取り組みつつあり、例えば介護職員処遇改善加算の拡充がその一例です。
さらに介護労働安定センターが2014年に公表した資料によれば、介護職における正規職員の47.5%、そして非正規職員の68.9%が「残業がない」という調査結果も出ており、「労働環境が劣悪」というイメージは、必ずしもすべてが「実際にその通り」というわけではありません。
介護現場での労災死傷者のうち約6割が50歳以上
若者の介護業界離れが深刻化すると、これまで介護現場を支えてきたベテラン職員の負担は増えていく一方です。
介護の仕事は重労働であるため、中高年の職員が負担し続けると、どうしても体を壊す人が増えてきます。
厚生労働省の『平成29年労働災害発生状況の分析等』によると、高齢者や障害者などを受け入れている社会福祉施設において、労働災害に遭った職員数は、2017年だけで8,738人。そのうち、50歳以上が全体の6割近くを占めるという結果となっています。
また、厚生労働省の資料によれば、介護現場で職員が直面した「転倒」の発生割合は、50~59歳が35%、60歳以上が37%で、中高年世代の職員が全体の約7割を占めているのです。
「訪問介護で、入浴介助を行っているときに転倒した」「洗濯物を干すために脚立に上っていたら、バランスを崩して転倒した」というケースも多く、怪我やふとした業務中の事故に、50代以上の介護職員は直面しやすいと考えられます。
現在の介護現場における年齢構成では、介護職員の身体的な負担に限界が来ているのです。
2035年には約68万人の介護職員が不足する
介護職員の高齢化は今後も進行していく
今後日本においては、女性や高齢者の労働力率の上昇を踏まえたとしても、少子化により生産年齢(15~64歳)人口が年々減っていくため、労働力人口の減少は避けられないと予想されています。
みずほ総合研究所が2017年に公表した調査結果によると、2016年時点での労働力人口は6,648万人でしたが、2025年には6,149万人まで落ち込むとのこと。
さらにその後も減少は続き、2035年には5,587万人、2045年には4,942万人になる見込みです。
こうした構造的な要因を背景に、介護職では就労者数がさらに減少し、人手不足がより深刻化していくことが懸念されます。
厚生労働省の試算によれば、2012年時点における全国の介護職員数は153万人でしたが、1947~49年生まれの団塊世代が後期高齢者世代(75歳以上)となる2025年には推計で237~249万人ほど必要となるとみられ、これだけの人材を確保できるのかについて、疑問を指摘する有識者は少なくありません。
さらに2016年に経済産業省が発表した調査結果によると、2035年時点において必要となる介護人材数は2015年時点よりも108万人多い295万であり、現状のような人材確保の状況が続くと約68万人不足すると試算されています。
現役職員の「やりがい」で支えられる介護業界
ただ、現役職員の多くが、介護職にやりがいを持って従事しているのも事実です。
2013年の厚生労働省の『一般職業紹介状況』によると、介護職員に「現在の仕事を選んだ理由」を尋ねたところ(複数回答)、最も多かった回答が「働きがいのある仕事だと思ったから」(54.0%)で、ほかにも「人や社会の役に立ちたいから」(33.6%)、「お年寄りが好きだから」(25.4%)などの回答割合が高くなっていました。
一方で、冒頭で紹介した全労連の調査によれば、訪問介護の介護職員に人手不足の要因はなにかを質問したところ(複数回答)、「賃金が低い」(52.4%)、「収入が安定しない」(33.2%)などの回答が目立っています。
現在政府は、深刻な介護現場の人手不足を受け、外国人介護士の受け入れを進めていますが、まずは介護の仕事にやりがいを持つ貴重な日本人の人材を確保・維持するため、処遇改善を制度上進めていくなど雇用環境をより良くしていくことが必要です。
今回は、介護分野における若い世代の就労者が不足している問題について考えてきました。若者が介護の仕事に意欲的に取り組める環境をどのように構築していくのか、これは高齢化が進む日本社会が直面している大きな課題です。
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2020年9月7日 制定