独居老人の増加でセルフネグレストの問題が。「見守りサービス」で対策はできるのか?
2045年には高齢の単身世帯が244万世帯も増加
歯止めの聞かない単身の高齢者割合…制度の維持はどうすれば?
2019年4月19日、国立社会保障・人口問題研究所は、2015年に行われた国勢調査の結果などに基づく『日本の世帯数の将来推計』を公表しました。
そのなかで、高齢者世帯が2045年には2,242万世帯となり、2015年より16.9%の増加となることを発表。
これは、全世帯の44.2%となる数値です。
また、同じく2045年には高齢の単身世帯が869万3,000世帯となり、2015年の625万世帯よりも43.4%の増加となることや、単身世帯における44.9%が高齢者であることも公表しています。
2040年までの推計が発表されたのは今回が初めて。高齢の単身世帯の増加に伴い、社会保障制度を支える現役世代は減少の一途を辿っていくと見られており、今後の制度維持や、地域における生活をどのようにして維持していくかが問われている状況です。
単身でも高齢者は生活に満足している
こうした独居老人がより孤立化しているのには、社会構造の変化が背景にあると考えられています。そのうちのひとつは、近所付き合いといった高齢者と人とのつながりが、希薄な社会になってしまったということです。
内閣府が公表している「高齢社会白書」によると、一人暮らしをしている高齢者の6割以上が、「日常生活で会話などの近所付き合いがほとんどない」と答えています。
また、同じ内閣府が2011年に発表した「高齢者の経済生活に関する意識調査結果」という資料によれば、60歳以上の単身世帯の人に頼れる人の有無を聞いたところ、12.3%がいないと回答したという結果もありました。
また、自身の子どもをはじめとした親族と暮らさない核家族化が進行していることも理由のひとつではあるでしょう。
こうした単身の高齢者からは、「今の生活に不満がない」あるいは「暮らし向きに心配がない」「現在の住居に満足している」という声もあります。
特に住居に関しては、高齢者の約8割が満足しているという結果となりました。
独居老人の増加にセルフネグレクトの増加が懸念される
孤独死した高齢者は2015年の段階で3,125人にも上る
独居老人が増加することで懸念されているのが、孤独死の増加です。
孤独死とは、厳格な定義はありませんが、自分の住居内で、誰かに看取られることなく死亡するというのが一般的な定義となっています。
孤独死は、多くの場合で発見が遅れることとなり、警察の死因統計上では変死として扱われるほか、行政においては孤立死という表現をされることが一般的です。
孤独死は、増加の傾向にあり、東京都監察医務員が公表した資料によれば、東京23区内で65歳以上の高齢者における自宅での死亡者数は、2015年時点で3,127人でした。
また、独立行政法人の都市再生機構が発表した資料では、同機構が運営管理している約74万戸の賃貸住宅において、65歳以上の単身居住者のうち、死亡から1週間以上も経過して発見されたケースは、2017年度で136件となっています。
こうした孤独死は、家族の後悔の念など、周囲への心理的なダメージを発生させるほか、孤独死の現場が賃貸物件であった場合、特殊清掃や改築などを行うことが必要となり、経済的な損失も発生させるなど、多くの問題を抱えています。
孤独死者のうち80%はセルフネグレクトによるもの
孤独死が起きる原因として、大きな関連があるとされているのがセルフネグレクトです。これは、日本語では「自己放任」という意味で、自分自身の生活への意欲や関心がなくなった結果、健康や安全を失ってしまうことを指します。
主な症状としては、食事を摂らなくなったり、自宅内にゴミを放置してしまったり、郵便物の受け取りをしなくなったりという生活能力の低下や、他者からの助けを拒否する姿勢などが挙げられます。
ニッセイ基礎研究所が2011年に行った調査によれば、孤独死を遂げた方の80%が、セルフネグレクトが原因で起こった事例であると考えられたそうです。
高齢者の方がこのセルフネグレクトに陥ってしまうのは、アルコールをはじめとした依存症や認知症、統合失調症といった心理的・精神的な疾患により判断能力が低下してしまうことも一つのきっかけとなっています。
また、配偶者や親族などの死や病気などで大きなショックを受けたり、プライドや遠慮から地域などのコミュニティから孤立してしまうといった要因も多いといいます。
セルフネグレクト対策である「見守りサービス」も機能せず…なぜか?
自立支援も可能となった見守りサービス
こうした孤独死への対策として、現在行われているのが「見守りサービス」です。
この見守りサービスとは、名前の通り高齢者を見守るサービスのこと。
種類は豊富にあり、民生委員やスタッフが利用者となる高齢者の自宅を定期的に訪れ、直接安否確認を行う「訪問型」や、食事の宅配などの際、安否確認を合わせて行う「宅配型」、他にもIT機器を駆使した「センサー型」や「カメラ型」などがあります。
また、見守りサービスと類似する孤独死の対策として、訪問介護によるサービスとして必要なときにだけ介助をする「見守り的援助」と呼ばれるものも、孤立死やセルフネグレクトを防ぐ対策のひとつです。
この見守り的援助においては、2018年度に「老計10号」を改正し、以前より趣旨とされていた自立支援やADLの向上に加え、IADL(手段的日常生活動作)やQOL(生活の質)といった観点を追加。
該当する行為も従来の7種類から、15種類へと増やされています。
自治体の連携ができていないため把握が難しい
今後、高齢単身世帯が増加していく中で、こうした見守りサービスを利用する人も増加すると見込まれています。
2010年に全国1,750市町村を対象として内閣府が行った調査では、何らかの形で高齢者見守りネットワークを整備していると回答した自治体は36.8%です。
しかし、こうした見守りサービスにも多くの課題があります。まず、地域の近所付き合いなどをはじめとしたコミュニティ意識が希薄になりつつある中で、高齢者の個々で違う複雑なニーズに、現行の福祉制度が対応しきれないという部分です。
また、福祉サービス、あるいは多くの有料サービスなど、自ら見守りサービスを依頼している人は問題ありませんが、セルフネグレクトに陥っている高齢者はそうした依頼を行わないことがほとんど。
こうした方々を対象とした見守りは、何かしらきっかけがなければ実行することは困難です。
さらに、自治体などが行っているサービスでは、民生委員や在宅福祉委員会などが別個で行っています。そのため、セルフネグレクト状態となっている高齢者の全体像が掴み切れない場合も多いのです。
事実、内閣府が発表している委託事業の報告書では、セルフネグレクト状態の高齢者について、全数把握しているとした自治体は6.6%のみ。
個人情報保護法の制定による意識の高まりも影響し、個々のプライバシーに関して利用者をはじめとした人々が神経質になっていることから、関係機関が連携することが難しくなっているのが現状です。
こうした中で、必要性を増していく見守りサービスをどのように円滑化して行っていくか。その方法を模索することが、国や地域に求められています。
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2020年9月7日 制定