2020年に向けて認知症カフェの取り組みが活性化している
認知症の人とその家族を支援する交流の場に
政府は今年の6月18日に『認知症施策推進大綱』を発表しました。その中に、2020年度末までに「認知症カフェ」を全市町村に普及させるとの方針が盛り込まれ、注目を集めています。
認知症カフェとは、認知症の人とその家族、地域の人、介護や医療の専門家などが集まり、お互いに情報を共有し、理解し合う場のことです。
政府は認知症カフェを認知症の人への支援とその介護をする家族への支援の場と位置付けており、2012年に策定された「オレンジプラン(認知症施策推進5か年計画)」の中で初めて取り上げ、2015年の「新オレンジプラン(認知症施策推進総合戦略)」では全市町村設置を目指すとしていました。
今回の大綱ではより具体的な目標として、「2020年度末まで」という期限が設定されたわけです。
認知症カフェはもともとオランダの「アルツハイマーカフェ」を起源とし、世界各国に多様な形で拡散していきました。
日本でも既に全国各地で開催されており、社会福祉法人東北福祉会「認知症介護研究・研修仙台センター」の報告書によると、2017年度末時点において全国で5,800ヵ所以上開催されています。
会場となるのは高齢者向け施設や公民館が一般的です。
しかし特に場所が規定されているわけではなく、東京都町田市のようにコーヒーチェーンの店舗で開催されるケースもあり、話題を呼んでいます。
認知症カフェは誰がどのように開催しているのか
認知症の人とその家族の支援を目的とする認知症カフェは、新オレンジプランが公表されて以降、全国的に数を増やしていきました。
「認知症介護研究・研修仙台センター」が全国の各市町村を対象に調査を行ったところ(2016年実施)、市町村自治体の52.4%が認知症カフェの設置、運営に対して支援と推進を行っていることが明らかとなっています。
運営主体としてもっとも多いのは「地域包括支援センター」(33.9%)で、次いでキャラバンメイトや認知症サポーターの団体などを含む「ボランティア団体」(22.7%)でした。
開催場所は「デイサービス・デイケア」(14.7%)が最も多く、続いて「コミュニティセンター」(13.3%)多いです。
場所のカテゴリで見ると、全体の約半数が「介護・医療関係の施設」を利用して行われており、カフェやレストランで行われているケースは6%にとどまっていました。
認知症カフェとは呼ばれていますが、実際にカフェや飲食店で開催されるケースは少ないわけです。
開催頻度としては「月1回」が全体の76.8%を占め最も多く、平均回数は月に1.54回。
参加費用では「100円」(39.4%)が最多で、無料(30.3%)の場合も多くあります。
また、平均参加費用は129.08円となっています。
認知症カフェの最大活用には集客という課題も
孤独や不安など精神的な負担軽減に効果がある
では、認知症カフェに参加することは、認知症の人とその家族にどのような利点があるのでしょうか。
認知症カフェの参加者は、自分たちと同じ経験をしている人や、介護、医療の専門家ばかりです。
そのため、お互いに本音をぶつけやすく、会話の中から症状への対策や介護に役立つ具体的かつ現実的な情報、知識を得ることができます。
それによって不安を軽減し、心の支えとすることができます。
さらに同じ地域に住む人の中に新たな友人、仲間を作ることになるので、喜び、楽しみの場となるのは間違いありません。
そのような場は脳の活性化にもつながるので、認知症の症状悪化を予防する良い機会となるでしょう。
「なごや認知症カフェ」の調査報告書(同団体が開催した認知症カフェの参加者252人の回答を元に作成)によると、「カフェに参加する理由」(複数回答)として最も多かったのは全体の67.9%を占めた「楽しいから」でした。
以下、「知人・友人に会えるから」(58.8%)、「健康や暮らしに役立つ話が聞けるから」(51.0%)、「認知症予防になるから」(42.0%)、「認知症について知りたいから」(39.5%)と続いています。
また、「カフェに参加する前と現在の気持ちの変化」を尋ねたところ、「同じ立場の人に出会えた」「人と話す機会が増えた」「認知症の相談窓口を知ることができた」「認知症の理解が深まった」などの回答が多くなっていました。
認知症の人の中には交流の場を嫌がる場合も
ただ、認知症カフェには参加したくないと考えている人も少なくありません。
特に心身状態が衰えて要介護状態になると、身体面の衰えによる「身体的要因」、衰えた姿を人に見られたくないなどの「心理的要因」、さらに家族が外出に連れ出さないなどの「社会・環境的要因」が重なり、外出そのものが減ってしまうことも多いのです。
実際、品川区が行った調査によると、「もしあなたもしくはあなたの家族が認知症になったら、認知症カフェ等に行きたいと思いますか」との問いに対して「行きたくない」と回答した人の割合は、要介護認定を受けていない人では11.0%だったのに対して、認定を受けた後の人だと20.9%まで増加しています。
さらに公益社団法人「認知症の人と家族の会」がまとめた報告書(認知症カフェ28ヵ所を対象に調査)においても、カフェ参加者の内訳をみると、「認知症を発症した本人」は全体の21%、「家族」は同16%のみです。
残りの約6割は「支援者」や「一般市民」であり、実際の参加者は認知症の人とその家族よりも、それ以外の人の方が多くなっています。
認知症の支援には地域のコミュニティが欠かせない
空白の期間や孤独を埋める場所づくり
近年、認知症における早期診断の重要性に注目が集まっていますが、初期の認知症だと介護保険サービスの対象とみなされにくく、適切な支援サービスを受けられない場合が少なくありません。
そのため、初期段階の認知症の人が地域社会から孤立し、認知症の進行をただ待つだけという「空白の期間」が生じやすいのです。
この空白の期間は、公的な支援を受けられないまま、認知症に直面した本人とその家族の間で葛藤、混乱、不安が生じる時期でもあります。
また、「認知症の症状を疑いつつ、病院に行かない状態である期間」についても、専門家等からの適切な助言、支援を受けられないまま過ごしている時間という意味で、「空白の期間」と呼ばれることが多いです。
一方、認知症カフェは、介護保険の要介護認定を受けていなくても参加できます。
参加者には介護関連の専門家が参加していることも多いため、要介護認定を受けていない認知症の初期段階である人や認知症が疑われる人(およびその家族)にとって、それら専門職とつながりを持てる貴重な機会となるのです。
いわば認知症カフェは、認知症の支援における「空白の期間」を、「満たされた期間」へと変えることができる場であると言えます。
認知症サポーターの活動を通して正しい理解を深める
認知症の人が全国的に増え続けている現在、彼らを地域全体で支えていくという社会構築の必要性が高まりつつあります。
地域内の多様な主体が参加し、協働する認知症カフェは、「地域社会で認知症の人を支える」ということの代表的な形態のひとつと言えるでしょう。
地域社会で認知症の人を支えていく仕組みとしては、ほかに「認知症サポーターキャラバン」もあります。
認知症サポーターは、「認知症サポーター養成講座」を受講することで認知症に関する正しい知識を身に付けている人のことです。
例えば北海道砂川市、兵庫県川西市などの自治体では、地域が中心となって認知症サポーターの取り組みを充実させる一方、医療と介護の連携体制を整え、認知症の人への支援体制を整えています。
今回は認知症カフェについて取り上げ考えてきました。
政府は2020年度末までに全国の市町村に認知症カフェを設置するという目的を掲げていますが、その運営においては地域住民と専門職の協力が不可欠です。
地域社会で認知症の人を支えていくという考え方や理念を、今後さらに全国的に普及させていくことも大事になるでしょう。
みんなのコメント
ニックネームをご登録いただければニックネームの表示になります。
投稿を行った場合、
ガイドラインに同意したものとみなします。
みんなのコメント 0件
投稿ガイドライン
コミュニティおよびコメント欄は、コミュニティや記事を介してユーザーが自分の意見を述べたり、ユーザー同士で議論することで、見識を深めることを目的としています。トピックスやコメントは誰でも自由に投稿・閲覧することができますが、ルールや目的に沿わない投稿については削除される場合もあります。利用目的をよく理解し、ルールを守ってご活用ください。
書き込まれたコメントは当社の判断により、違法行為につながる投稿や公序良俗に反する投稿、差別や人権侵害などを助長する投稿については即座に排除されたり、表示を保留されたりすることがあります。また、いわゆる「荒らし」に相当すると判断された投稿についても削除される場合があります。なお、コメントシステムの仕様や機能は、ユーザーに事前に通知することなく、裁量により変更されたり、中断または停止されることがあります。なお、削除理由については当社は開示する義務を一切負いません。
ユーザーが投稿したコメントに関する著作権は、投稿を行ったユーザーに帰属します。なお、コメントが投稿されたことをもって、ユーザーは当社に対して、投稿したコメントを当社が日本の国内外で無償かつ非独占的に利用する権利を期限の定めなく許諾(第三者へ許諾する権利を含みます)することに同意されたものとします。また、ユーザーは、当社および当社の指定する第三者に対し、投稿したコメントについて著作者人格権を行使しないことに同意されたものとします。
当社が必要と判断した場合には、ユーザーの承諾なしに本ガイドラインを変更することができるものとします。
以下のメールアドレスにお問い合わせください。
info@minnanokaigo.com
当社はユーザー間もしくはユーザーと第三者間とのトラブル、およびその他の損害について一切の責任を負いません。
2020年9月7日 制定