高齢者の住まいは今、大きな転機を迎えています。高齢者の住まいとして、自宅、介護老人福祉施設や介護老人保健施設、有料老人ホームなどさまざま形があります。
このような複数の選択肢があるなか、多くの高齢者が望むのは、最期は自宅で暮らしたいということ。厚生労働省の発表によれば、60歳以上の男女のうち、実に5割以上の人が「自宅で最期を迎えたい」と回答していることがわかっています。
こうしたなか、在宅ケアが行いやすい高齢者の住まいとして、2011年10月から国土交通省管轄の「サービス付き高齢者向け住宅(以下、サ高住)」が始まりました。さてこのサ高住ですが、今年の4月、国土交通省と厚生労働省との間でそれぞれの思惑が交錯したことは、皆さんご存知でしょうか?
今年4月の介護報酬改定で、「集合住宅に居住する利用者へのサービス提供の見直し」として、10%の減算を決定しています。
その一方で、国土交通省が「定期巡回・随時対応型訪問介護看護」(24時間訪問)や「小規模多機能型居宅介護」などのサービスをサ高住に併設させた「拠点型サ高住」の創設を提案したのです。
同一敷地内への訪問介護サービスなどは減算とする厚労省、対して同一敷地内に事業所を併設させたい国交省。サ高住を巡る両者の思惑はまったく反対のようにも思えますが、果たして今後、どのような展開を見せるのでしょうか?
国土交通省のサ高住にケアを付加した新提案は、理想的とも言える「拠点型サ高住」
サ高住は棟数・戸数ともに右肩上がりの急成長!
サ高住は2011年の提供開始から着実に数が増えており、2015年8月末時点で5,691棟、18万4,096戸が登録されています。
県別でみると大阪府が485棟、北海道が352棟、埼玉県が294棟と上位3位。
やはり人口の多い大都市ほど、高齢者の住まいとしてのニーズは高いようです。
棟数 | 戸数 | 棟数 | 戸数 | ||
---|---|---|---|---|---|
北海道 | 352 | 13,885 | 滋賀県 | 72 | 1,774 |
青森県 | 96 | 2,309 | 京都府 | 91 | 3,339 |
岩手県 | 69 | 1,391 | 大阪府 | 485 | 19,056 |
宮城県 | 107 | 2,874 | 兵庫県 | 260 | 9,387 |
秋田県 | 58 | 1,420 | 奈良県 | 45 | 1,465 |
山形県 | 47 | 1,111 | 和歌山県 | 91 | 2,293 |
福島県 | 93 | 1,480 | 鳥取県 | 36 | 1,341 |
茨城県 | 177 | 4,250 | 島根県 | 37 | 1,261 |
栃木県 | 107 | 3,337 | 岡山県 | 103 | 3,186 |
群馬県 | 146 | 4,299 | 広島県 | 193 | 6,044 |
埼玉県 | 294 | 10,455 | 山口県 | 125 | 3,242 |
千葉県 | 210 | 7,356 | 徳島県 | 62 | 1,769 |
東京都 | 265 | 10,106 | 香川県 | 61 | 1,826 |
神奈川県 | 247 | 9,318 | 愛媛県 | 135 | 3,519 |
新潟県 | 85 | 2,400 | 高知県 | 23 | 808 |
富山県 | 61 | 1,471 | 福岡県 | 191 | 7,671 |
石川県 | 47 | 1,465 | 佐賀県 | 17 | 509 |
福井県 | 45 | 1,339 | 長崎県 | 100 | 2,566 |
山梨県 | 59 | 1,190 | 熊本県 | 98 | 2,639 |
長野県 | 87 | 2,341 | 大分県 | 64 | 2,052 |
岐阜県 | 90 | 2,501 | 宮崎県 | 25 | 937 |
静岡県 | 90 | 2,501 | 鹿児島県 | 82 | 2,030 |
愛知県 | 212 | 7,406 | 沖縄県 | 72 | 2,311 |
三重県 | 150 | 4,282 | 合計 | 5,691 | 184,096 |
「拠点型サ高住」は24時間ケアを付加した要介護者向けの新提案
サ高住が普及するなか、ある一つの課題が生じてきました。それは退院者や要介護者の利用ニーズが増してきたことです。
そもそも、サ高住が想定していたのは、介護が不要で、家事も排泄も自分一人でできる高齢者でした。
しかし、要介護者の増加をはじめとした社会状況の変化を受け、最期のときまで安心して生活することができるようにと、国土交通省から2015年4月15日に「拠点型サ高住」の新提案。
「拠点型」が意味するものは、「高齢者住宅+介護施設」一体型ということです。
例えば、24時間体制で、定期巡回や随時対応型の介護看護訪問を行うサービスを提供したり、状況に応じて短期間の宿泊利用ができる施設を併設したりするということ。
同時に、医師による「在宅療養支援診療所」と看護師による「訪問看護ステーション」も想定されています。
24時間手厚い在宅サービスを提供することは、厚生労働省が掲げている、「住まい・医療・介護・予防・生活支援が一体的に提供される地域包括ケアシステム」のプランにものっとった理想的なスタイルと言えるでしょう。
要支援・要介護認定者でも介護施設暮らしは少数派。“在宅”となるサ高住へのニーズは高い
介護施設で暮らす人は90万人で高齢者全体の3%にも満たない!?
ところで今、高齢者の住まいはどうなっているのでしょうか?
厚生労働省の「2015年5月 介護保険事業状況報告」によれば、要支援・要介護認定者の数は609万人。そのうち、施設サービス受給者の数は90.9万人で、要支援・要介護認定者全体の約15%にとどまっています。
一方、在宅で居宅介護予防サービス受けている人は381.8万人(62.6%)、「通い」や「日帰り」などの地域密着型介護予防サービスを受けている人は39.5万人(6.4%)。
介護施設で暮らす90.9万人の人たちは、介護保険の第1号被保険者、つまり65歳以上高齢者3,314万人のうちの約2.7%。言ってみれば、ほとんどの高齢者が自宅(もしくはサ高住などの高齢者のための住まい)で暮らしているということになります。
そうしたなかでの国土交通省からの新提案「拠点型サ高住」は、自宅で暮らしながら身近にサービスが受けられるという、まさに理想的なプランといえるでしょう。
現在、中間報告として提案されている最中ですが、この「拠点型サ高住」に期待が高まっているわけですが、一方では新たな火種も生まれています。
国土交通省と厚生労働省とは対立の構図…。その狭間で私たちが取るべき選択肢は?
厚労省の狙いは“囲い込みモデル”の抑制!?

国交省による理想的な新提案であるはずの「拠点型サ高住」に対して、厚生労働省が主導する介護報酬改定では、まさかの否定的な取り決めとなりました。
サ高住や住宅型有料老人ホームの建物内や敷地内に介護サービス事務所が併設する場合、その介護報酬が10%も減額となったのです。
つまり、「拠点型サ高住」の体制を整えても、提供するサービスに対する報酬が、見込みより10%減ということに。
その理由として厚生労働省は、表向きには「一体型としたために不要になった移動コストを差し引いただけ」と述べていますが、実際は特定の介護サービスで要介護者を「囲い込み」するのを排除したいという意図があるためと言われています。
建物内にデイサービスや訪問介護などの事務所を併せて構える介護事業者も多いため、そうした事業所にとっては大きな打撃を受けることになり、方方から非難の声が挙がったのです。
私たちにとっての施設選び・サービス選びは、より吟味が必要な時代へ
今後サービス付き高齢者向け住宅への入居を考える場合には、入居者が本当に必要としている介護サービスはどんなものなのか?不測の事態が起こる可能性はどれくらいあるのか?といった点をしっかり吟味し、ケアプランの作成も併せて検討した上で、入居するサービス付き高齢者向け住宅を選択しなければならない時代になったと言えるでしょう。
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2020年9月7日 制定