要介護認定の有効期限が36ヵ月から48ヵ月に延長へ
増大する業務負担を削減する対策のひとつ
11月14日、厚生労働省で開催された社会保障審議会・介護保険部会の場で、要介護認定に関する新しい案が提出されました。
今回のポイントは、要介護認定の更新時の有効期限を最長で48ヵ月、つまり4年間延長するというもの。席上の委員の了承を得ることができた厚生労働省は、今後、本格的な改定に向けて詳細を詰める作業を進めていきます。
要介護認定とは、介護を受ける利用者が介護保険サービスをどのくらい必要とするかを判定する介護保険の制度です。現在、更新時の判定は最長3年まで有効期限が認められています。
しかし、要介護認定にともなう業務量は日に日に増していて、現場の人員不足も起きています。このため、最長4年間まで延長してはどうかといった意見が以前から出ていました。
要介護認定の最長4年実施は2021年度からを予定。介護保険の実際の業務を担っている市区町村にとっての負担軽減が期待されています。
要介護認定の仕組みとは
有効期限の延長が提案された介護保険制度の要介護認定とは、そもそもどのようなものなのでしょうか。ここでは、要介護認定の概要、流れ、要介護度についてみていきましょう。
「要介護認定」とは、寝たきりや認知症などで介護が必要となった場合に、介護者にどの程度の支援が必要なのかを判断する制度。その度合によって、介護保険に適応した介護サービスが受けられます。
常時介護が必要な状態を「要介護状態」、日常生活の支援など介護予防サービスが必要な状態を「要支援状態」と呼びます。これらは国が定めた基準に従って、市区町村が判定しています。
認定までの流れと要介護度について、以下にまとめました。
●要介護認定の流れ
要介護認定は、一次判定と二次判定を経て、最終的な要介護度認定が判定されます。
一次判定では、市区町村の調査員による認定調査と主治医の意見書の内容をもとにコンピュータ判定を実施。要介護認定基準の算出や状態の維持・改善可能性の評価をコンピュータに推計させることで、より客観的な判定ができるのがポイントです。
続く二次判定は、介護や福祉、医療などの専門家による介護認定審査会が審査判定します。
主治医の意見書と一次判定の結果をもとに、議論が行われて、要介護状態や要支援状態の程度を判断します。
市区町村は二次判定の結果を受けて、正式に要介護状態の判定を出すという流れです。
●要介護度とは
本人の要介護状態や要支援状態に合わせて、どの程度の介護サービスが必要かが7段階で判定されます。内訳は、要介護が5段階、要支援が2段階です。
要支援1~2 |
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掃除や着替え、歩行や立ち上がりなど、日常生活の一部で必要な行動に、ある程度手助けが必要な状態。要介護認定では、要支援1がもっとも軽く、改善や回復の見込みがあります。要支援2は、要支援1より今後要介護状態になる可能性が高い状態です。 |
要介護1~5 |
介護サービスが必要な状態です。認定度に合わせて、日常生活の全部また一部で必要な介助や介護が異なります。もっとも重い要介護5の場合は、ほぼ寝たきりの状態で、認知症など判断能力の低下も見られます。日常生活全般で、介護を受けなければいけない段階です。 |
このように、要介護認定は、本人の必要な介護の程度を判断し、日常生活を支える介護サービスの前提となる重要な意味を持っています。
高齢者の急速な増加が背景にある
要介護認定者は全国で659万人に!
なぜ、今回、厚生労働省の会議で要介護認定の有効期限延長が討議されたのでしょうか。
それには、要介護認定の申請者が年々増加していることが背景にあります。内閣府より発表の資料を見ると、要支援を含む要介護度の認定者数は、2017年4月のデータで全国約633万人。2000年4月の218万人から、17年間で約2.9倍にもなりました。
2000年4月と2017年4月の要介護度別の増加率を比べると、以下の倍率になっています。
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主要な要介護度4区分での伸び率は約2~2.8倍。そして、要介護1、経過的要介護そして要支援1~2を合わせた比較的軽度の認定者の伸び率は約3.6倍です。
すなわち、常時介護が必要な段階でなく、日常生活で何らかの支援が必要な高齢者や障害者の増加が加速しています。
また介護保険制度のスタート以来、認定者が増加にともなって、要介護認定を判定する市区町村の事務の煩雑さ、業務量の増加も増え続けています。
主な市区町村の業務には、以下のようなものがあります。
- ・要介護認定の申請書の受付から認定調査まで(平均9.6日)
- ・主治医意見書を依頼してから入手するまで(平均15.6日)
- ・申請者のデータの一次判定ソフトへのコンピュータ入力
- ・市区町村での介護認定審査会開催年間(平均207回)
市区町村が取り扱う認定審査件数は、推定で年間約6,000件。新規申請のほか、すでに要介護認定されている高齢者の更新認定も含まれるため、高齢化にともなって、今後ますます市区町村職員の業務量が増大すると考えられます。
調査員不足で認定日に遅延が発生した地域も
認定の申請者の増加で、自宅への訪問調査を行う調査員の不足が深刻化。以前より、認定日が遅れる事態が広がっています。
本来、介護保険法が定める判定通知までの期限は原則30日以内とされています。しかし、2015年度、新規での申請から要介護認定までの平均期間は39.4日となっており、更新での申請認定は平均40日を超えています。
また、市区町村によっては要介護認定の遅れはさらに深刻です。大阪市では、2019年4月以降、大幅に遅れる事態が発生。4月から6月までの3ヵ月間の平均日数は53.5日と、利用者は申請から2ヵ月近くも待たされる現状になっています。
また、徳島市では、2019年の大型連休が10連休だったため、更新認定の作業日数が不足。期限内に認定完了できなかったケースが137件にのぼり、徳島市長が市議会で謝罪しました。
更新に伴う認定が遅れても、介護サービスは途切れることなく利用できます。ただし、更新前より要介護度が軽くなった場合、認定日までのサービスの一部が自己負担になる可能性があります。
たとえば、要介護1から要支援2に認定が軽く更新されれば、自己負担上限額が大幅に少なくなります。そのため、上限額を超えて利用した分を持ち出ししなければいけません。
現在、自治体では調査員の定数に欠員が出る場合が増えています。そのため、訪問調査を外部の民間の福祉団体に委託する、休日や夜間にも対応するなどで、要介護認定のウェイトを占める訪問調査の対応力を高める努力を続けています。
しかし、要介護認定の長期化が進むほど、現場では適切な介護サービスを提供できないという不安の声が広がっています。
業務負担軽減のために取り組むべきこと
なぜ今回、48ヵ月に延長されたのか
要介護認定の有効期限は、できるだけ本人の現在の要介護状態に沿ったものであるために、短くあるべきあるのが理想です。
とはいえ、増加する認定者に対応して、認定までの日数を原則30日以内に収めるためにも、有効期限を48ヵ月まで段階的な延長が求められていたのです。
実は2018年4月から、更新認定の有効期間はそれまでの24ヵ月から36ヵ月へと延長されていました。
さらに、更新申請でコンピュータを使った一次判定が前回の要介護度と変わらない場合は介護認定審査会の審査を簡単にすることで、スピードアップが図られてきました。
2018年の見直しはある程度効果を奏したものの、認定までの平均期間は39.8日で、原則30日以内をクリアするに至っていません。
そのためさらなる見直しが必要となっています。
これまでの認定者のデータを見ると、新規・区分変更認定の申請者のうち、約40%は要介護度が前回のままです。
また、更新認定では、申請者が24ヵ月後および48ヵ月後に判定された場合、約70%はそのままの要介護度になっています。
そこで、新規・区分変更認定の約40%が要介護度が変わらない状態に更新認定も合わせればいいという考え方が出てきました。
更新認定のうち、約30%は48ヵ月後でも要介護度は変わりません。つまり、要介護度が変わらない期間を揃えることで、両者のバランスを取りつつ事務負担の軽減にもつなげようというのが狙いです。
今後はケアマネージャー以外も認定調査員の要件内に
調査員の不足が、事務負担の増大や認定までの平均日数を長期化させていることは大きな事実です。そこで、厚生労働省では、市区町村が社会福祉協議会など外部の法人に委託する場合、調査員の要件緩和の見直しを検討しています。
現状では、委託先の認定調査員はケアマネージャーに限られています。しかし、調査員の人数を拡充するため、自治体での認定調査員の要件と同様、看護師や社会福祉士、介護福祉士などにも広げる考えです。
厚生労働省は、ケアマネージャーになるための実務経験の資格種類を参考に、資格の要件を検討するとしています。
これについて、自治体からは、公平かつ公正な認定調査であるために、実務経験を重視した認定調査員がふさわしい、認定調査を委託する場合は、認定調査の経験のある退職した市区町村職員を認めてはどうか、といった意見も上がっています。
要介護認定を最長4年間まで延長するという今回の提案。実現すれば、認定調査のスピードアップにつながって、介護を必要とする人たちの利便性が高まります。
しかし一方で、認定調査員の人員不足は今後も見込まれています。資格や実務経験に裏打ちされた人材の質を高めつつ、人数を確保しなけれならないため、より一層運用のバランスが求められるでしょう。
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2020年9月7日 制定