介護書類作成の簡素化と効率化が急務!AI等の最新技術で「不払い残業」解消へ
介護業界で事務作業を効率化する動き
書類形式の統一とICTによるペーパーレス化が必要
現在、厚生労働省介護保険部会の専門委員会において、介護現場の事務負担を軽減するための協議が重ねられています。
今年10月の会合では、「業務軽減化の妨げとなっている押印のルールを明確化し、事業所に要求する機会を最低限まで減らすこと」「書類の提出は郵送、メールを原則として、わざわざ役所まで持参する必要性をなくすこと」の2つに関する議論が行われました。
この会議において、押印は以下の3文書のみ必要(正本1部のみ)であり、その他の付表・添付書類には原則不要とする方針が打ち出されています。
1 | 事業所の指定(更新)申請書 |
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2 | 誓約書(指定申請者が欠格要件に当てはまらないことを誓約する文書) |
3 | 介護給付費算定にかかわる体制等に関する届出書 |
この通知は、2019年度内に行われるとのことです。
また、書類の提出方法についても、押印した書類をPDF化したものをメールで送信する、さらにはオンラインでの電子署名だけで済むようにする、といった方法が検討されました。
さらに11月の会合では、将来的に事業所の指定や更新の申請、報酬請求などの手続きをすべてweb入力と電子申請だけで行えるようにする「ペーパーレス化」の実現に関する議論が行われています。
技術的な課題や自治体との調整はこれからですが、2022年度頃からは稼働を始めたいというのが厚生労働省の考えです。
こうした国主導による介護分野における書類形式の統一化、ICTによるペーパーレス化の動きは、今後さらに進められると予想されます。
介護の文書作成業務にはムダが多い
介護施設・事業者が作成する文書は、大きく分けて「事業所が独自に作っているケア記録などの文書」と「行政に提出する必要がある文書」の2種類です。
ケア記録には、ケアプランや具体的なサービス提供の記録、モニタリングの記録、アセスメント結果の記録、利用者の状態に関する記録などがあります。
職員間での情報共有、いざというときの法的証拠、介護サービスの向上とケアプランへの反映、職員・利用者・家族間のコミュニケーションの活発化、職員の研修などに活用することが、ケア記録を作成する目的です。
一方、行政が要求する主な文書としては、指定申請、介護報酬の請求、指導監査関連文書などがあります。
これらの文書は行政との事務的なやり取りを行う際に用いられ、国は文書の項目や様式例を示すだけで、実際に事務処理を行うのは都道府県・市町村自治体です。
しかし、こうした書類の作成は時間的なムダが多く、現場の介護職員にとって大きな負担となっています。
例えばケア記録のための各種文書は、多くの場合が「紙に手書き」するため作成に時間がかかってしまい、職員の残業を発生させる原因となっていることもよくあります。
「みんなの介護」が実施した介護職員に対するアンケート調査では、事務作業を負担に思ったことのある人の割合は9割を超えていることもわかっています。
事務作業で消耗する介護職を救う
事務作業は介護職員の大きな負担
公益社団法人「全国老人福祉施設協議会」が行った調査によると、入居者一人当たり総計の職務時間に占める割合は、トイレ介助が17%、食事介助が17%であるのに対して、「書類作成」はなんと約13%もありました。
事務作業の時間が、本来の業務であるトイレ・食事介助の時間に匹敵するほどかかっているのです。このデータからは、介護職員が日常的にいかに多くの事務に追われているかが分かります。
このような事務作業の多さが引き金となって、介護職を離職してしまうケースも少なくありません。
厚生労働省の資料によると、全国の介護福祉士に「以前働いていた職場を辞めた理由」を尋ねたところ、全体の13.2%が「専門性・能力を発揮できないから」と答えていました。
そして同省によれば、専門性・能力を発揮できない業務の典型例が、書類作成を中心とする「事務作業」。介護職本来の専門的な業務以外の仕事にストレス・負担を感じるようになり、離職にいたる職員もいるのです。
人手不足で負担は増加…残業の要因に
介護職員に事務作業の負担が大きくのしかかる原因のひとつは、慢性的な人手不足にあります。
公益財団法人介護労働安定センターの「平成29年度介護労働実態調査」によれば、全国にある介護関連の事業所(n=8,993)に従業員の過不足状況を尋ねたところ、「不足感」を感じている事業所は全体の66.6%にも上っていました。
現場の人手が足りなければ、現在就業中である介護職の業務負担量はどうしても増えてきます。
全国労働組合総連合(全労連)が今年4月に公表した「介護労働実態調査報告書」(介護職員3,920人、訪問介護員1,897人から回答)によれば、日勤帯の場合、「始業前の残業(時間外労働)」がないと答えた人は全体のわずか2割。
準夜勤帯でも始業前に「残業がある」と回答した人は約6割に上っていました。
さらに終業後の残業については、「1時間以上ある」と回答した人は17.5%に上り、2交代の夜勤帯でも1時間以上の残業があると回答した人は12.7%いました。
人手不足が深刻化する介護業界では、始業前や終業後にやむを得ない残業を強いられる労働者が相当数いるわけです。
介護職の4人に1人が「残業不払いがある」と回答
不払い残業をAIなどの最新技術で解決へ
人手が足りないゆえに発生した残業に対して、手当が支払われていないケースも起こっています。
先に挙げた「介護労働実態調査報告書」では、不払い残業の有無を尋ねる質問に対して、介護職員の4人に1人が「ある」と回答。残業代の不払いについて、その実態が明らかにされています。
不払い残業が生じる理由としては「自分から請求していない」(70.9%)が最多。
一方で、「請求できる雰囲気ではない(40.3%)」「支給されない業務や会議がある(25.8%)」「請求できる上限が決められている(11.3%)」「請求しても削られる(4.5%)」など、事業者側が支払いを阻害しているとの回答も多くなっていました(複数回答)。
さらに、同調査では不払いとなる残業の仕事内容についても介護職員にアンケートを取っています。それによると、最も多かった回答は「情報収集・記録」でした。始業前では71.1%、終業後では63.2%の人が、事務作業による残業をしています。
つまり、事務作業による残業が不払いになっているケースが最多となっています。
現行制度では、残業代の不払いがあった場合、従業員が雇用主に請求できるのは過去2年分。
ただし、2020年4月に施行される改正民法では原則5年とされるため、厚生労働省は労働基準法でも延長するとしています(まずは3年に延長される見込みで、2019年度中には結論が出るとのこと)。
AIやICT導入が負担を軽減
事業主への残業代請求が難しい場合、不払い残業が起こりやすい事務作業を効率化して、所定の就業時間中に必要な作業を終えられるようにすることも重要です。
すでに一部の事業所では、ケア記録のICT化、日常業務におけるタブレット端末の導入、見守りロボットなどIoT機器の導入などが行われています。
今後はさらに多くの介護施設・事業所に普及させていき、介護業界全体の業務効率を高めていくことが必要です。
今年4月には、ケア記録を作成する際の負担を軽減するAIツールを大手家電メーカーが開発し、話題を呼びました。このシステムを使うと、過去の介護記録を学んだAIが状況に合わせた記録の文例を、自動で作成してくれます。
そのため介護職員は文字を書く必要がなく、AIが提示した文例を選んでいくだけでケア記録を作成できるのです。こうした新たなツールの開発も今後さらに進めていくことが求められます。
今回は介護現場の事務負担の大きさについて考えてきました。
現在、政府・厚生労働省は介護職の事務負担の軽減化に向けてさまざまなプロジェクトを進めており、今後の動きにはさらに注目が集まりそうです。
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2020年9月7日 制定