デイサービスの総費用額が1兆円超に!しかし利用者増加による競争激化で事業所の倒産も過去最大!
通所介護の利用者は20年あまりの間に約4.3倍に
デイサービスの総費用は約1兆6,457億円
厚生労働省が11月28日に発表した『平成30年度介護給付費等実態統計』によると、昨年度におけるデイサービスの総費用(介護給付費に自己負担額を合わせた費用の合計)が、過去最高になったことが明らかとなりました。
具体的な内訳は、通所介護が約1兆2,435億円、地域密着型通所介護が約4,022億円で、合計すると約1兆6,457億円。前年度から1.5%総費用額が増加しています。
デイサービスの費用増大の背景にあるのが、高齢化の進展に伴うニーズの拡大です。
2018年度におけるデイサービスの利用者数は220万1,300人で、2017年度よりも1.5%(3万3,100人)増加しています。
介護保険サービスがスタートした直後の2001年度におけるデイサービスの総費用額は3,784億円でしたが、高齢化が年々進むなか、2018年度までに約4.3倍も増えたのです。
厚生労働省は昨年度の介護報酬改定で、地域密着型通所介護の基本報酬が引き上げられたものの、大規模型デイサービスについては引き下げていました。
しかし、デイサービスへのニーズが年々高まりつつあり、事業者に対して積極的なサービス展開を促すためにも、介護報酬を上げてインセンティブを強化する必要性は増しています。
デイサービスは高齢者の社会的孤立を防止する効果も
デイサービスとは、通所介護事業所(デイサービスセンター)に通って、入浴や食事など日常生活の介護を受けられるサービスのことです。
高齢者が楽しく通えるようにするために、生活上の介護や機能訓練だけでなく、生け花や書道、リズム体操など、さまざまな活動に取り組むこともできます。
また、通所介護事業所に通うことで外出する機会が得られ、人と触れ合うこともできるため、高齢者の閉じこもりや社会的孤立を防止する効果も大きいとされています。
介護保険サービスとしての通所介護(デイサービス)を利用するには、介護保険の要介護認定を申請し、「要介護1~5」の認定を受ける必要があります。申請したものの、それより以下の「要支援1~2」や自立という認定結果が出ると利用できません。
デイサービスでは通常、自宅から事業所までの送迎、健康チェック、レクリエーション、近所への散歩、体操などの機能訓練、入浴と排泄の介助、昼食、おやつなどのサービスを受けられます。
事業所にいる時間はサービス内容によって異なり、午前中だけ・午後だけ通って、食事のサービスがない事業所や、入浴設備がないという事業所も多いとされています。
「自宅での介護・看取り志向」が高齢者は強い
54.6%の高齢者が「自宅で最期を迎えたい場所」と希望
デイサービスの費用増大化の要因は、先に挙げた高齢化の進展以外にもあります。そのひとつが、在宅で介護を受けたいと考えている人の増加です。
2012年に内閣府がまとめた『高齢社会白書』によると、「最期を迎えたい場所」を尋ねる高齢者を対象としたアンケート調査において、「自宅」と回答した人の割合は、全体の過半数となる54.6%を占めています。
「医療機関」と回答した人は27.7%、「特養などの福祉施設」と答えた人は4.5%に過ぎません。「介護を受けたい場所はどこか」という質問に対しても、「自宅で介護してほしい」と回答した人の割合は、男性で50.7%、女性で35.1%に上っていました。
こうした「自宅での介護・看取り志向」の強まりによって、自宅で受ける居宅サービスの量自体も増えているのです。
通所介護の利用者数が2017年度から2018年度にかけて増加したのは前述した通りですが、自宅で介護サービスを受けている受給者1人当たりの費用額も増えているのが現状です。
厚生労働省の『平成29年度介護給付費等実態調査』によると、居宅サービスにおける受給者1人当たり費用額は、平成2017年4月審査分において11万9,600円でしたが、翌2018年4月には、12万1,600円まで増えています(通所介護だけみても9万1,400円から9万2,800円へと増加)。
居宅サービス・通所介護は、利用者数の増加に加えて、1人あたりの費用額自体も年々増えているのです。
2025年度には医療費が、2017年度よりも38%増加
デイサービスの費用額が増える要因はさらにあります。それは、政府による在宅介護の推進です。政府が在宅介護を推進しようとする理由のひとつが、高齢者の入所施設である特別養護老人ホーム(特養)の不足です。
高齢化が急速に進むなか、特養に入居を希望する高齢者も増えつつありますが、介護職員はまったく足りておらず、特養の設置・整備も追いつかないのが現状となっています。
高齢者の増加速度に介護職員の確保、施設の整備が追いつかなくなると、特養に入居したくでもできない高齢者が増えてしまい、そうした人たちは自宅で在宅介護を受けざるを得ません。
政府としては特養・入所施設が足りない以上、デイサービスのような自宅で介護を受けている人向けの介護サービスを充実させ、介護ニーズに対応しようとしているのです。
また、在宅介護推進の背景には、年々増大化する医療費を抑制したいという政府の狙いもあります。厚生労働省によれば、2025年度における医療費の額は、2017年度よりも38%増になる見込みです。
政府は医療費を抑制していくために、今後病院の病床数を次第に減らしていき、2038年には病院以外の在宅死の割合を40%まで上昇させる方針を固めています。こうした方針は当然、在宅医療と在宅での介護サービスの利用量を増やしていくこと繋がります。
デイサービス事業者の45.5%が赤字になっている
介護事業者の倒産件数は過去最高を記録した
しかし意外なことに、介護保険の居宅サービスへのニーズが年々高まっているにもかかわらず、倒産する介護事業者は年々増えています。
東京商工リサーチの調査によると、小・零細規模の老人福祉・介護事業者の倒産が今年上半期に相次いでいます。
特に「訪問介護事業」の倒産が多く、前年同期比77.7%増となる32件に急増しているとのこと。
訪問介護に次いで倒産が多いのが「デイサービス」で、全倒産数55件のうち13件を占めていました。
通所介護における厳しい経営状況は、福祉医療機構が今年6月にまとめた『平成29年度通所介護事業所の経営状況について』という報告書でも明らかにされています。
この報告書によると、小規模の通所密着型のデイサービスは全体の45.5%が赤字。大規模型のデイサービスが約15%だったことから、特に規模の小さいデイサービスが経営に苦しんでいる実態が読み取れます。
2018年度の介護報酬改定では、居宅サービス事業への新規参入を促進させる政策が取られましたが、参入障壁が低くなることで資金・ノウハウに乏しい企業が安易に進出している現実も、倒産数増加という事態から浮き彫りになってきました。
小規模な介護施設が淘汰される時代が到来
ホームヘルパーの人手不足や高齢化、大手・中堅事業者との競合の激化により、資金力の乏しい小規模事業者の脱落が増加しつつあります。
このまま小規模事業者の倒産が増加すると、サービスを受ける要介護者が必要なサービスを受けられず、不利益を受ける恐れがあります。
安定した介護サービスを提供していくには、介護事業者による健全な経営と行政による持続可能な制度設計が不可欠です。
今後は、介護分野における労働力の需給バランスが崩れていき、さらなる人手不足が進むとされているなかで、小さな事業所が淘汰されていくことも考えられます。
介護サービスを提供する事業者、制度をつくる行政の双方が、介護サービスの利用者に不利益を生じさせない方法を考えていく必要があるでしょう。
今回は、通所介護への需要拡大と、事業者の倒産数増加の問題について考えてきました。高齢化の進展によって人手不足が続くなか、今後の介護業界はどうあるべきなのか、今後も議論が続きそうです。
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2020年9月7日 制定