介護の職場にはびこる3種類のハラスメント…事業者が職員を守るという意識改革が必要
介護業界ではびこるハラスメントの実情
12月がハラスメント撲滅月間に
厚生労働省は、12月を職場でのハラスメントを失くす「職場のハラスメント撲滅月間」と定め、これらを防止するための広報や啓発などの活動を集中的に行うと発表しました。
2017年1月に行われた男女雇用機会均等法、育児・介護休業法の改正や、2019年の5月に成立したパワハラ防止法こと改正労働施策総合推進法など、法の観点からパワハラやマタハラなどを防止する対策は、少しずつ整備されています。
今回、撲滅月間が設定されたのも、職場でのハラスメントを減らす政府の施策のひとつです。
しかし、これらの問題が多くのメディアで取り上げられることからわかるように、いまだに一部の企業や業界において、ハラスメントが蔓延していることは事実です。
特に介護業界においては、厚生労働省が2019年の2月に民間のシンクタンクに委託し実施した調査によって、非常にハラスメントの多い業界であることが発覚しています。
全国の介護職員1万112人を対象に行われたアンケート調査で、介護老人福祉施設に勤務する職員の7割が、利用者本人からハラスメントを受けたことがあると回答。
ほかの職種でも4~6割がハラスメントの経験があると答えるなど、介護現場でのハラスメントの深刻な実態が明らかになっているのが現状です。
介護業界でのハラスメントの実情
介護業界でのハラスメントの内容は、「身体的暴力」「精神的暴力」「セクシュアルハラスメント」の3種類に大別することができます。
身体的暴力は、叩かれたり蹴られたりするような直接的なもののほか、コップを投げつけられたり、唾を吐かれたりするものが該当します。
精神的暴力は、大声や批判的な言動に加えて、家族による理不尽な要求や、料金の支払い拒否なども含まれます。
セクシュアルハラスメントは、不必要な体の接触や卑猥な言動、性的な話題を出す、下半身を見せつけるなどの行為が代表的です。
前述の調査によれば、これまでに利用者本人からのハラスメントを受けたと回答した職員を業種別でみると、介護老人福祉施設に勤める職員が70.7%で最多となっています。
次いで認知症対応型通所介護の64.3%、定期巡回・随時対応型訪問介護看護の61.4%が多く、最も少ない数字でも訪問リハビリテーションの38.8%となっていました。
また、これまでに利用者の家族からハラスメントを受けたことがある職員は、居宅介護支援が29.7%で最も多く、定期巡回・随時対応型訪問介護看護の26.8%、訪問看護の25.8%が続く形となっています。
最も少ないのは、地域密着型通所介護の8.6%でした。
ハラスメントを見逃しやすい介護業界の特徴とは
事業所がハラスメントを把握していないor黙殺するケースも
しかし、ハラスメントが頻発するなかで、本来職員を守るべき事業所の対応についても、大きな問題があります。
同調査では、介護職員がセクハラを受けた際の対応として、訪問介護の87.1%を筆頭に、各業種で6~9割弱の職員が「相談をした」と回答。相談相手として選んだのは、全業種で「上司」が最も多く、約8~9割でした。
しかし、相談後のハラスメントの状況について、すべての業種で4~6割が「変わらなかった」と回答するなど、事態が好転しないケースが多くなっています。
また、同調査で事業所が「ハラスメントは発生していない」と回答した場合でも、その事業所の施設で働く職員の方は「ハラスメントがある」と回答していた例も非常に多くなっています。
つまり、割合としては訪問リバビリテーションの50%から小規模多機能型居宅介護の95.5%まで幅はあるものの、少なくとも半分の職員は、事業所が把握していないところで、ハラスメントを受けていることになります。
こうした状況のなか、介護職員がハラスメントを受けた際に施設や事業所に希望する対応として、「今後の対応について明確に示して欲しい」という回答が全業種において5割以上で最多に。
ハラスメントを受けた際に、明確な対策が取られないことについて、不満を抱く介護職員が非常に多いことがわかっています。
認知症の場合はハラスメントの判断が難しい
事業所の対応が難しい理由のひとつに、「認知症」の問題があります。
仙台白百合女子大学が発表した資料によると、ハラスメントの具体的な内容として、認知症の利用者の暴力やセクシュアルハラスメントの例などが記載されています。
認知症の人においては、本人に悪意があるかどうか認定することが難しい場合がほとんど。また、利用者に止めるよう促したとしても、効果があるかどうかは不透明です。
冒頭で取り上げた調査では、事業者に対して「ハラスメントの予防・解決のため施設・事業所での取り組みを行ううえでの課題」というテーマのアンケートを実施しています。
この際も、「ハラスメントかどうかの判断が難しい」という回答が全業種にわたって6~7割を占めて最多となり、認知症への対応の難しさが浮き彫りに。
また、そもそも介護業界では、利用者や家族からのハラスメントが「想定外のもの」として扱われる傾向が強くあります。対策が周知されていないことも、ハラスメントが蔓延する原因のひとつとなっていると考えられます。
事業者が介護職員をハラスメントから守る姿勢を
2020年4月にはパワハラ防止法が施行
介護業界の例に代表されるように、日本でのハラスメント対策は、世界的に見ると遅れている傾向があります。
国際労働機関(ILO)では、2019年の6月にスイスで開かれた総会の中で、職場での暴力やハラスメントを全面的に禁止する国際条約を採択し、注目を集めました。
同条約は、暴力やハラスメントが「身体的、心理的、性的、経済的被害を起こしかねない」とし、法的に禁止するという内容です。
これはハリウッドの映画界で起きたセクハラ問題に端を発し、世界的に流行したセクハラの告発運動であるMeToo運動を後押しに、加盟国内の圧倒的な支持を得て採択されました。
この際、日本政府および日本労働組合総連合会は、採択に賛成。一方、日本の経団連は採決の投票を棄権し、事実上の拒否の姿勢を示しています。
とはいえ日本でも、職場でのパワハラ防止策に取り組むことを企業に義務付ける「パワハラ防止法」が5月に成立。こちらは早ければ2020年4月にも、大企業に対して施行される予定です。
これにより、パワハラに関する相談窓口など、体制が整えられることが期待できます。
今回の撲滅月間の設定も含め、今後もハラスメントへの対策は進んでいくでしょう。
事業者向けの取り組みが進む
しかし、現状の対策としては「法整備が進むのを待つ」というわけにはいきません。
2019年の4月には、三菱総合研究所が「介護現場におけるハラスメント対策マニュアル」を発表し、業界でのハラスメントの実態や、その対策などを提言しました。
これに加え、介護労働者の労働組合であるUAゼンセン日本介護クラフトユニオンも、ハラスメントへの対応について研修や相談支援の調査研究を行い、事業者向けにそれらの手引きを作成し、来春4月に発表する予定です。
また、前述の仙台白百合女子大学の資料では、「介護業界におけるハラスメントの対策の必要性」についてアンケートを行ったところ、介護職員の79.6%が「必要である」と回答。ハラスメントへの対策が現場レベルまで浸透することが求められています。
職員たちがハラスメントで不利益を受けることは、介護業界の人手不足をさらに加速させることにもなりかねません。
国による施策を待つのではなく、積極的に事業者サイドが対策を行い、介護職員の労働環境からハラスメントを排除することが必要です。
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2020年9月7日 制定