省庁での障がい者雇用率は1.1%と低水準!国民の8割が「日本には障がい者への差別がある」と回答
障がい者雇用を「5割」水増しして報告していた
障がい者を対象にした国家公務員試験に244人が合格
11月26日人事院は、障がい者を対象とする2019年度の国家公務員採用試験において、計244人が合格したと発表しました。申込者の総数は4,574人で、最終合格に至るまでの競争倍率は18.7倍となっています。
選考試験は、筆記試験である第1次選考試験は人事院、採用面接試験の第2次選考試験は各府省が実施。省庁別の合格者では、国税庁が48人と最も多く、法務省28人、出入国在留管理庁26人と続いています。
国家公務員の障がい者選考試験は、視覚障がい、聴覚障がい、上肢・下肢・体幹機能に障がい、読字障がいなど障がいの内容に配慮する形で行われ、第1次選考試験は9月15日、第2次選考試験は10月28日~11月11日に実施されました。
昨年8月に障がい雇用水増し問題が発覚し、さらに今年7月に行われた参院選では、2人の重度障がいをもった候補者が国会議員として当選するなど、高齢者・女性などの活躍推進と並んで障がい者の社会進出にいま国民の関心が高まっています。
全省庁の約8割で不正算入が発覚した
昨年の統一選考試験では、厚生労働省が中央省庁を改めて調査したところ、障がい者3,460人分が国の定めているガイドラインに反して不正に雇用者数として算入されていることが明らかとなりました。
こうした合格者の「水増し」は、内閣府、総務省、国土交通省など省庁全体の約8割、27機関において発覚。公表されていた国家公務員の障がい者雇用率は2.4%でしたが、今回の調査により実態は1.1%に過ぎないことがわかりました。
数値の約半数が水増しだったことが判明したのです。
厚生労働省のガイドラインにおいては、障がい者手帳など障がい者であることを示す書類を持っていることを雇用者の算定条件としています。
しかし昨年8月の調査により、多くの省庁がそうした証明書類を確認せずに「障がい者」として組み入れ、雇用していたことがわかりました。本来は就業できたはずの障がい者の雇用機会を、不当な形で奪っていたとの批判の声もあります。
こうした問題を受けて厚生労働省は、再発防止のために今年6月、障がい者雇用推進法を改正。厚労省の労政審分科会では施行令などについて議論が行われています。
また、今年11月には、国・地方自治体が障がい者の働きやすい職場づくりに向けた計画を立てる際の指針もまとめました。
民間でも45.9%の企業が雇用基準を満たしていない
障がい者は、単純な事務作業に従事するケースが多い
障がい者雇用の整備問題は中央官庁だけでなく、民間企業においても深刻です。
厚生労働省が発表した「障がい者雇用状況の集計結果」(2018年)によれば、昨年時点において、障がい者の雇用率が国の定める法定雇用率(2.2%)に達している企業の割合は、企業全体の45.9%。過半数の企業が法律で定められた基準を未達成なのです。
2020年度末には法定雇用率がさらに2.3%にまで引き上げられる予定であり、各企業には今後適切な対応が求められます。
こうした状況を受けて、障がい者雇用に積極的に乗り出そうとする民間の動きも少しずつ出てきています。
これまで民間企業で働く障がい者は、健常者に比べて単純な事務作業に従事するケースが多かったのですが、近年ではより高度な業務を任せようとする企業も現れています。
例えば大手保険会社では、専門知識を必要とするドライブレコーダーの解析(記録された乗車時のデータから事故のリスクなどを計算する)業務に障がい者が従事。
同社は今後も、IT関連など専門性の高い業務を、障がい者に担ってもらい仕事の幅を広げたいとしています。
雇用率は他の先進国の半分以下
経済界だけでなく日本社会全体で、障がい者雇用を拡充する必要があるとの声は高まっています。
その背景にあるのは、急速な高齢化による社会におけるノーマライゼーションの高まりやステークホルダーの意識の変化、少子高齢化による労働力減少への対策の必要性などです。
さらに、諸外国に比べて日本企業の障がい者雇用があまり進んでいないという現状も大きく問題視されています。
例えばドイツの場合、2016年時点における障がい者雇用率は、公的部門で6.6%、民間部門では3.9%(法定雇用率はどちらも5%)となっています。
また、フランスの場合、公的機関では4.9%、民間事業所では3.1%(法定雇用率はどちらも6%)です。
ドイツ・フランスの両国と、日本の2018年時点における中央省庁1.1%(先述した通り、これを2.4%と水増しして公表していました)、民間企業2.0%を比べると、かなり高い数値であることがわかります。
障がい者の社会進出を後押しする国民意識の高まり、人口構造の変化、さらに諸外国に比べて取り組みが著しく進んでいないという現状からも、障がい者雇用は日本企業が取り組むべき重要事項になりつつあるのです。
低い雇用率と賃金水準の引き上げが大きな課題に
障がい者の多くが最低賃金を下回る給与で働いている
厚生労働省が2011年に実施した『障がい者の就業実態把握のための調査』結果によれば、障がい者手帳を持つ労働年齢の障がい者約192万6,000人の就業率は43.3%で、そのなかに含まれる福祉的就労利用者を除くと、その率は31.4%です。
この数値は、同じ2011年時点における就業可能な年齢にある労働者全体の69.8%(総務省『労働力調査』より)の半分以下に過ぎません。障がい者の雇用率を上げ、就業率を高めていくことが、今後の日本社会における大きな課題です。
さらに、厚生労働省の『障がい者雇用実態調査』(2013年度)によると、調査対象である事業所で雇われている障がい者の平均賃金は、身体障がい者が月額22万3,000万円、知的障がい者が月額10万8,000円、精神障がい者が月額15万9,000円です。
同時期の労働者全体の平均月額賃金29万6,000円に比べると、かなり低いといえます。特に知的障がい者では、最低賃金額である全国加重平均月額およそ14万円(2015年時点)をも下回っているのが現状です。
障がい者の雇用環境を整えていくには、まず雇用率の上昇に加え、賃金水準を挙げていくという雇用の量と質両方の施策が必要なのです。
「障がい者の雇用の促進」を7割近くの国民が支持
内閣府が実施した『障がい者に関する世論調査』(全国の18歳以上を対象、有効回答1,771人)によると、障がい者に対する企業や民間団体への要望としては、「障がいのある人の雇用の促進」と回答した人の割合が66.3%、「障がい者になっても継続して働くことができる体制の整備」の回答割合は62.3%に上っていました。
障がい者に対して雇用機会をもっと提供すべきとの声は国民の間でも高まっていることがわかります。
しかし一方で、「日本社会には、障がいのある人に対して、障がいを理由とした差別や偏見があると思うか」と質問したところ、「あると思う」との回答は全体83.9%も占めていました。
こうした調査からもわかるように、我々自身も、障がい者の方に対する見方・思いを新たにする必要があるのではないでしょうか。
国会で議論が紛糾した「桜を見る会」問題でも「障がい者雇用の職員が対応したため」との答弁に批判が集まるなど、いま社会全体の障がい者雇用に関するリテラシーが大きく問われています。
今回は日本における障がい者雇用の現状について考えてきました。日本が目指すべきは、障がいや年齢、性別にかかわらず、誰もが人としての尊厳にふさわしい労働条件や労働環境の下で、安心して働ける社会です。
それはひいては、誰も暮らしやすいバリアフリー社会を実現することでもあります。日本人一人ひとりが、障がい者の方に対する見方、接し方について、自ら問い直すべき時期にきているのかもしれません。
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2020年9月7日 制定