「買い物難民」への対策事業は7割が赤字と判明!運営の改善と継続には、国のさらなる支援が必要
移動手段のない「買い物難民」が増加している
高齢化に伴って問題は深刻に
近年、「買い物難民」になる高齢者が増えています。
買い物難民とは、食料品を購入できる店舗まで直線距離で500m以上あり、かつ自動車の利用ができない人のことです。
農林水産省によると、買い物難民の数(食料品アクセス困難人口)は、2015年時点で約535.5万人に上ると推計されています。
2005年当時と比較すると、全国では42.1%、三大都市圏では68.9%、東京圏では89.2%も増えているのです。

また、農林水産省が2018年に行った意識調査(20歳以上の消費者モニターを調査対象)によると、食料品を購入する店舗の利用状況について尋ねたところ、コンビニや一般小売店が「利用できない(近くにない)」と回答した人が、1~2割を占めていました。
移動手段が豊富な若い世代でさえも、「店舗が近くにないので利用できない」という人が一定数を占めているわけです。
高齢者の場合、加齢により足腰が弱くなった方、自動車の免許を返納した方も多いため、状況は若い世代よりもはるかに深刻と考えられます。
高齢化は今後も進展していくため、このままでは買い物難民になる高齢者はさらに増えていくと考えられます。
きっかけは車の免許返納などさまざま
先述の農林水産省が行った意識調査によれば、「最もよく利用するお店までの交通手段」を尋ねる質問に対して、78.3%が「自分が運転する自動車、バイク」と回答していました。
大半の人は免許を必要とする自動車・バイクを利用しているわけです。
しかし、若い世代ならともかく、身体機能・認知機能の衰えた高齢者が自動車やバイクを運転する場合、交通事故のリスクが高まります。
高齢ドライバーによる重大な事故は、毎年多発しています。
警察庁の統計によれば、2019年の1~11月末までの間に75歳以上のドライバーが起こした死亡事故数は全国で354件に上っています。
このような状況を背景に、日本社会の中でも高齢者に免許返納を求める声が近年強まってきました。
警察庁も、高齢ドライバーに対する規制強化を今後さらに進めていくと予想されます。
例えば昨年12月、警察庁は高齢者を対象に、自動ブレーキなどの安全機能を備えている「サポートカー」のみ運転できる免許を導入する方針を発表しました。
ところがこうした高齢者に対する運転規制の風潮が強まるほど、高齢者は食料品を購入できる店舗までの移動手段を失い、買い物難民になるリスクが高まります。
社会的な悪影響も懸念…対策が急務に
「高齢者の買い物が減少」=「地域の治安悪化や経済的な衰退」につながる
買い物難民になる高齢者が増えると、高齢者本人のみならず社会に対しても、さまざまな悪影響が生じると指摘する専門家は多いです。
例えばArthur D Littleは、買い物難民の発生は多様な波及的課題を生じさせる可能性があると指摘しています。
同社の報告書によると、高齢者による買い物が減少すると、地域の商店街の売り上げを低迷させ、その結果地域経済衰退による治安の悪化を招くなど、地域全体に悪影響を与える恐れがあるとのこと。
さらに、食料品の買い物難民が増えることは、栄養のある食事を摂れなくなる人が増えることを意味するため、地域・国が負担する医療費・介護費の増加を招く危険性があるとも論じています。
高齢者に対して不用意に免許証の返納を勧めることは、生きがい・趣味の喪失による本人の心理・健康状態悪化の問題に加えて、社会全体に影響を与えるような大きな問題をもたらす恐れもあるわけです。
免許返納に端を発して波及するリスクは、決して小さいとはいえません。
国による補助金制度などで支援が実施されている
高齢者の免許返納については、ただ単純に「免許を返納してもらえばそれで良い」というものではないことが見えてきました。
免許返納した高齢者が陥りやすい買い物難民の問題への対策は必須です。
近年、このような状況に対して、行政も対策を始めつつあります。
2019年3月に農林水産省が行った調査では、食料品アクセス問題への対策を必要とする市町村自治体のうち、69.2%が何らかの対策を実施していると回答しました。
これは前年の調査より7.6ポイントも高い数値です。

実際に行われている対策の内容としては、中都市・小都市だとコミュニティバスや乗り合いタクシーの運行などを行う事業者への支援が多く行われています。
一方、大都市だと宅配や御用聞き、買い物代行サービスなどを行う事業者への支援が多くあります。
国も支援策を打ち出しており、例えば経済産業省は2010年以降、買い物難民支援事業の公募をし、採択された事業に対して費用の3分の2(最大1億円)の補助を行う、という施策を実施しています。
7割の企業が赤字…まだまだ課題が残る
採算が合わない事業は7割も
買い物難民対策は必ずしも成功していないのが現状です。
総務省が2017年に発表した調査結果によると、移動販売や宅配など買い物難民対策に資する活動を行っている事業者に収支状況を尋ねたところ、「赤字である」とした回答が全体(n=193)の54.9%と、半数以上に上っています。
「黒字または均衡」と回答した30の事業についても、実は国や自治体からの補助金で赤字を穴埋めしているだけで、純粋な事業運営でみると赤字に陥っていました。
つまり実態としては、買い物難民対策に貢献している事業・取り組みの約7割が採算を取れていないわけです。

これらの事業を担っているのは、民間企業、NPO法人、商店街振興組合や商工会など商店主が構成する組織、社会福祉法人、地域住民による組織など多岐にわたります。
買い物難民になる高齢者を少しでも減らすためにも、国や自治体は事業者に対する支援や規制のあり方を見直し、採算の取れて事業を継続できる仕組みを考案、構築する必要があるでしょう。
国や自治体による情報提供や金銭的支援が必要
農林水産省が2019年に発表した調査では、買い物難民対策を必要としている市町村は、全体の84.1%に上り、3年連続で上昇しています。
こうした状況を受けて、近年、買い物難民を支援する活動に取り組む事業者は増えています。
例えば「生活協同組合こうべ」は2018年に、食品会社と共同で店舗への送迎サービスを行う車両の運行事業を開始しました。取引のある食品会社に運行経費を一部負担してもらう代わりに、車に広告を掲載するという内容です。
また、同省が2018年に実施した意識調査(20歳以上の消費者モニター対象)によると、「最も利用する買い物サービス」を尋ねたところ、最多回答となったのは「食材の宅配サービス」(79.0%)で、以下「調理済み食品の宅配サービス」(11.0%)、「移動販売車」(6.3%)と続いていました。
買い物難民の高齢者も同様のニーズを持っていると推測され、自治体には需要に沿った的確な対策が求められます。
さらに、「買い物難民対策を行う上で必要な国の支援」を自治体に尋ねるアンケートも実施。結果は、「運営費用への支援」「整備費用への支援」「情報提供」などの回答が多くなっていました。
自治体が行う対策を、国が的確に支援する体制も整える必要があるでしょう。
今回は買い物難民問題について考えてきました。高齢化が進む中、買い物難民対策をどのように考えるべきか、国・自治体ともに大きな課題を突き付けられています。
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2020年9月7日 制定