保険適応後の「オンライン診療」実施率は3割!対象となる病気と患者のニーズに大きなギャップが
オンライン診療の制度改正へ向けて
オンライン診療が片頭痛にも適応に?
厚生労働省は2019年12月11日、中央社会保険医療協議会に対して、保険適用となる「オンライン診療科」の対象疾患に片頭痛などの「慢性頭痛」を追加するよう提案しました。
慢性頭痛のオンライン診療が対面診療と同等程度の安全性、治療効果があることが試験で示されており、同省はこの試験結果を根拠として制度改正に向けた意見を述べたのです。
しかし、診療側の日本医師会はこの提案に対して否定的な見解を提示。
頭痛の背後には重大な病気が隠れている恐れもあります。もしオンライン診療で見落としがあれば、取り返しがつかない事態になるというのがその理由です。
オンライン診療は2018年度の診療報酬改定時に新たに創設されました。
その際、「医師と患者の間において信頼関係が築かれている(半年以上の継続診療など)」場合、対面診療や訪問診療と組み合わせる形で、オンラインによる診療を診療報酬で評価することが定められたのです。
ところが、オンライン診療が実際に実施されている事例は少なく、全国的に普及は進んでいません。
その背景には、冒頭のニュースもかかわるさまざまな理由があります。
「遠隔診療」から「オンライン診療」へ
オンライン診療とは、リアルタイムでコミュニケーションができる通信技術を用いた診察、医学管理のことです。
かつては、離れた場所にいる医者と患者をつなぐという意味で「遠隔診療」と呼ばれるのが一般的でした。厚生労働省から医療機関などへの事務連絡、通知においても、遠隔診療という言葉が使われていたのです。
しかし最近では、「オンライン診療」という言葉を使用する関係者が増えてきました。
この場合、ただ医師と患者の距離的な制約を取り払うだけでなく、時間的な制約をも解消するという意味で新たな選択肢になる、という意味合いも含まれています。
また近年では、オンライン診療を対面診療へと完全に置き換えるのではなく、対面診療とうまく組み合わせることでケアの質を高め、受診のハードルを下げる役割も重視されるようになりました。
さらに医師不足対策という面も期待されています。
現在、少子高齢化が進む中で医師が都市圏に集中するようになり、過疎化が進んだ地方では、医師の数がまったく足りないというケースも。

特に高齢者を対象とする訪問診療や往診を行う場合、医師が各家庭をすべて回れるほどの人員的な余裕はないのです。
もしオンライン診療が導入されると訪問・往診のための移動回数が大幅に減るので、少ない人手でも対応できます。
対象疾患は少ないまま…普及には大きな課題が
伸び悩むオンライン診療の普及率
オンライン診療が2018年に保険適用された際、導入を進める医療機関が増加しました。
日本オンライン診療研究会が行ったアンケート調査(オンライン診療を実施している医師を対象、n=169)によると、「いつからオンライン診療を実施していますか」との質問に対して、最も多かった回答は「2018年10月~12月」(169人中24名)。
その次に多かったのが「2018年7月~9月」(同20名)でした。
とはいえ、医療機関全体から見ると、導入を進めている割合はまだまだ少ないのが実情。
厚生労働省が行ったアンケート調査(病院37施設、診療所679施設を対象)によれば、2018年度診療報酬改定以降、オンライン診療科の施設基準の届け出をしているのは、病院の51.4%、診療所の47.6%。
全体の約半数にとどまっています。
実際にオンライン診療を行っている施設となると、さらに割合は減り、同調査によると、病院で24.3%、診療所では16.1%に過ぎませんでした。
7割以上の医療機関が、オンライン診療を行っていなかったのです。
実施しない大きな理由は「患者の希望がない」
調査対象となった医療機関の7割以上がオンライン診療を行わない理由のひとつとして、「患者の希望がない」という点が挙げられます。

先ほど厚生労働省のアンケート調査によると、「治療上の必要性からオンライン診療の対象となり得るが、実際には行っていない患者」がいる医療機関は、病院で29.7%(1機関あたりの該当患者数は60.6人)、診療所で28.3%(同16.7人)に上っていました。
医療機関の3割近くが、医療的に見てオンライン診療の対象となる患者であるのに、実際には行っていないのです。
では、なぜオンライン診療を実施しないのでしょうか。
厚生労働省が行ったその理由を尋ねる質問(病院数11施設、診療所192施設を対象)に対しては、「患者の希望がないため」(病院54.5%、診療所56.3%)が最も多い回答となりました。
ほかにも「オンライン診療に用いる機器やシステムの導入・運用コストが高いため」(病院54.5%、診療所42.2%)などの回答が。
高齢者の場合は通院に負担がかかるので、オンライン診療への需要は高いと考えられます。
しかし実際には、オンライン診療に対する患者のニーズがないと感じている病院や診療所が多くあるのです。
保険対象の拡大が求められている
保険適応の対象疾患は限定されている
先述の厚生労働省のアンケート調査によれば、病院・診療所に「オンライン診療を用いて治療を行っている主な対象疾患を列挙してください」と尋ねたところ、アトピー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎、うつ病、強迫性障害、高血圧症、慢性胃炎、肥満症など定期的な通院が必要な多岐にわたる慢性疾患が含まれていました。
しかし、そこで列挙されている疾患は、大半がオンライン診療科の対象外、つまり「保険対象外」です。保険対象外の場合は自由診療となり、治療代は基本的に全額負担とされます。
自由診療で患者が治療費をすべて負担するとなると、個人の金銭負担は大きくなります。「保険適用となる対象疾患が少ない」「診療を受けるには全額負担の覚悟も必要」となれば、「オンライン診療に対する患者からの希望がない」状況も理解できます。
オンライン診療の満足度は高い
一方で、実際にオンライン診療を受けた患者の満足度は高くなっています。
日本オンライン診療研究会の調査によれば、オンライン診療を行っている医師に対して患者の満足度を5段階評価で尋ねたところ(N=165、「1」が最低評価、「5」が最高評価)、最も多かったのが「4段階」でした。

オンライン診療に対して、患者は満足していると感じている医師は多いのです。
実際、オンライン診療を受けた患者は、この診療方法をこのまま受け続けたいと感じています。
厚生労働省の調査では、オンライン受診の経験を持つ患者に今後の受診について尋ねたところ、「できるだけオンライン診療を受けたい」と回答した人の割合は55.2%と過半数を超えていました。
オンライン診療のリピーターとなる患者は多数いるわけです。
以上の実態を踏まえると、オンライン診療科の対象(保険適用)となる疾患が増えれば、その利便性の高さを実感できる患者が増え、オンライン診療がさらに普及すると考えられます。
今回はオンライン診療について考えてきました。
現在、新たな取り組みとして服薬指導にオンラインが導入されており、オンライン診療は2020年内にも指針の議論・変更が行われると考えられます。
普及に向けてどのような動きが続くのか、今後も注目を集めそうです。
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2020年9月7日 制定