生活保護基準を下回る世帯が生活保護を受給している捕捉率は約2割…5人に1人しか制度を利用できていない
生活保護を受ける高齢者世帯が過去最多に!
高齢者世帯が占める割合は55.1%にも上る
1月8日、厚生労働省は2019年10月に生活保護を受給した世帯が163万7,6737世帯となり、9月よりも1,919世帯増えたことを発表しました。生活保護受給世帯が増加するのは3ヵ月ぶりとなります。
この中では最も多いのは高齢者世帯の89万7,264世帯で、全体の55.1%。9月より810世帯増えています。

この高齢者世帯のうち、91.5%となる82万1,201世帯が単身世帯。こちらは916世帯の増加で、共に過去最高を更新しました。
生活保護受給者は、2014年の216万5,895人をピークとして減少傾向にあります。
しかし、生活保護を受けている高齢者世帯は、20年ほど前から増加傾向です。
内訳で見ると障害者や傷病者、母子世帯、失業中の人などの受給者数は減っているなか、高齢者の世帯だけは増加し続けているという状況となっています。
もちろん、超高齢社会を迎えている日本で、高齢者の数が増え、母数が大きくなったことが、こうした結果を生んだという見方をする人もいるかもしれません。
しかし、2016年の調査では「65歳以上の高齢者世帯」の貧困率は27%に上っています。高齢者世帯の4世帯に1世帯以上が貧困世帯ということになり、割合で見ても貧困高齢者は急増しているのです。
高齢者世帯の4割程度が、生活保護以下の生活を送っている
現在、高齢者の貧困率は上昇の一途を辿っています。
金融広報中央委員会が公表している「家計の金融行動に関する世論調査(2015年)」によれば、60代のうち、約3割が預貯金などの金融資産をまったく所持していないという状況が判明。
加えて、65歳以上の高齢者世帯の4割程度が、生活保護以下の生活となる「老後破産」の状態にあるとされています。
さらに、日本総研が行った調査によると、2012年時点で、生活困窮状態にある高齢者世帯、およびその予備軍ともいえる状態となっている世帯(収入が最低生活費に満たない、最低生活費ギリギリの収入で貯蓄がない、あるいは日々の赤字補てんのため貯蓄を取り崩し、存命中に底をつく可能性が高い世帯)は400万世帯を突破しているとのこと。
この数はさらに増え続けるとの見通しが大勢を占めており、同調査では2030年にはこうした世帯が500万世帯以上になるという試算がされています。
専門家は、こうした状況が起こっている原因について、単身や夫婦だけで生活をする高齢者世帯が多くなったことを指摘。高齢者だけで生活することで、子ども世帯からの扶助が受けにくい状況が作られていることが問題なのです。
また、長引くデフレ経済のなかで、親世代を援助できる子ども世帯自体が減少していることも影響しているとされています。
さらに、単身世帯では夫婦世帯や他の家族もいる世帯と比較して、世帯収入が減少し、一人あたりの光熱費や食費などの生活コストが上がってしまうことも、高齢者が貧困に陥りやすくなるリスクを高めているのです。
貧困化の原因は、老後資金の減少にある
「高齢者自体の収入が少ない」というのも、貧困に陥る原因のひとつです。厚生労働省が発表した『年金制度基礎調査(老齢年金受給者実態調査)』によれば、65歳以上の高齢者では、生活を支える収入の78.8%を公的年金・恩給に頼っているとされています。
同じく厚生労働省が発表した『平成28年度厚生年金保険・国民年金事業の概況』によると、2016年度の年金の月額平均は厚生年金で14万7,927年、国民年金では5万5,464円です。
一般的に、高齢者1人が生活するために必要な資金は一月あたり10万円から13万円必要とされています。
厚生年金を受給することが可能な人であれば、ぎりぎりこの基準を満たすことが可能ですが、国民年金しか受給できない人の場合、満足な生活ができない可能性が非常に高いと言えるのです。

年金収入以外で生活資金に充てられるものとして退職金がありますが、こちらも安易に頼りにできない状況が広がりつつあります。
厚生労働省の『就労条件総合調査』によれば、2017年の調査で対象となった全国の3,697社の企業のうち、2割強で退職金が支給されなかったそうです。
さらに、退職金の平均額も1,788万円と、20年前の1997年の2,868万円と比較すると、1,100万円も減少をしているという状況があらわとなっています。
こうした中、老後の生活資金を退職金で賄う従来のプランが立ち行かなくなっており、先に述べたような家族構成の変化などの影響も合わせて、高齢者の生活を脅かしているのです。
5人に1人程度しか制度を利用できていない
これらの要素が組み合わさった結果、生活保護を受ける高齢者が増えてしまったのは、ある意味で当然でしょう。
しかし、真の問題は、生活保護を受ける高齢者が「増えた」ということよりも、これでもまだ「少ない」という事実なのです。
現在、生活保護基準を下回る経済状況にある世帯が、実際に生活保護を受給している割合を捕捉率と呼びます。
厚生労働省は、この補足率について、2018年時点では22.9%に留まると発表。
さらに、日本弁護士会連合会などが発表した資料などにおいても、この補足率は2割程度と計算されており、本来生活保護を受けるべき人の5人に1人程度しかこの制度を利用できていないということになるのです。
同資料によれば、外国の補足率は、イギリスで87%、ドイツで85%と、日本の4倍以上となっています。日本だけが低い補足率となっている理由については、生活保護制度についての制度の周知が徹底されていないことが挙げられています。

こうした生活保護を受けること自体が恥ずかしいことである、という認識を持っている人が多いこともその一因です。
これは、烙印という意味の英語であるスティグマとも呼ばれ、国連の社会権規約委員会もこのことを問題視。
2013年5月には、生活保護に関するスティグマを解消するように日本政府に勧告を行っています。
市役所などの窓口においても、本来生活保護な人に対して誤解を与えるような説明で追い返してしまうというケースが多いことも、大きな問題となっています。
求められる柔軟な生活支援
こうした問題への解決策として、政府は企業に対し、高齢者の雇用機会をつくるように努力義務を課すなど、高齢者が収入を得る手段を拡張すべくさまざまな対策を打ち出しています。
現行の制度では65歳まで働きたい人々のために、企業は定年の廃止か引き上げ、あるいは定年で退職した社員を契約社員などで再雇用するという仕組みのいずれかを用意することが義務付けられています。
政府はこれを今後は、70歳までシフトしたうえで、新たに他企業への就職の斡旋や、フリーランス、あるいは起業をするための資金面での援助、あるいはNPOをはじめとした社会後編活動への資金提供を選択肢として加えることを検討しているのです。

もちろん、高齢者が就労しやすくなることは、高齢者の貧困問題に対する有効な解決策のひとつにはなるでしょう。しかし、高齢になれば身体状況が悪くなって就労が難しいという人も出てきます。
さらに、いったんは就職に成功したとしても、体力の低下などを理由として離職、あるいは転職をせざるを得なくなるというケースも多いと考えるべきです。
こうしたケースでは、その後に再就職が困難になる可能性が高く、高齢になってから生活が困窮してしまうということも考えられます。
こうしたことを踏まえ、政府には加齢による体力の低下、あるいは環境の変化などに応じ、柔軟な対応を取れるような生活支援の枠組みを、現行の就労支援に加えて行うことが求められています。
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2020年9月7日 制定