2019年、都内の救急車の出動件数が82万5,933件と過去最多
救急車で搬送された人は、65歳以上が過半数を占める
先日、東京消防庁は、2019年の東京都における救急車の出動件数が過去最多であったとのデータを公表しました。同庁によると都内の1年間での出動件数は82万5,933件で、1936年の統計開始以来最も多かったとのことです。
搬送された人の年代では、「75歳以上」が全体の39.1%を占めて最多となり、2番目に多いのが「45~59歳」(13.7%)、3番目が「65~74歳」(13.4%)と続いています。
75歳以上に65~74歳を加えると過半数で、高齢者の搬送が多い実情が明らかとなりました。
では、高齢者はどのような原因で搬送されるのでしょうか。総務省消防庁の調べによると、医療機関に搬送された高齢者数は、2018年の1年間で241万1,050人。
その内訳をみると、「重症(3週間以上の入院が必要な傷病)」が23万4,532人、「軽症(入院を必要としない傷病)」が92万9,694人、そして「中症(重症または軽症以外の傷病)」が119万557人、「その他」が824人です。
最も多いのが中症、次が軽症で、重症で搬送される人数は軽症の3分の1にも満たない数となっています。

さらに続けて、搬送される高齢者に多くみられる病気や怪我の具体的な内容についてみていきましょう。
高齢者の搬送原因で一番多いのは「循環器系」
総務省消防庁のデータによれば、救急車で搬送される高齢者の傷病内容として最も多いのは「循環器系」の疾患で、全国総数30万9,802人(全体の12.8%)となっています。
その内訳をみると、「脳疾患」が16万3,858人、「心疾患」が14万5,944人です。
2番目に多いのが「呼吸器系」の約20万人ですが、循環器系の疾患で搬送される人はそれよりも約10万人多くなっています。
循環器系の症状として最もよく知られているのが高血圧症です。
高血圧とはその名の通り、血圧が何らかの要因によって上昇している状態。
また、不整脈が出現する症例も多いです。
不整脈とは脈の乱れを意味し、心臓が規則正しく収縮と拡張を行なえなくなる疾患を指します。
高血圧を予防するには「適度な運動をする」「飲酒・喫煙を控える」「冬場の寒さによる血圧の変動を抑える」「夏場の水分不足を避ける」などが有効です。
不整脈に対しては、「過労やストレス、睡眠不足を避けて規則正しい生活を送る」、「喫煙・飲酒・コーヒーを控える」などが予防につながります。
急病で搬送される高齢者のうち4割は軽症
救急車が一回出動するのにかかるのは4万5,000円
冒頭で紹介した東京消防庁のデータでは、高齢者の搬送が全体の半数以上を占めていました。
なぜ高齢者がこれほど多く搬送されるのでしょうか。
その理由の1つとして、若い世代よりも心身が衰え、病気や怪我をしやすいという点が挙げられるでしょう。
しかし、それ以外にも重要な理由があります。
それは、「本来救急車を必要としない症状=軽症なのに呼んでしまうから」です。
総務省消防庁の全国データでは、救急車によって搬送される高齢者のうち、約4割が軽症に該当しています。
また、軽症で搬送された人の全世代での合計は189万3,680人ですが、そのうち高齢者は92万9,694人、全体の約5割を占めているのです。
病院での治療費用や入院費用は有料ですが、救急車で病院に搬送するのにかかる費用は無料です。救急車が1回出動するのにかかる約4万5,000円は、全額が税金によってまかなわれています。
傷病程度別の搬送人員数を5年ごとにみた場合、軽症で搬送された人の割合(全世代)は、1998年が50.4%、2003年が51.3%、2008年が50.8%、2013年が49.9%、2018年が48.8%と、各年ともおよそ50%です。

しかし救急車を呼ぶ人の全体数は毎年増加しており、1998年から2018年までの間に約240万人も増えています。割合は変わらなくとも、軽症者が救急車を呼ぶのにかかる費用は増加しているのです。
救急車をの有料化すべきという声も
こうした中、救急車を有料化すべきとの考え方も登場しつつあります。
救急車を呼んだこと自体に料金が発生することはありません。
しかし、2015年には、財務省から救急車の一部有料化の提案が出されました。
消防関連予算はすでに年間2兆円に上っており、少しでもそれを減らしたいというのが財務省の狙いです。
有料化による最大のメリットは、安易な利用を抑制できるという点にあります。
もちろん、深刻な事態の場合は、救急車を積極的に活用するべきなのは言うまでもありません。
しかし救急車が有料化されれば、軽症など本来は呼ぶ必要のない理由で呼ぼうとする人は減るでしょう。
医療関係者の間でも、救急車の有料化に賛同する人は多いです。
「日経ビジネス」が医師を対象に行なったwebアンケートによると(N=3879)、「救急車を要請した事案すべて全てに料金を請求するべき」との回答が全体の47.6%、「搬入後に軽症と診断された場合は料金を請求するべき」との回答は39.0%を占めていました。
アンケート結果には「不適切な利用は有料化以外には解決策はない」「救急車に料金が発生しても問題ない」といった医師の意見も提示されています。
救急車有料化により呼ぶべきときに呼べない場合も
救急車有料化によるデメリット
救急車の有料化により、無駄な出動を減らせるというメリットを強調する声がある一方、「本当に必要なときに呼べない」というデメリットを懸念する声も少なくありません。
重症で本当に救急車を必要としている人が、有料化による経済的負担が重くのしかかり、呼べなくなってしまうというわけです。
特に救急車を最も活用する高齢者のうち、収入が年金以外になく、経済的に厳しい状況下にある人がたくさんいます。
厚生労働省の「国民生活基礎調査」(2018年)によれば、年金や恩給を貰っている高齢者世帯において、これらの収入が所得のすべてであると答えた人の割合は51.1%と5割以上となりました。
さらに高齢者世帯に対して生活意識を尋ねたところ、経済的に「苦しい」と感じている世帯の割合が全体の55.1%に上っていることも明らかにされています。
また、同調査によると、高齢者世帯の平均所得は約334万円とされていますが、これはあくまで世帯平均のデータです。
高齢者個人が得る収入だけをみると、さらに低いと考えられます。
実際、厚生労働省の「厚生年金保険・国民年金事業年報」(2017年度版)によると、厚生年金の平均受給額は男性で月16万6千円程です。

例えば1人暮らしをしている高齢者だと、もし救急車の費用が全額有料となったら、負担は大きなものとなるでしょう。
救急車を呼ぶか呼ばないか迷ったときは「♯7119」
こうしてみると、救急車の有料化は多くの高齢者にとって厳しい選択肢といえます。有料化を防ぐための方法の1つが、救急車を呼ぶ必要のない症状での利用を減らすことです。無駄な出動が減って税金による負担が減少すれば、有料化の動きも弱まっていくでしょう。
とはいえ、素人では救急車が必要かどうかわからない状況に陥ることもあります。そのような場合、まず取るべき方法は電話による相談です。
救急車を呼び出す119番とは別に、症状について相談できる全国共通ダイヤル「♯7119」が各自治体に導入されています。救急車を呼ぶかどうか迷ったら、こちらに電話して相談してみるのも1つの方法です。
もしスマートフォンをお持ちの場合は、全国版救急受診アプリ「Q助」を活用し、対応を検討しても良いでしょう。消防庁が配布している「緊急車利用リーフレット」(高齢者版)を参考にするのもおすすめです。
今回は高齢者の救急車利用の問題について考えました。一刻を争う事態の場合は、相談や調べている時間がないときもあります。どのようなときに救急車を呼ぶべきか、特に身内に高齢者がいる家庭場合は日頃から確認しておくことも大切です。
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2020年9月7日 制定