介護職の8割が待遇について不満を持っている
6割以上の職員が給与アップを求めている
1月15日、大手介護人材派遣企業のアンケート調査で、現在の待遇に不満を持っている現役介護職員が全体の8割を超え、6割以上が給与アップを求めていることがわかりました。
同調査によると、現役介護職員への「現職への不満はありますか?」との問いに、全体の82.8%が「はい」と回答。「具体的な不満があれば教えてください」との質問に対しては、「正当に評価されていない」との回答が45.7%を占めて最多でした。
仕事に見合った評価を受けていないと感じている介護職員が、全体の半数近くにも上っていたのです。
さらに「職員がより働きやすくなるために、施設が取り組むべきことはなにか」との問いに対しては、全体の67.1%が「給与の引き上げ」と答えています。
また、介護職で転職経験のある職員に前職を辞めた理由を尋ねたところ、「給与が低かった」が54.7%を占め最多回答となりました。

こうした介護職員への待遇改善は、人手不足の深刻化にともなって今や介護業界全体の最重要課題になりつつあります。
2017年から比較すると13万も介護職員の給与は上昇している
一方で近年、介護職の給与は毎年上昇しています。
厚生労働省『平成30年度介護従事者処遇状況等調査結果の概要』によれば、介護職員処遇改善加算Ⅰ~Ⅴを取得している事業所における介護職員の平均給与は、2017年9月時点で29万120円でしたが、2018年9月には30万970円に増加していました。
約1年間で、1万850円アップしていたわけです。
厚生労働省によると、介護職員の平均給与が30万円を超えたのは2018年が史上はじめてとのこと。
2017年~2018年にかけてアップした1万850円の内訳は、基本給が3,230円の上昇、各種手当が3,610円の上昇、賞与などの一時金が4,010円の上昇となっていました。
全体的に介護職員の待遇は好転しつつあります。2018年9月時点の平均年収は、361万1,640円。2017年よりも13万200円上昇しています。
給与が上がった背景には、介護報酬改定によって介護報酬が引き上げられたこと、各事業所が人材確保のため待遇を改善したこと、などが挙げられるでしょう。
では、待遇が徐々に改善しつつあるのに、なぜ冒頭で紹介したアンケート調査では給与に不満を持つ介護職員があれほど多かったのでしょうか。
介護現場での「待遇格差」が問題
現場で働く介護員の給与は平均と比べても軒並み低い
介護職員全体の平均給与は確実に上がりつつありますが、実際には介護職員の給料アップの実感は乏しく、待遇に不満を持っている人が多いのが現状です。
このような事態が起こっている理由のひとつとして、介護職の内部における待遇格差を挙げることができます。
NCCU(日本介護クラフトユニオン)が組合員を対象に行った調査によれば、2017年における介護職の年収は平均350万1,000円でしたが、この平均額を上回っているのは看護職、管理者といった一部の職種のみでした。
現場で働く職員は全体平均額を大きく下回っているのが現状なのです。
例えば、月給制組合員の「訪問系介護職員」だと平均年収は299万5,000円で、介護職全体の平均年収よりも50万円も低くなっています。さらに「通所系介護職員」だと平均年収は285万7,000円で、平均年収よりも60万円以上も低いのです。
一方、「訪問系管理者」の平均年収は393万4,000円、「通所系管理者」だと377万3,000円で、いずれも介護職全体の平均年収を数十万円上回っています。

つまり、管理者と現場で働く職員の給与には大きな差があるのに、平均値で見るとまるで介護職の給与が軒並み高いように錯覚してしまうということです。現場で働く介護職員の待遇は依然として改善が必要です。
介護職の有効求人倍率は3.95倍!深刻な人材不足
現場で働く介護職員の待遇が低いままでは、介護人材がますます不足する事態を招く恐れがあります。
厚生労働省の調査によると2018年度における介護職の有効求人倍率は3.95倍。同時期の全職業分野における有効求人倍率は1.46倍、介護現場では他業界の3倍以上も高いのです。
特に訪問介護員の人手不足は深刻で、その有効求人倍率はなんと13.1倍。訪問介護員1名の求職者に対して、事業所から約13人分もの求人が来ていることになるのです。
介護職の人手不足は、このままでは今後さらに加速する恐れがあります。日本の人口構成を年齢別にみると、人口数が最も多いのは1947~49年に生まれたいわゆる「団塊の世代」です。
2035年にはこれら団塊世代が85歳を迎えますが、85歳以上では、介護を必要とする人の割合は約50%に達します。15年後、日本社会は極度の介護人材不足の中で、要介護者の対応に追われることが予想されるのです。
特別処遇改善加算がかえって不公平感を煽る結果に
介護報酬の範囲内での給与アップは限界がある
また、2019年10月に特定処遇改善制度が新たに施行されましたが、このことが新たな不公平感を生み出す要因ともなっています。
特定処遇改善制度とは、従来の処遇改善加算に加えて、経験・技能のある介護職員に対して追加の待遇改善を行うという制度です。
これにより、職場で最低1人以上、キャリアのある介護福祉士の賃金を月8万円以上アップさせること、もしくは年収を440万円以上にするという新たなルールが定められました。
しかし、新規や中堅の職員にとって恩恵はあまりありません。そのためこの新制度が、新旧の職員間における賃金バランスを崩し、給与に対する不公平感を生じさせているという指摘もあります。
現在、介護事業所の多くは、職員間の賃金バランスや不公平感への配慮などの理由で、特定改善加算による待遇改善に加えて、法人持ち出しによる処遇改善の実施も行っています。
独立行政法人・福祉医療機構が行ったアンケート調査では、こうした法人持ち出しでベテラン職員以外の職員にも加算を行う施設が35%に上ることが明らかにされました。

介護法人の資金=人件費の原資は介護報酬であり、それは公定価格であるために上限が決まっています。各事業所は、限られた費用の中で給与アップにも限界があるのです。
ベテラン職員以外の介護現場全体の底上げが必要
特定処遇改善制度は、介護職員全体の待遇改善にどれだけ貢献することになったのかについては、疑問を残す結果になったといえます。
同制度によって一部のベテラン職員の待遇はある程度改善されました。しかし、全体の底上げをして新規の介護職員を取り入れなければ、介護人材の不足状況を解消することは難しいでしょう。
また、先述した通り、介護職の平均給与は年々上昇してはいますが、全産業平均には及んでいないのが現状です。2018年9月時点における介護職の平均月給30万970円は、全産業平均よりも約6万5,000円も低い額。
時系列で見れば多少給与が上昇したとしても、同年代で他の職種に就いている人の給与と比べたとき、どうしても不満を感じてしまうのではないでしょうか。
今回は、介護職員が抱いている現職への不満と、その背景にある給与の低さについて考えてきました。高齢化の進行によって介護の需要は確実に増えています。介護職員へ処遇改善は今後の大きな課題です。
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2020年9月7日 制定