介護事業者の倒産件数が過去最多の111件!「特定改善加算」を得られない事業所は倒産傾向に…
介護事業者の倒産件数が過去最多に
倒産した111件の事業者の大半が小規模から零細規模
2020年1月7日、東京商工リサーチはレポートを発表しました。その中では、2019年に倒産した介護事業者の件数は、過去最多となっていた2017年と並ぶ111件であることが判明。
介護事業者の倒産件数は、統計の始まった2000年にはわずか3件でしたが、近年は増加。
2016年から4年連続で100件を超えており、深刻な問題となっています。

倒産した事業者の内訳は、「訪問介護」が58件、デイサービスをはじめとした「通所・短期入所」が32件、「有料老人ホーム」が11件、そのほかが10件。
いずれも、小規模から零細規模の事業者の倒産が大半を占めている状況です。
こうした倒産が相次ぐ原因は、介護業界の慢性的な課題である人手不足、およびそれに伴う人件費の上昇が影響していると見られます。
政府は2019年10月に介護報酬を改訂し、現場のリーダー級となるスキルを有したベテラン介護職員に対して、月額平均で8万円の処遇改善を行う特定処遇改善加算を実施。
しかし、こうした介護業界への待遇改善の動きが行われている中でも、事業所そのものの倒産は増加傾向にあります。
今後、高齢社会が加速する中で業界の需要はさらに増えると考えられるため、事業者の倒産問題は大きな課題と言えるでしょう。
介護施設が倒産したとき、一番負担がかかるのは利用者や入居者
この問題について、多くの人が疑問に思うのは、「サービスを利用していた事業所が倒産した場合、その後はどうなってしまうのか」ということではないでしょうか。
一般的な企業では、倒産するような事態に直面した場合、民事再生法のもとに民事再生手続きを取り、事業の譲渡などをはじめとした、事業を継続しながら再建を目指す方法を取ることがほとんどです。
しかし、倒産する介護事業者の多くは、法人を清算し、消滅してしまう破産手続きを取るケースが多くなっているのです。
介護事業でも民事再生手続きを取る例もあり、その場合は譲渡された運営先などによって事業の継続がなされるため、サービスの利用が引き続き可能となります。
しかし、破産手続きを取って事業が消滅してしまった場合は、サービスの継続が見込めないため、継続利用はできなくなります。
特に、老人ホームが破産し、事業が消滅した場合には、入居者は一定の猶予期間のうちに退去をしなくてはいけません。
こうしたケースにおいては、そのほかの介護施設・老人ホームへの転居や、自宅に戻ることが現実的な選択となりますが、これらの費用はすべて入居者が負担することになります。
つまり、倒産は利用者や入居者へ大きな負担を強いることとなってしまうのです。
介護事業が倒産している原因は、人材不足や人材格差
訪問介護事業が多く倒産しているのは、ヘルパー不足によるもの
冒頭で述べた通り、倒産する事業者の中でも半分以上を占めるのが、訪問介護事業です。
先述した東京商工リサーチの資料では、「特に、ヘルパー不足が深刻な訪問介護事業者の倒産が急増」という記述があります。
つまり、人手不足が慢性化している介護業界の中でも、最も人手不足が深刻なのが、この訪問介護業界だと言えるでしょう。
事実、全国ホームヘルパー協議会が2018年に事業者を対象として課題の聞き取りを行ったアンケート調査では、「募集をしても応募がない」という回答が88.0%にのぼり最多となっています。

こうした状況になっている理由は2つあると考えられます。
ひとつは、訪問介護事業に新規参入する事業者が多いということです。
事業者の数が増えれば、人材の奪い合いが発生するため、当然人手が足りなくなります。
そして、もうひとつは、ヘルパーの待遇が魅力的ではないということです。
厚生労働省が2018年8月に発表した資料によると、全産業の平均月収が36万7,700円であるのに対して、訪問介護員の平均月収は21万691円。 15万7,609円という、大きな差が存在しているのです。
特定処遇改善加算を得る・得られないで人材格差が
同じく冒頭では、政府が介護人材の確保を目的として2019年10月から実施した特定処遇改善加算について触れました。
しかし、この加算自体も、業界の中で待遇の格差を生み、小規模な事業者が倒産する原因となっているという声もあります。
この特定処遇改善加算は、リーダー級のスキルを持った介護職員の待遇改善を目的として行われたものでしたが、加算を受け取るためには条件が必要となっているのです。
この条件には、業務の内容に見合った役職や待遇、昇給の条件を整えるほか、スキルアップができるように研修の実施、あるいは機会の提供を行うキャリアパス要件と、育児休暇をはじめとした職場の環境を整備するという職場環境要件が含まれます。
両者を満たすことができる大手の事務所では、この要件を満たせる場合が多いですが、新規参入を果たしたばかり、あるいはそもそも小規模な事業者においては、この条件を満たせない場合もあります。
当然、加算をもらえる方が待遇が良くなるため、大手の事務所ばかりに人材が集中し、小規模の事務所はより人手不足が加速してしまうのではないか、と一部から危ぶむ声が挙がっているのも事実です。
連鎖を招くことが倒産の大きな問題点
サービスの質の低下が懸念される
また、事業所の倒産は、サービスの利用者以外にも影響を与えます。
倒産した場合どうなるのか、という項で触れましたが、事業者が倒産し、事業ごと消滅した場合は、そのサービスの利用者はほかの事業所のサービスを頼ることになります。
そうした場合、新たにサービスを提供することになった事務所では、一気に需要が増えることから、新たな利用者に対応するために職員の負担が増えてしまうのです。
さらに、その影響で職員の労働強度が上がってしまい、人材流出の危険があるほか、提供するサービスの質が低下してしまう可能性もあります。
結果、職員側、利用者側の両方でその事業所への信頼が揺らいでしまうことから、人手不足が加速するほか、新規の顧客を獲得することも難しくなってしまうのです。
つまり、倒産した事業所の利用者を新たに受け入れた施設も、倒産の危機に瀕してしまう、いわば連鎖倒産の危険性を招くのが、倒産の大きな問題の一つだと言えるでしょう。
連鎖倒産を起こさないために、政府のフォローが必要か
2018年、厚生労働省は2025年には介護人材が約245万人必要となり、34万人不足するという推計を発表しました。
現在、まさにこの人手不足により、事業所の倒産が相次ぐ事態となっているのです。
そうした事態への打開策として打ち出された特定処遇改善加算は、確かに介護職員の労働条件や待遇の加算に寄与している部分はありますが、一方で大手と小規模の待遇格差を生む原因にもなっています。
現状では努力をしても条件を満たすことができない新規参入、あるいは小規模事務所について、何かしらの猶予措置を設けるなど、待遇格差が起こりにくくなるような施策を打ち出すことが必要ではないでしょうか。
また、経費削減のためにやり玉に挙げられ、待遇が悪化していることから人材の流出が起こっている訪問介護においても、何らかの対策が必要となります。
ヘルパーの行う生活援助は介護予防や自立支援への貢献を果たしており、今後は高齢者が増えることで対象となる軽度の要介護者が増加する見込みです。
制度の持続可能性を担保しつつ、需要が増えるであろうヘルパーの人材不足を解消するというバランスの取れた施策を行うことが、今まさに政府が行うべきことだと言えます。
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2020年9月7日 制定