年間自殺者が2万人を下回るも、約4割が高齢者…自殺率を減らすには「いきがいづくり」の支援が必要か
統計史上はじめて自殺者が2万人を下回る
1978年以来、最少の1万9,959人(速報値)
2020年1月17日の警察庁の発表によると、2019年の自殺者数は年間1万9,959人。統計を取り始めた1978年以来、速報値で最少となったことがわかりました。
自殺者数は10年連続で減少傾向が続いていて、今回はじめて2万人を切りました。
女性は統計開始以来最少の6,022人となった一方で、男性は女性の約2.3倍の1万3,937人。依然として男性の自殺死亡率が高止まりしているのも特徴です。
2018年と比較すると人口10万人当たりの自殺者は0.7人減少。10万人当たりの自殺率数を示す自殺死亡率は15.8人となりました。
都道府県別に見ると、32都道府県で減少し、14県で増加していました。
最多は東京の2,107人で、大阪1,191人、埼玉1,100人、愛知1,062人、神奈川1,057人と人口の大きい都市部ほど多くなっています。
最少だったのは、人口減少の進む鳥取の80人でした。
日本の自殺者数は依然として極めて高い水準にあることも事実です。
しかし、自殺率は先進7ヵ国中最も高い
自殺は日本が抱える大きな社会問題です。自殺率は、その時々の社会情勢が大きく影響していると考えられます。
日本の年間自殺者は、1997年までは2万人台を推移していました。
1998年に入ると3万人を突破。
14年連続で3万人台が続いて、2003年、統計開始以来最多の3万4,427人にまで増加しました。
バブル崩壊、リストラ、就職氷河期など、景気の不安定な時期には自殺者数も増加します。
厚生労働省が主導して自殺対策を推進するの取り組みもあって、2012年になって再び3万人を割るようになり、昨年2019年まで10年連続で減少傾向が続いていました。
年間2万人を下回った日本の自殺者数。しかし先述した通り、国際的にはまだまだ自殺率(人口10万人当たりの自殺者数)の高さが憂慮されており、先進国7ヵ国(G7)の中では最悪の状態が続いています。
1998年以来、日本の自殺率はG7中トップを独走。自殺率13.0人以下のアメリカやドイツに比べると日本の自殺率15.8人は依然として高いのが実情です。
2017年、政府がまとめた自殺総合対策大綱においても、13.0人を下回る水準を目指す方針が打ち出されていて、国全体で自殺対策に取り組んでいます。
年間自殺者の約4割以上は高齢者
70代以上では自殺者が大きく上昇する傾向に
先進国と比べて高いと指摘される日本の自殺率の中でも、特に高いといわれているのが高齢者の割合です。
2019年の集計では、自殺者の内訳のうち、50代と75歳以上で自殺者が大きく上昇する傾向があります。1月〜11月の自殺者は合計1万9,030人。50代(3,225人)の割合がトップを占めています。
また、自殺者の約4割は70代以上の高齢者(43%)となっています。そして高齢女性の自殺率は、諸外国と比べても高い数字です。
自殺率を年代別に見ていくと、20代では17.6%、30代では18.5%、40代では19.8%、50代では23.6%、60代で19.8%、70代では再び上昇し21.4%、80代以降で21.6%。
高齢社会を迎えた日本にとって高齢者の自殺は深刻です。国民全体が考えるべき課題だといえます。
高齢者の自殺原因の7割は「健康問題」
なぜ自殺者の4割も高齢者が占める状況となっているのでしょうか。背景には、高齢者が抱える特有の問題があります。
ひとつ目は、加齢や病気による身体的問題です。高齢者の自殺の動機の7割は、「病気や健康状態の不調」が占めています。
全年齢では4割なのと比較すると、高い割合です。高齢者は自分自身の健康状態をネガティブに捉えやすく、病気を大きなストレスと感じやすい傾向を持ちます。
また、生活習慣病などの慢性的な病気で長く治療を受け続けるケースが多く、健康問題が解決されるかどうか不透明で諦めの気持ちを持ちやすいのも特徴です。
さらには、配偶者に先立たれた寂しさや、一人取り残されて家族に面倒をみてもらうことへの遠慮など、家族に迷惑をかけたくないという気持ちが強まる高齢者は少なくありません。
そして、配偶者や兄弟姉妹、子など近親者が大きな病気を患ったり、先立たれると大きな喪失感やストレスを感じます。
「自分だけ取り残された」といった疎外感、孤独感に苛まれた末、うつ状態に。
実際、高齢者の自殺の動機の1割は、「家族や親しい人間関係が希薄になったため起こる喪失感と孤立」となっています。
うつ病を抱えた高齢者は特に自殺の危険性が高いとされていますが、精神科や心療内科など医師に相談するのを恥ずかしい、周囲に知られたくないといった理由で拒むケースが多いのも事実です。
家族も加齢を理由に、うつ病ではなく認知症として扱われて治療が遅れる場合もあるなど、高齢者のうつと自殺の関係はまだまだ社会的にしっかり認知されているとは言い難い面があるのです。
防止へ向け医療機関や介護事業者による連携が必要
高齢者の自殺率を減らすためには、どのような方策が考えられるのでしょうか。
自殺の可能性が高い高齢者を見つけた場合、スムーズに精神科につなげる流れが重要です。定期的な見守りとフォローも大切といえるでしょう。
具体的には、厚生労働省の主導する「地域包括ケアシステム」をベースに、地域包括支援センター、精神科や心療内科などの医療機関、介護事業者による連携が求められます。
一方で、厚生労働省では自殺につながるうつ病へのアプローチを医療面から支援する試みを続けています。
うつ病治療に一定の成果がある認知療法や認知行動療法といった心理療法のワークショップを開催。精神医療の従事経験を持つ医師などを通して、地域医療のなかでうつによる自殺率の減少を図っています。
高齢者の自殺は、健康問題をはじめ社会からの孤立感、家族関係や人間関係の変化による不安や喪失感など、さまざまな原因が複雑に絡まり合っています。
特に、うつによる自殺率は高いため、地域全体で高齢者のメンタル的なフォローをしていくことが大切です。
今後は、高齢者が社会とのつながりを感じられる「いきがいづくり」を支援したり、精神的な変化を見逃さず医療につなげたり、さまざまな角度から支援体制を整えていく必要があります。
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2020年9月7日 制定