全国公立病院の3分の1が再編?統廃合はメリットの一方「医療難民」化が起きる可能性も
厚労省は診療実績が少ない病院の統合を検討している
全国440の公立病院の再編リストが確定!
加藤厚生労働大臣は、2020年1月17日の記者会見で、都道府県に対して公立病院の再統合に向けた検討を行うよう通知する旨を明らかにしました。
また、これに合わせて、2019年の9月に再編統合の議論をするように求めた424ヵ所の公立・公的病院のリストに対して、さらに精査を加えた結果を確定版として各自治体に伝えるとも明言。
これにより再編統合の対象となる医療機関の数は、全国で440ヵ所になりました。

医療機関の再編統合の議論は、2019年9月に開催された地域医療構想をテーマとした厚生労働省のワーキンググループにおいて基本方針が定められました。それによると再編統合の対象となるのは、次の条件に当てはまる医療機関です。
ひとつ目は、診療実績が特に少ない公立・公的病院などで、地域内の診療実績が下位3分の1に該当する病院。
ふたつ目は、診療実績が類似する医療機関が、自動車で20分以内の距離にある公立・公的病院などです。
厚生労働省は現在、2020年秋までに全国の再編統合を行うとの計画の準備を進めています。今後、スケジュール通りに計画が進めば、医療事情が大きく変わる地域も出てくるでしょう。
統廃合対象に追加された病院名は非公表のまま?!
2019年9月に再編統合の対象となった424の病院については、すべて公表されていました。
しかし、その後対象医療機関の再検証が行われ、新たに20程度の病院が対象に加わりましたが(昨年版から7つの病院が外れ、確定版としておよそ440)、同省は新たに追加された病院の名前を公表していません。
また、今後の再検証作業によってリストが更新されても、以後はリストの確定版は公表せず、各都道府県への情報提供のみに留めるとの方針を2020年1月に明らかにしました。
厚生労働省がこのような方針転換を行った背景には、リストの公表により、自治体や医療関係者から強い反発があったことが関係しているとみられます。
例えば富山県知事からは「乱暴なやり方だ」と批判が、和歌山県知事は「厚生労働省はやり過ぎだ」と計画の進め方に言及。また、病院名を公表された医療関係者からは「市民は不安に駆られている」や「着任予定の医者から断りの連絡がきた」との声も上がっています。
こうした状況を受け、厚労省は病院再編リストの公開を取り止めたわけです。
医療費は過去最高の42兆6,000億円にまで膨張
では、なぜ厚生労働省は医療機関の再編統合を急ピッチで進めているのでしょうか。その背景にあるのが、日本における医療費の急激な増加です。
同省によると、2018年度の医療費は概算で昨年度比0.8%増の42兆6,000億円となり、過去最高を更新しました。
公的・公立病院の多くが慢性的な赤字体質に陥っていることは現在問題視されており、医療費の削減と最適化を行うことが、急務ともいえる状況です。

こうした中で政府は現在、団塊の世代全員が75歳以上となる2025年を目標に、「急性期」の患者向けの病院ベッドを減らす「地域医療構想」を進めています。
医療機関における赤字経営の要因ともなっている「過剰な病床数」を減らし、病院運営の効率化を目指すのがその目的です。
ところが各地域が医療計画において示した急性期病床の削減率は、公立病院全体でわずか5%にとどまっていました。
この状況を受けて厚生労働省は、縮小する余地のある「過剰な医療の実態」を明らかにすべく新たに分析を開始。その結果打ち出されたのが、今回の「病院の再編統合策」だったのです。
病院が統合・閉鎖されたとしても患者数が減るわけではない
医師の高齢化で地方は深刻な「医療不足」に直面
しかしながら、「下位33%」を再編統合の対象にすると、該当する大半が地方に立地する中小規模の病院です。
専門家からは、「該当地域では人口減少に加えて、交通が不便で地元の患者以外は利用しにくいため自然と患者数は少なくる」「積雪の多さや山間地であることなど、地域特有の事情が考慮されていない」との声も上がっています。
さらに、地方の医療現場では、訪問診療や往診を行う開業医の高齢化、あるいは減少が進みつつあるのが現状です。
厚生労働省の「医師・歯科医・薬剤師調査」によれば、医療施設に従事している医師の数は30万4,759人で、平均年齢は49.6歳(2016年)。
それに対して地方に住む人にとって身近な存在である診療所の医師数は10万2,457人で、医師全体の平均年齢よりも10歳も年長となっています。
また、全国の診療所データをみると、65歳以上である医師の数は3万2,624人。全医師数に占める65歳以上の高齢医師の割合は31.68%にも上っています。驚くべきことに、80歳以上の医師が7,149人、全体の6.98%も占めているのです。
5年後、10年後になると高齢の医師は次第に減っていき、現状において指摘されている医師不足はより深刻になっていくでしょう。
こうした医師の高齢化とそれによる医師不足の進展が懸念される中で、さらに病院の統廃合が重なる事態になれば、地方の高齢者は医療サービスをより受けにくい状況に陥ってしまいます。
統廃合により「医療難民」が発生する可能性も
日本の高齢化は急速に進んでいます。内閣府の『平成30年版高齢社会白書』によると、65歳以上人口は、「団塊の世代」が65歳以上となった2015年に3,387人となり、75歳以上となる2025年には3,677万人に達する見込みです。

団塊の世代が心身衰弱に陥りやすい75歳以上となる2025年を迎えると、病院の病床数もそれだけ多く必要になるのは確実です。
公益社団法人全日本病院協会の『病院のあり方報告書』では、2011年度に80万人だった医療機関の患者数は、2025年には約100万人となり、入院全体では130万人から160万人まで増えると予想されています。
この入院ニーズに対応するためには、2011年時点での病床稼働率を前提とすると、一般病床は110万病床から130万病床程度に、病床総数では170万床程度から200万床程度まで増やさなければなりません。
厚生労働省は先述した通り、医療費削減という名目のもと、病院の合理化を図り、病床の削減を図っています。しかし現実には、高齢化とともに医療現場での公立病院へのニーズはより高まると予想されているのです。
国による削減が進む一方で、医療ニーズが高まるという状況が深刻化すると、入院したくてもできないという「医療難民」を大量に生み出す恐れもあるでしょう。
今回は、公的・公立病院の統合再編について考えてきました。もちろん、人口減少が続く地方都市の医療コストを誰が負担するかは難しい問題ではあります。自治体病院の赤字は税金で穴埋めされており、これが国民負担になるのは避けられません。
しかし、財政面だけを考えて改革を進めると、地方で多くの医療難民を生み出す恐れもあります。豊かな高齢社会を築いていくためにも、今後はさらなる議論が必要です。
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2020年9月7日 制定