「怖い」「イライラ」緊張感が伴う介護職の夜勤。その背景には、人材不足という課題が
日本医労連が介護施設における夜勤の実態を調査
夜勤明けでも働くケースがある施設は全体の約40%
2020年2月10日、医労連(日本医療労働組合連合会)は、介護施設の夜勤の実態を調査発表しました。
調査が実施されたのは2019年6月。調査結果は、調査対象となった全国143施設、4,194人の職員にアンケートを行って得た回答に基づいています。
2交代制で日勤と夜勤によるスタッフが業務している施設87.0%のうち、夜勤の業務時間が16時間以上の設定になっているケースは72.3%にのぼります。
もともと長時間労働となる2交替制が介護現場に大きな負担を強いていることがわかります。
また、夜勤明けの翌日も勤務する施設は全体の40.9%。
グループホームや小多機(小規模多機能型居宅介護施設)・看多機(看護小規模多機能型居宅介護)の全施設で夜勤帯は1人のみ勤務しているという状況も調査から浮き彫りになりました。
2交代・3交代の功罪
介護施設での夜勤は、2交代制と3交代制のいずれかで行ない、2交代制を採用している介護施設が大半です。
2交代制と3交代制では勤務時間や働き方にどのような違いがあるのでしょうか。それぞれ具体的に見ていきましょう。
- 2交代制
- ●勤務時間
施設の業務時間を日勤と夜勤の2つの時間帯に分ける勤務スタイルです。
たとえば、日勤が9時から17時まで8時間の場合、夜勤は17時から翌朝9時までの16時間勤務となります。2交代制を採用している大半の施設の夜勤は16時間勤務です。
●休憩
2交代制の休憩時間は1〜2時間程度。
●メリット
夜勤明けの翌日は公休になるので、一般的な働き方よりも自由な時間が長く使える。
●デメリット
1フロアを長時間1人で担当する施設が多く、夜勤の拘束時間が長い。
- 3交代制
- ●勤務時間
施設の業務時間は早番、遅番、夜勤の3つの時間帯に分かれます。よくある時間帯の分け方は、早番が6時から12時まで、遅番が12時から17時、夜勤が17時から翌朝6時という分け方です。
●休憩
1時間程度
●メリット
1回の勤務時間が少ないため、体力的な負担は少なくて済む。
●デメリット
3交代制では夜勤明けのその日が公休となるので、休日数は少なくなります。
このように、2交代制は、夜勤の回数が少なく休日が多くなるといったメリットがある一方で、1回当たりの夜勤が長時間労働になる点、また、施設のうち4割で仮眠室がしっかり整っていないなど、ワークライフバランスを図るのが難しい勤務体制 といえるでしょう。
ワンオペ夜勤が多い介護業界の背景には、人材不足の課題が
介護施設における、緊張感がともなう夜勤の仕事内容
実際の介護現場では、どのような夜勤業務があるのでしょうか。
夜勤の主な業務内容は、入居者が就寝するまでの介護、就寝後の定期巡回やナースコールなどの対応、起床後の介護です。
- 就寝するまで
その後、夕食の介助、着替えや歯みがき、トイレ介助、そしてベッドの移乗介助など、就寝に備えます。
- 就寝後
ナースコールの対応もあるため、トイレ介助のほか体調がすぐれない入居者の対応も含みます。
入居者の就寝中に、休憩や仮眠を取りながら交代で業務していく施設が一般的です。
- 起床後
朝食の介助後、洗顔や歯みがきなど朝の身だしなみを整えるお手伝いもします。
日勤の職員に夜勤中の入居者の健康状態や異常点を引き継ぎ、交代します。
介護施設の夜勤業務は大半が1人でワンフロアを担当します。
入居者の状態に応じて、体調不良時の対応、急病や怪我など緊急時の看護師への引続きや救急車の手配、AEDを含めた心肺蘇生など、臨機応変に対応しなければなりません。
このような業務を1人で行なう介護施設の夜勤は、心身ともに非常に緊張感をともなう業務だといえます。
ワンオペがはびこっている原因は、離職率の高さが原因だという声も
1人で幅広い夜勤業務をこなさなければならない介護施設。
なぜ現場では夜勤のワンオペが一般的なのでしょうか。
背景には介護業界の慢性的な人材不足があると考えられます。
日本の65歳以上の人口は、2017年10月1日現在で3,515万人。
日本の総人口1億2,671万人の高齢率は27.7%にのぼります。
総人口は減少する一方で高齢者は増え続ける超高齢社会に近づくにつれて、介護を必要とする人も増加傾向にあります。
一方、事業所対象の調査では、「良質な人材の確保が難しい」56.3%、「今の介護報酬では、人材の確保・定着のために十分な賃金を払えない」48.0% といったように、人手不足に悩んでいるのが実情です。
介護職員の離職者のうち、勤続年数が3年未満だった割合は全体の約6割。
せっかく人材を確保しても定着率の低さが問題となっています。
新規の職員採用も困難な上に、離職率が高いため常に従業員が不足しているなかで運営が求められています。
また、小多機と看多機では、特養や短期入所生活介護などと違って利用者に応じた職員配置要件の定めがないのも大きく影響しています。
そのため、施設ごとに規模や利用者の心身状態は大きく異なっていても、介護職員が夜勤でワンオペを続けなければならない実態が改善されないままなのです。
夜勤を4日連続で行なった場合、事故の相対リスクが36%増
夜勤に潜む身体への影響
かねてより、夜勤はサーカディアンリズム(概日リズム。体内時計とも)を乱すワークスタイルであると言われてきました。
IARC(国際がん研究機関)では、サーカディアンリズムを乱す交代勤務は「おそらく発がん性がある」として発がん性リスクを指摘しています。
がんをはじめ、生活リズムとの関係から睡眠障害や肥満、うつになりやすく、心疾患や糖尿病といった生活習慣病の疾患リスクも高まるため、身体へのダメージは計り知れません。
しかも、夜勤明けは注意欠陥が生まれやすいのも問題です。
本人は起きているつもりでも、「マイクロスリープ」と呼ばれる、わずかな時間の睡眠状態が頻発。
実際、夜勤を4日連続で行なった場合、1日目の事故の相対リスクを1.0とすると4日目には1.36と、36%増加。
業務中の重大ミスの誘発を招く報告もされています。
さらに、夜勤者は高い自動車事故率をマークするデータもあるなど、夜勤が心身状態に大きな影響があるのは明らかだと考えられます。
夜勤による健康リスクを分散させることが大事である
さまざまなデータからも、夜勤は業務の重大なミスを招きやすく、それは直接入居者の生命に関わるおそれもあります。
とはいえ、入居者は24時間介護を必要としているため、夜勤は必要不可欠です。
そのため、夜勤による健康リスクを分散させて、現場の職員の身体的、精神的な負担をいかに減らせるかがポイントとなります。
医療や介護現場の労働者の夜勤規制を進める日本医労連では、
- ●1日8時間以内
- ●勤務間隔12時間以上
- ●週32時間以内
を目標に夜勤交代制労働者の労働時間改善を訴えています。これは、夜勤交代制労働の国際基準「ルーテンフランツ9原則」に基づくもので、
- 1.夜勤の継続は最小限にとどめるべきである
- 2.朝の始業開始時間は早くすべきではない
- 3.勤務の交代時刻は、個人レベルで融通性を認めるべきである
- 4.勤務の長さは、仕事の身体的・精神的負担の度合いによって決めるべきで、夜勤は日勤より短時間が望ましい
- 5.短い勤務間隔時間は避けるべきである
- 6.少なくとも終日オフの2連休の週末連休をいくつか配置すべきである
- 7.交代時間の方向は正循環がよい
- 8.交代周期(シフトの一巡)の期間は長すぎてはいけない
- 9.交代の順序は規則的にするべきである
など、諸外国と同じように国内でも夜勤を含む労働者の健康と生活を保護する法的整備は喫緊の課題となっています。
しかし、日本の介護現場は、こうした夜勤の国際基準とはかなり乖離しています。
最大の要因は、労働者のワークライフバランスを十分に実現しながら2交代制を維持するだけの人材確保が難しいことです。
介護や看護の現場では、入居者や患者の生命と健康を24時間体制でケアし続ける重い責任を負っています。
一つの小さなミスが利用者の命に関わる事態を招く可能性もあるなど、労働者の多大な負担を強いる職業です。
夜勤が避けられない以上、政府は人材確保につながる介護報酬の改定を一層手厚いものにしていく必要があるのではないでしょうか。
賃金や待遇を含めて介護職を魅力的なものに変えていくことは、職員の健康を下支えすることにもつながります。
事業所だけの力では人材の採用や定着は難しい今、国の思い切った対策が望まれます。
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2020年9月7日 制定