2020年4月に介護保険料の大幅値上げが!サービス利用者が増加する以上、保険料の上昇は避けられないか
当初の倍以上!上昇の一途をたどる介護保険料
大幅値上げになる介護保険料
2020年4月から、大企業を中心とした会社員の介護保険料が大幅に増額します。これは、2017年の介護保険法の改正で、所得に応じて保険料が算出される「総報酬割」という制度が導入されたことが原因です。
総報酬割は2017年の8月から段階的に導入されていましたが、2020年度からは全面的な導入が開始。大企業などが主に属する健保組合を対象とした緩和措置が撤廃されるため、保険料の増額が見込まれています。
企業の健保組合は、それぞれ国に保険料を支払うために必要な保険料率を設定しますが、日経新聞の記事によれば、テレビ朝日が1.2%から1.9%にすることを決定。
高島屋も1.52%から2.0%に増額するなど、多くの企業で保険料率が大幅に上がることがわかっています。
下の図表は企業が設立する健康保険組合を会員とする組織「健康保険組合連合会」(けんぽれん)の資料です。

高齢化が進み、サービスの利用者や一人当たりの給付額も増えた影響で、負担額は年々増加。2019年にははじめて10万円を突破するなど、当初の倍以上となっていますが、上記の総報酬割の導入で、2022年には13万4,823円になると推計されています。
背景にあるのは「2022年危機」
介護保険とは、40歳以上の人が被保険者となり、保険者である市区町村に保険料を納付する代わりに、一定の条件を満たして要介護認定を受けた方が、介護サービスを1~3割の料金負担で受けられるという制度です。
このため、高齢化が進み、サービスの利用者が増加した場合、制度を持続するために保険料の上昇は避けられないものとなります。
今回、総報酬割による介護保険料の大幅な増額が起こった背景にあるとされているのが、「2022年危機」です。一般には団塊の世代が全員後期高齢者となることで、社会保障費の増大が起こるとされる2025年問題が知られています。

しかし、全国の企業健保組合の連合組織である健康保険組合連合会は2019年の9月に発表したレポートの中で、「団塊の世代が後期高齢者になり始める2022年からこうした現象が起こり始める」と指摘。
これを2022年危機とし、実質保険料率が10%以上となる組合が4割を超えるなど、危機的な状況が発生すると述べています。
また、主に中小企業が属する全国健康保険協会においても、2019年の3月分からの介護保険料率は1.79%と、2009年時点の1.19%から大きく上昇。企業の規模にかかわらず、保険料は上昇傾向にある状況です。
介護保険制度の課題は財源!
以前の制度は中高所得層にとって重い負担になっていた
そもそも、介護保険制度が創設された背景には、高齢者の介護を社会全体で支えるという目的がありました。
高齢化社会を迎え、介護が必要となる高齢者の数が増加する中で、高齢者を家族で支えるという従来の対応が困難になったことで、こうした制度が作られたと言えるでしょう。
また、介護保険制度以前の老人福祉では、利用料金が収入に応じた応能負担であったことで、所得が一定以上ある人たちにとっては重い負担になっていました。
また、市区町村などの地方自治体がサービスを決めるために、利用者が必要とするサービスの選択をできないなどの問題も発生していたのです。
そのため、介護を必要とする人が、相対的に利用者負担が少ない老人医療へと流れ、一般病院への長期入院問題が発生し、医療費が増大するという事態が発生。これを問題視する声が多く上がっていました。
そのため、高齢者が自立することを支援する「自立支援」、利用者が本当に必要なサービスを選択できる「利用者本位」、給付と負担の関係が分かりやすい「社会保険方式」を基本理念とした介護保険制度が、これらの問題を解決すべく創設されたのです。
お金が足りない…介護保険料、財源の問題点
この介護保険制度の財源となるのは、公費と保険料です。
2015年に厚生労働省が発表した資料によれば、2016年度の介護保険の予算のうち、公費では、国庫負担金25%に加えて、地方自治体の負担金として、都道府県が12.5%、市区町村も都道府県が12.5%拠出しています。
保険料では、65歳以上である第1号被保険者の保険料22%、40歳以上65歳未満である第2号被保険者の保険料28%と、公費と保険料が半々になるような構成となっています。

しかし、上記の2022年危機をはじめとして、今後高齢化がさらに進んでいき、合わせて現役世代となる第2号保険者の数が減っていくと、現在のような形での財源の確保が難しくなることはほぼ確実です。
今回の保険料の増大についても、その対策の一つとして行われたものだと言えるでしょう。
くわえて、厚生労働省は、介護保険の自己負担額の引き上げや、一定以上の介護サービス費がかかる際に、自己負担額を抑える制度である高額介護サービス費の引き上げ、ケアプランの有料化などを検討。
財源の入り口となる保険料の値上げに加えて、出口となる給付についても、少なく抑えることで、制度の持続可能性を高める改革に着手しようとしています。
とはいえ、同じく2015年に発表された厚生労働省の「国民生活基礎調査」によれば、65歳以上の高齢者がいる世帯での貧困率は27.0%。
高齢単身世帯の場合は男性で36.4%、女性で56.2%という高い割合です。
高齢者の貧困問題が大きな問題となる中で、こうした負担を重くする改革を行うことは、現実的ではないのではないかという声が上がっています。
そもそも、高齢者の介護リスクを社会で支えるという理念のもとで行われているこの制度で、高齢者の負担を増やしてしまうことは本末転倒だと言えるのではないでしょうか。
財源確保は急務!国や企業も負担を増やす
負担のみで、給付が伴わない制度を見直す
こうした中で、急務となるのは新たな財源の確保です。
財務省が公表している「介護保険制度の現状と課題」という資料では、介護保険制度の問題として、今後急速に増加する介護授業にすべて対応することは財政的に難しいことを指摘。
医療との連携や、政府が打ち出している地域包括ケアの有効性についても、制度の持続可能性でどの程度の貢献が可能なのかという疑念を呈しました。
さらに、財政面の問題への対策として、「対象者の限定」「支給限度額の引き下げ」「負担額の引き上げ」「第2号被保険者の拡大」「制度の効率化」という5つの方策についても同資料では検討。
このうち、制度の効率化については、市町村単位から都道府県単位に保険者機能を強化し、制度の能率化を進めるべきとしていますが、そのほかの方策については、デメリットがあると述べられています。
要介護1以下を対象外にするという対象者の限定や、支給限度額の引き下げについては、財政的な寄与が小さく、負担額の引き上げについても、所得や資産の把握が問題となると分析。
第2号被保険者の拡大についても、負担のみで、ほとんどの場合で給付が伴わない制度であることが問題ではないかと懸念を示しています。
また、2019年の10月には、全国保険医団体連合会の住江会長が、上で述べた厚生労働省の自己負担引き上げなどの改革案について反対し、国や企業の負担を増やすことで、保険料や自己負担を下げるべきとの意見を表明。
国民の負担を増やすことで、制度の持続可能性を上げようとする方策に対し、「待った」の声を上げています。
もちろん、社会保障費の増大をはじめとした国庫の圧迫も大きな問題であることはたしかです。とはいえ、国民のリスクを抑えるための制度が国民の負担を上げるという事態を回避するためにも、安易な負担増を選択するべきではありません。
その代わりに、国や企業が連携して介護保険制度を支えていく、新たな制度設定が必要となっていると言えるのではないでしょうか。
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2020年9月7日 制定