認知症カフェは気軽に相談できる地域福祉の入口。運営上の3つの課題をどう解消する?
今年1月27日に厚生労働省が発表した「新オレンジプラン(認知症施策推進総合戦略)」。厚生労働省の資料によると、高齢者の約4人に1人が認知症またはその予備軍と考えられています。高齢化の進展により、認知症高齢者は今後もますます増えていくでしょう。
新オレンジプランが目指しているのは「認知症の人が尊重され、住み慣れた地域で自分らしく暮らし続ける社会」。何ともあいまいな表現ですが、要は認知症になっても自宅で暮らせる仕組みや社会を構築していこう、という方針のようです。
確かに、本人の意思に反して施設に入所したり、息子や娘などが住む都市部等へ転居することは、高齢者にとっては大変なストレスとなるのは想像に難くないでしょう。
できることなら、住み慣れた地域で環境を変えずに生活したいものです。しかし、そのためには地域の受け皿、仕組みづくりが必要。その担い手のひとつとして注目されているのが「認知症カフェ」です。
運営母体はNPO法人が約3割。中には自宅を開放するタイプの認知症カフェも
お菓子を食べたり食事をしたり…認知症カフェは「誰もがゆっくり過ごせる」場所
認知症カフェとは、厚生労働省によると「認知症の人と家族、地域住民、専門職等の誰もが参加でき、集う場」と定義されています。
認知症カフェには、認知症高齢者本人はもちろん、その家族や関係者だけでなく、医師や看護師、ケアマネージャーなど認知症に関わるさまざまな人が参加しています。
気軽に介護について情報交換や相談ができる場所として普及しつつありますが、その数は不足しているようです。
(社)認知症の人と家族の会が28箇所の認知症カフェに対して行った調査によると、認知症カフェで実施されている内容は以下のようになっています。
認知症カフェが開かれる場所はさまざま。一般的なのは、地域包括支援センターなどの福祉施設や公民館ですが、なかには自宅を開放したものもあります。
NPO法人(11件) | |
社会福祉法人(5件) | |
当事者(5件) | |
市町村(4件) | |
医療機関(2件) | |
医師(1件) | |
その他(5件) | |
回答なし(3件) |
病院施設(7件) | |
民家(5件) | |
店舗(4件) | |
行政社協(3件) | |
その他(12件) |
カフェでは、お茶を飲みながら、日頃の介護の悩みについて相談したり、たわいない雑談をしたりと、和気あいあいとした空気が流れています。
認知症カフェが介護サービスと一線を画すのは、利用者が主体性を持って過ごせること。ご存知のとおり、介護サービスの場合、ケアプラン等に基づいて決められたプログラムを利用者が受けることになります。
この形では、利用者はどうしても受け身の立場になってしまい、「介護をする側と介護をされる側」という側面が強調されてしまいます。結果的に、認知症というレッテルを利用者に貼ることになってしまうのです。
認知症カフェでは、特にプログラムを用意せず、過ごし方は自由。時間の使い方を自分で決めることができます。認知症の人としてではなく、ひとりの人として過ごせる場なのです。
医師の診察を受ける前でも利用可。認知症カフェは気軽に相談できる地域福祉の入り口
認知症がやっかいなのは、その症状が認知症かどうかわからないという点。普通に会話できる高齢者が万引きをしても認知症かどうかすぐに判断することはできないでしょう。
例えば高齢者が万引きをしてしまったとして、家族は万引きの事実を重く受け止めることはあっても、病院に連れていくことはしないかもしれません。なぜなら、医師に診せることは心理的に重い決断になるからです。
しかし、認知症カフェのような気軽に相談できる場所があればどうでしょうか。自分だけで認知症の問題を受け止めることはせず、話すことで気持ちが軽くなることが実感できるはずです。
実際、認知症カフェでケアマネージャーと出会い、相談を重ねるうちに介護サービスに繋がったケースが多々あるようです。
前述のとおり、高齢者の約4人に1人が認知症またはその予備軍と言われる時代。診察を受けず、自宅で過ごす認知症高齢者は相当数にのぼると見られています。そのような方たちが気軽に利用できる「認知症駆け込み寺」としての活用が今後期待されています。
運営上の主な課題は3つ。中でも、年間200万円以上にも上る運営費の負担は深刻!?
地域の新たな福祉の担い手として期待されている認知症カフェ。運営上の主な課題を挙げてみました。
1.情報共有と運営のモデル化
日本では認知症カフェがそれぞれのやり方で、手探り状態で実践しているのが現状。
認知症カフェ運営のノウハウが共有されていないのです。
イギリスのメモリーカフェやオランダのアルツハイマーカフェでは、これから認知症カフェを始めたい人に向け、運営ノウハウの提供や資金調達の相談などを行っています。
2.市民ボランティア等担い手の確保
大半の認知症カフェは、市民ボランティアに依存して運営されています。
現在、月2回程度しか開催されていない認知症カフェを月4回、5回と開催するとなれば、人の確保が困難となることは想像に難くありません。
また、認知症カフェのボランティアには、認知症に関する一定の知識が必要。
今後、認知症カフェを広めていくには、人材の育成が急務です。
3.資金難
認知症カフェの利用者負担額は200円~300円。
収入はわずかなものです。
また、年間の運営費用は200万円以下が約5割と運営費に苦慮している姿が浮かび上がります。
認知症カフェのなかには、家賃の支払いに窮している団体もあるようです。
継続的な運営には行政からの支援が必要かもしれません。
10万円未満(4件) | |
10~50万円(8件) | |
50~100万円(0件) | |
100~200万円(3件) | |
200万円以上(9件) | |
その他(3件) | |
回答なし(1件) |
自己資金(15件) | |
本人負担(14件) | |
助成金(10件) | |
その他(5件) | |
回答なし(2件) |
どれも解決が困難なものですが、とりわけ資金難はどの運営団体にも共通の課題のようです。
公益財団法人認知症の人と家族の会によると、運営費は自己資金または本人負担が約6割を占めています。認知症カフェは公益性の強い事業にもかかわらず、助成金を受けているのは約2割程度と現状では少ないと言えるのではないでしょうか。
助成金は必要…でも、それだけでは継続的な運営が難しい
認知症カフェは公益性の強い事業なだけに助成金は必要でしょう。
現在のところ、認知症カフェに対する自治体の姿勢はさまざまです。
認知症ケアに比較的熱心と言われている東京都や長野県。
板橋区や八王子市、長野市では、認知症カフェ(もしくは認知症サロン)に対する助成金が用意されています。
しかし、このような取り組みは一部自治体に留まっているようです。
今後、助成金を設ける自治体の数は徐々に増加すると予想されます。
認知症カフェの運営主体となっているNPO法人や社会福祉法人、個人などにとっては有難い話でしょう。
しかし、往々にして助成金による運営は継続的な運営を困難にします。
運営費を助成金に依存する傾向があるためです。
板橋区の「板橋区認知症カフェ運営金交付要綱」を確認すると「補助金額は(中略)経費の100パーセントとする」とあります。これでは、補助金がなくなってしまえば、認知症カフェが立ち行かなくなってしまうことは容易に予想ができます。
そこで、クラウドファンディングを活用するのも一案です。
クラウドファンディングとは、不特定多数の人がインターネット経由で財源の提供を行うことです。
クラウドファンディングの月末累計支援額は右肩上がり。
SNSやブログが普及するなかで、大変な勢いを見せています。
前述のとおり、認知症カフェには、認知症高齢者本人はもちろん、その家族や医療専門職など不特定多数の人が関わっています。
認知症カフェの趣旨に賛同する個人はたくさんいるはずです。事業案をインターネット上で公開し、財源を得ることができれば、継続的な運営の一助となるでしょう。とにかく、事業である以上、あらゆる資金調達の手段を試してみる必要があるのではないでしょうか。
施設介護から在宅介護は現在の高齢者介護の大きな流れと言えます。介護保険の財政難と介護サービスの担い手不足は当分解決しそうにもありません。今後、地域包括ケアシステムの名のもと、認知症カフェの重要性はより高まっていくはずです。
認知症カフェには、資金難のほか人材確保などさまざまな課題があります。我々地域住民は認知症カフェを他人事に捉えるのではなく、まずは関心を持つことが大切です。
無関心こそ最大の敵。関心を持つ人が増えれば増えるほど、市民ボランティアなどの多様な参画者が現れ、認知症高齢者が住みやすい地域づくりが可能になるのではないでしょうか。
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2020年9月7日 制定