年間10万人以上の介護離職者数は今後も増える一方!? 安倍政権が掲げる「新3本の矢」、介護離職ゼロはどうすれば実現できる?
去る今年9月24日、安倍総理は「新3本の矢」を発表しました。
第1の矢が「希望を生み出す強い経済」(名目GDP600兆円)、第2の矢が「夢をつむぐ子育て支援」(出生率1.8)、そして第3の矢が「安心につながる社会保障」(介護離職ゼロ)。
それぞれの矢に数値目標が定められ、実効性のある政策が期待されています。
これまで、安倍内閣では「3本の矢」を主軸に政策を実行してきました。「大胆な金融緩和」「機動的な財政出動」「民間投資を喚起する成長戦略」と経済重視の姿勢を鮮明にし、景気回復に重点を置いてきたのです。
「新3本の矢」でも“経済重視”の方向性は変わらず。
「3本の矢」では、経済政策のみが挙げられていましたが、今回は出生率や介護離職にも言及し、国民生活に身近な政策となっています。
果たして、「新3本の矢」は実現できるのでしょうか?今回は、「安心につながる社会保障」(介護離職ゼロ)に重点を置いて考えてみます。
介護による離職はイバラの道か…。正社員待遇の転職は難しく、年収ダウンも必死
男性は4割、女性は5割!介護離職による年収ダウンの現状とは?
介護離職ゼロとは「家族を介護するために仕事を辞めること」と定義されています。介護を理由にして離職する年齢層は、40代~50代がメイン。この年齢層は、企業のなかで管理職として活躍している場合も多いでしょう。
特に、中小企業にとっては長年勤務してきた労働者が離職することは大幅な戦力ダウンになってしまいます。
離職は、本人の収入減になるだけでなく、企業活力の低下にも繋がるという話ですね。
だからこそ、経済政策を重視する安倍内閣は「介護離職ゼロ」を掲げたわけです。
総務省統計局の「平成24年度就業構造基本調査」によると、過去5年間に介護・看護のため離職した人数は、48万7000人(男性:9万8000人、女性:38万9000人)。ざっと計算しただけでも、毎年約10万人が離職している計算になります。

明治安田生命福祉研究所と公益財団法人ダイヤ高齢社会研究財団の共同調査によると、離職の最大のきっかけは男女とも「自分以外に親を介護する人がいない」。
兄弟姉妹数の減少や未婚化・晩婚化により、介護の担い手が減少し、自分がやらざるを得ない、そのような状況がうかがわれます。

離職後は厳しい現実が待ち受けています。先の調査によると、平均年収が男性で4割、女性で5割ダウン。正社員に転職できたのは、男性は3人に1人、女性は5人に1人にすぎません。

男性の約3割、女性の約6割はパート・アルバイトとして働いている様子が浮き彫りになっています。転職市場が整備されていない日本では、高齢になればなるほど、正社員での転職は厳しくなります。
介護保険制度による給付があるとはいえ、満足のいく介護環境で親の生活の面倒をみようと思えば、一定の金額が必要です。自分の生活費ももちろん必要ですし、アルバイト・パートで得られる金額だけで面倒をみるのは難しいと言わざるを得ません。
介護のため働くことができず収入が激減し、深刻な貧困に追い込まれるケースもあると聞きます。なかには、介護をきっかけに生活保護受給を余儀なくされる家庭もあります。
“介護職員の離職”問題もいまだ深刻。離職率は16.5%で下げ止まりか!?
首都圏で介護施設を増設予定…でも、介護職員の確保は非常に困難
国は「介護離職ゼロ」に向けた具体的な施策として、首都圏で不足が顕著となっている介護施設の増設を掲げています。すでに過密状態となっている首都圏では、介護施設を新設する土地がありません。そこで、国有地を低額で事業者に貸し出し、増設を図る方針です。
厚生労働省によると、特別養護老人ホームに入所できていない高齢者は、52万2000人(2013年度調査)。前回調査より約10万人の増加となっています。今なお高齢化がより進展していることを鑑みれば、待機者数は増えていると見て間違いないでしょう。
国は、「介護施設を増やして待機者数を減らせば、介護離職が減る」という考えのようですが、事はそう単純ではありません。まず、施設運営を担う介護職員の確保が難しい。現状でさえ、介護職員が足りていないのにもかかわらず、どのようにして実現するのでしょうか。
介護職員の確保策として、真っ先に思い浮かぶのは、介護職員の処遇改善です。これまで政府は、「介護職員処遇改善交付金」などの施策を実行してきました。
しかし、依然として介護職員の賃金は他産業より低いまま。そして、離職率は16.5%。離職率が下がってきたとはいえ、ここ数年で下げ止まり感がある上、介護事業者に厳しい介護報酬改定の煽りを受けて、今年以降はさらに離職率が上がる可能性も高くあります。

つまり、高齢者福祉を担う介護職員はいっこうに増えていないのです。これでは、政府が目指す介護施設増設は絵に描いた餅になってしまうかもしれません。
2015年度版の高齢社会白書によると、高齢者の要介護者数等は急速に増加しています。
2012年度末の要介護者等認定者数は、545.7万人で、2001年度末から258万人も増加していることがわかります。
今後も増加傾向は変わらないでしょう。
高齢者介護はより深刻な問題になっています。

介護離職を減らすためにできることとは?
介護休暇の利用実績は0.14%という衝撃の数字…!介護のために休めないのが日本の現実
では、「介護離職ゼロ」を実現するにはどうしたらよいでしょうか。介護をしながら仕事をすることが当たり前の社会をつくることが肝要です。
まず介護に対して寛容な職場づくりが必要でしょう。日本では、仕事を休みにくい風潮が往々にしてあり、休暇取得をためらう傾向があります。介護は誰もが直面する問題。仕事をシェアするなどして、職場で協力体制を築くことが大切です。
介護者のために設けられている制度として知られているのが介護休業制度です。
介護休業制度では、要介護状態にある家族を介護するために、合計93日を上限として休暇を取得できます。
便利な制度のように思えますが、実はあまり使えないもの。
特に問題視されているのは、所得保障です。
残念ながら、事業主には、休業中の賃金支払いは義務付けられていません。
雇用保険法により休業前の賃金の約40%が支給されますが、十分な金額とは言えないでしょうし、そのことはわずか0.14%という取得率からも見て取れます。
介護休暇制度の利用状況
男 | 女 | 男女計 |
---|---|---|
0.08 | 0.22 | 0.14 |
そのため、賃金の支払い対象となる有給休暇を充てるケースが大半です。
有給休暇の上限は40日。
介護は長期に渡って考えなくてはならない問題にもかかわらず、40日しかないのです。
これでは、落ち着いて介護について考える時間を確保するのは難しいかもしれません。
有給休暇を使い果たせば、それからは無給、減収を余儀なくされることに。
金銭的な不安は常につきまとうのです。
制度改革の実現には時間がかかるか!?まずは会社単位での意識改革を
現行の介護休業制度を見直す動きがあります。11月8日の記者会見で、加藤一億総活躍担当大臣が介護休業制度に言及しました。介護休業を分割して取得できるようにし、休業中の給付金額の引き上げも検討する方針です。
歓迎すべき話ですが、気がかりなのは「すぐにやってくれるのか」どうか。政府内調整に時間がかかってしまっては意味がありません。
結局、介護離職ゼロを実現するための制度改革にはもう少し時間が必要でしょう。国の施策に期待しすぎても、肩透かしを食らう可能性まで考えておいた方が良いでしょう。
それよりも、会社単位で介護について真剣に考えていくほうが早いかもしれません。企業トップが中心となって、就業規則を見直すことや職場復帰のための方法を練るなどできることはたくさんあるでしょう。
介護は誰もが直面する問題。自分自身が当事者になることもあるのです。そう考えれば、介護について理解ある職場づくりに快く協力できるはず。介護への理解を深め、政労使が協働し、「介護離職ゼロ」を目指したいものです。
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2020年9月7日 制定